狂宴のあと……②
「皇女殿下、とにかく喫緊の問題はファニラ神殿を取り巻く現状を打開することにあります」
ネヴィア聖神官は重々しい口調で現在の状況を説明してくれる。
聖神官の表情が優れないのも当然だ。
現在、皇帝軍(近衛軍・アリスリーゼ討伐軍・カイロニア公国軍)と反皇帝軍(ライノニア公国軍・フォルムス帝国軍・アルセム王国軍)は中立の立場である教皇陣営の教導騎士団が護るファニラ神殿を中心に一触即発の状態で相対していた。
その状態で会議に出席していた各陣営代表者の大半の命が失われてしまったので、指揮系統が滅茶苦茶になり、各陣営は対応に追われて右往左往しているらしい。
「当然、ライノニア・カイロニア両陣営も今回の一件を皇帝陣営の暴挙と考えているようです。一つ間違えれば皇帝直轄の近衛軍は、味方であったカイロニア軍も含めた他の軍勢に包囲殲滅される危険性があります。しかも、今回の停戦会議は教皇聖下の御名で参集されたものですので、我々教皇陣営もその企みの片棒を担いだと見なされています」
まあ、皇帝陣営と教皇陣営の生存率を見れば、こちらの犯行と考えるのは当然と言える。
「皇帝側も現在、別室で協議を重ねているようですが、こちらと共闘する気はなさそうです。いったい、どうするつもりなのかは見当もつきません」
ネヴィア聖神官は困惑の表情を隠さない。
「我々は、いざとなれば無理やり教導騎士団に護られ中央大神殿に帰還することも可能でしょうが、皇帝陣営は無理でしょう」
皇帝と側近だけならハーマリーナの転移魔法で脱出は可能かもしれないけど、軍を置いて逃げ出したら、それこそ皇帝としては終わりだろう。
「つまり、皇帝陣営は、こちら以上に危機的状況な訳だ」
「殿下の仰る通りです。このまま行けば弔い合戦の様相で内戦が再開されることになりかねません。しかし、今後の帝国運営を考えれば、何としてでも阻止しなければなりません。そもそも我々はそのために今回の会議を催したのですから」
確かに教皇陣営の思惑は、内戦を収め帝国の安寧を図ることが目的だった訳で、多大な犠牲を払って失敗しましたでは目も当てられない。
「ここは、ゾルダート教の暗殺者が停戦会議を襲撃し殺戮を行ったと喧伝し、皇帝陣営も我々も等しく被害者であったと主張する他ありません。まあ、実際にそれが真実に最も近いのですが……。この場合、リシュエット全権大使が生き残ってくださったのは、まさしく僥倖としか言い様がありません。第三者の立場で我々の無実を証言していただけるのを期待しましょう」
そうは言っても彼女も外交官だ、そう都合よく証言してくれると限らないのだけど。
「そして、ここからが殿下へのお願いなのですが……」
ネヴィア聖神官は期待を込めた目でオレを見る。
ん、何か嫌な予感。
「貴女様には皇女殿下として、各陣営との停戦交渉をお願いしたいのです」
何ですと?
「本音を申し上げますと、本当は今のアリシア皇帝には退位していただき、殿下が正統な皇帝として即位していただくのが、一番最良な選択なのです。しかしながら、イーディスと申しましたか……現皇帝がそれを受諾するとは到底思えません。そのため代案として……」
「何を仰るのネヴィ兄様。アリシアちゃんが皇帝になるのは当然でしょう? 他の選択など考えられませんわ!」
レリオネラお祖母様が血相を変えて否定する。
「レリィ、君の言うことは尤もだ。けれど、政治というのは正しいだけでは通らないことも君だって、よく承知しているだろう?」
「それはそうですけど……」
「まずは帝国を安定させることが先決なのだ。太皇太后でもあり、賢い君ならも当然理解しているとは思うけど」
「……もちろんですわ」
物凄く不満そうだけど、納得の言葉を口に出す。
さすが、お兄様。妹の扱いに慣れている。
あの、一度決めたら後には引かないお祖母様を上手く制御できるなんて、さすがとしか言い様がない。まあ、お祖母様だって若いころは政治の中心にいたこともあるので、その辺りは嫌というほどわかっているに違いないのだろうけど。
「話を戻しましょう。本来であれば『帝室典範』によっても皇帝の長子である貴女様が皇帝に即位するのが最も相応しいのですが、現状ではさらに混乱を招く結果になりかねません。ですので皇帝問題はもう少し情勢が落ち着いてから取り沙汰したいと考えています」
ネヴィア聖神官も無念そうな表情を浮かべ、最良の案とやらを諦めたことを告げる。
あの……二人ともオレを皇帝にする気満々なのですけど。
オレの気持ちは聞いてくれないのだろうか?
「したがって、殿下におかれましては今回、皇女殿下の立場で各陣営と停戦交渉を行っていただきたいと存じます」
「な、何でそうなるの? 交渉事なんてオレには無理だよ」
自慢じゃないけど、口より手が先に出るタイプだって自分でも承知してるんだから。
「いえいえ、ご謙遜を。それに、この人選は的を射たものと自負しております――何故なら」
ネヴィア聖神官は、オレを交渉役に推す利点を述べ始める。
それによると、オレという人物は皇女という帝国における立場を有し、アリスリーゼ討伐軍のアーキス将軍と昵懇の間柄であり、カイロニア陣営にもレオン公子の影響で比較的好印象で迎えられる可能性が高く、フォルムス帝国においてもリシュエット全権大使がオレに対して好意的、という稀有な存在なのだそうだ。
しかも皇帝側のケルヴィン宰相やデイブレイク近衛軍司令とも旧知の仲で、現皇帝さえ何とかできれば皇帝陣営とも話し合いが期待できる。
さらには、教皇陣営がオレを推すことで、皇帝陣営と一線を画す立場であることを他の陣営に表明できる特典付きとのこと。
つまり、ライノニア以外には交渉の余地があるオレは、今回の交渉役として打ってつけの人間という訳だ。
「如何でしょう、皇女殿下?」
いや、如何も何もなく、やるしか無い状況でしょうに。
「……わかったけど、失敗しても責任負えないよ」
「もちろん、我々も全力で力添えいたします」
「ご期待に添えるかどうかわかんないけど、頑張ってみるよ」
口では軽く流したけど、本心では『やるからには必ず成功しなくちゃ』と固く決心した。
リデルに交渉事を任せる……なんか不安w
そうそう、前回お話ししたSNSの知人は無事退院できたようで、ホッとしています。大事に至らなくてホントに良かった。
最近、今更ながらですが、バーチャルYouTuberの『兎鞠 まり』さんにハマってしまい、ひたすら動画を見ていますw
何故か、妙にクセになるんですよね、あの笑い声(>_<)
あと、ついにヤフオクに手を出してしまったのですが、残り1時間でうたた寝してしまい入札を逃すという悪夢を体験しました。めちゃくちゃ悔しい!




