告白……⑤
「お祖母様、そのアデルって人……」
思わず、上擦った声でオレが聞くと太皇太后はニコリとする。
「そうですよ、貴女の義理のお祖父様であるアデル・フォルテのことです」
やっぱり、そうなんだ。
それじゃ、オレの祖父母はレリオネラ太皇太后の騎士と侍女だったのか。
そう言えば、前にアデルお祖父さんのことを聞いた『ほろ酔い停』のソルベお爺さんも、二人とも隠していてはいたけど、とても下流階級の人間に見えなかったって言ってたっけ。
「レリィ、つまり君が言いたいのは、亡くなったと思われていたデイル皇子が、実は近衛騎士と侍女に育てられて生きていたというんだね」
「ええ、その通りですわ。きっとメグのことだから、私があの子をデイルと呼んでいるのを知り、そう名付けてくれたのに決まっています」
ネヴィア聖神官の念押しに太皇太后は自信満々で答える。
「偶然とは考えられないかい。たまたま、子が出来て職を辞し、主の思い入れのある名前を自分の子につけた……」
「有り得ませんわ。そんな不遜なこと、あのメグがするとは思えませんもの」
「しかし……」
納得しかねる様子の聖神官を見ながら、オレはふと疑問に思ったことを口に出す。
「ねえ、お祖母様。アデルお祖父さんと親父は子供のころ帝都に住んでいたのだけど、ある日突然何の前触れもなく姿を消したらしいんだ。それって、何か理由があるのかな?」
さっきの話でソルベお爺さんとの会話を思い出して、その時から引っかかっていた疑問を尋ねてみる。
「子供のころ、突然だと? それは幾つぐらいの時の話だね」
それに反応したのは、お祖母様ではなく顔色を変えたネヴィア聖神官の方だった。
「確か七歳のころだったと聞いてます」
「七歳……やはり、そうか」
ネヴィア聖神官は一人納得したように大きく頷く。
「どういう意味ですの、ネヴィ兄様」
「そ、それはだね……」
妹の質問に優しい兄は躊躇したように口ごもる。
「はっきり、仰ってください」
「オレも知りたいです、ネヴィア聖神官」
「……たぶん『刻血の儀』のせいだよ」
刻血の儀……。
確か、帝位を受け継ぐ皇子が七歳の誕生日に中央大神殿にある天帝の間で執り行う特別な儀式のことだ。そして、その『刻血の儀』をもって正式に帝室の一員となり帝位継承権を有するしきたりとなっている。
儀式の起源は、かつて出生してから七歳まで生き残ることが難しかったためとか、産まれて間もない赤子がすぐに権力争いに巻き込まれないようにするためだとか諸説いろいろある。
オレも皇女になった時、10年遅れの17歳で『刻血の儀』を行ったっけ。
そんなにも前の話ではないのに、ずいぶん遠い昔に感じる。
「おそらく宮廷魔術師のウルリクは残った皇子が七歳まで生きられるどうか不安だったのだろう。だから、予備の皇子として、もう一人の皇子を殺さなかった。そして、万が一の事態が起こった場合、双子をすり替えるつもりだったのだと思う。それに備えてアデル夫婦に予備の皇子を極秘裏に育てさせたというのが真相ではなかろうか」
「予備の皇子……」
レリオネラ太皇太后は白い顔を震わせて唇を噛んだ。
「じゃあ、聖神官。急に消息を絶ったのは?」
「アイル皇子が『刻血の儀』を済ませ帝位継承権を無事に有するようになったので、用済みと判断されたからだろう。『刻血の儀』の後にすり替えは不可能だからね。そして、騎士アデルが消息を絶ったのは、おそらく皇子の廃棄に従わなかったせいではないかと思う」
それで、お祖父さんは親父を連れて帝都から逃げ出したのか。
「そうだったの……育てたのはウルリクの指示……いえ、でも私は二人が心からデイルを愛して育ててくれたと信じているわ。でなければ、帝国に逆らって逃げたりしないでしょう」
オレもそう思う。
当時の知り合いの証言からも、命令なんかじゃなく本当の親子としての繋がりがあったように感じられた。
「私もそう思うよ、レリィ。デイル君、いやデュラント四世陛下は素晴らしい方だった。きっと育てたお二人が心から彼を愛して育てたからに間違いない」
「きっとそうですわ、ネヴィ兄様。二人には感謝の言葉しかありませんもの。けど、兄様。これで私が両公爵を嫌う本当の理由がお分かりになっていただけたと思うの」
「本当の理由?」
「ええ、アルセム王国では双子は禁忌。けれど、エントランド連合王国では双子は吉兆として喜ばれる。私は最愛のデイルを失ったというのにルシェリカ(デュラント神帝の側妃で、カイル・ライル公爵の母親)は双子を産んでも皆から祝福され、子達も幸せに育てられた……」
オレも授業で習ったけど、エントランド連合王国では、建国神話の中で双子の皇子が協力し合って国を興したことに由来し、双子は家を栄えさせる吉兆として尊ばれているらしい。
「だから、逆恨みとわかっていても、あの二人が皇帝になるのだけは絶対に許せなかった。なのに、あの当時アイルは健康を理由に廃嫡の話が取り沙汰され、次期皇帝は両公爵のどちらかだと噂になっていました。もし、それを阻止できるなら、私は命でも何でも捧げるとイオラートに願ったものです」
レリオネラ太皇太后は狂おしい目で、カイル・ライル両公爵を睨んだ。
「そんな時です。エルスト(デュラント神帝)がアイルに身代わりを立てると言い出したのは……。最初、何を言っているの、この人はと思いました。けれど、帝国の安定を図るためにはこれしかないと力説され、何よりも双子の公爵に皇帝を継がせなくていい――その一点で私はその企てに賛成しました」
一呼吸置くと、太皇太后はオレへと優しい視線を向ける。
「ですから、貴女のお父様については最初まったく興味がありませんでした。むしろ、大事な息子の名を騙る下賤な者という認識しかありませんでした」
まあ、格式を重んじる血統主義のお祖母様なら当然だと思う。
だから、オレだって最初の面談の時、絶対嫌われると思ってたもの。
「けれど、初めて貴女のお父様に謁見を許した時、私は息が止まる想いでした…………何故なら、そこに失われたはずの息子、デイルがいたのですから」
その時のことを思い出したのか、レリオネラ太皇太后の目に見る見るうちに涙が溜まる。
「見た瞬間、わかりました。この子は間違いなく私の息子だと直感したのです。しかも名前も同じデイル。その上、身上を問えば父はアデル、母はメグと言うではありませんか。私の想いは確信に変わりました」
「そうか……アイル皇子が健康を取り戻した時、君が凄く喜んでいたのは息子が元気になったからではなく、もう一人の息子に再会できたからだったんだね」
「はい、兄様の仰る通りですわ」
嬉しそうに答える太皇太后に、ようやく合点がいったとネヴィア聖神官は目を細める。
「けれど、その幸せも長く続きませんでした。デイルとアリシアが揃って遭難するだなんて……私はなんて不幸なんだと世を儚みたくなりました。でも、私が挫けていては二人の公爵のどちらかが皇帝となってしまう。ですから、反対の意思表明をしてアリスリーゼに移り住んだのです」
レリオネラ太皇太后は落ち込んだ表情を一変させると、オレへと熱っぽい視線を向けた。
「だから、アリシアちゃん。私が貴女に会えた時、どんな気持ちだったか、今ならわかってもらえるわね」
今回も少し長めです。
いろいろ伏線回収ができて嬉しいです。
いや、ホントに終わりに近づいた感じがしますね(←いや、まだまだ続きますから)
完結まで頑張ります。
あと、コミカライズ版も好評のようです。
まだ未読の方は、ぜひよろしくお願いしますm(__)m




