思いがけない結果……⑧
申し訳ありません。
読み返して不自然だったので、前半部分を修正しました(R3.4.11)
「ふ、ふはははは……」
リシュエットの衝撃的な質問に参加者一同が声も出せずに、場が静まり返える中、乾いた笑い声が響いた。
「……いや、失敬。私に向かって『どなた様』と尋ねるとはリシュエット、そなた相当な度胸の持ち主だな。怒りを通り越して感心すらしてしまうぞ」
リシュエットの詰問に焦る素振りも見せず、アリシア皇帝は余裕の表情で答える。
「そなたの言うコルタとかいう侍女は、即位後のアイル皇子の消息は知らぬと言ったのであろう? それに医術師でもない侍女の見立てで子が出来ないと断言するのはどうかと思うぞ。その後、奇跡的な回復をして子を為したという可能性を否定することは出来まい」
「確かに陛下の仰る通り否定は出来ません。しかしながら陛下、不治の病を患い、明日への命もわからなかったアイル皇子が完治することなど有り得るとお思いですか? 聖石でさえ成しえなかった奇跡が起こるとは私には信じられません。それと陛下は、ご自分のお年が偽皇女と同じであるのだから、本来デュラント神帝が孫娘に名付けようとしたアリシアという名を自分が名乗るのは正当な権利だと主張されておられますが、それは正しくないのではありませんか? 何故なら、即位当時には既にアリシア皇女はご誕生されていましたので……」
「それがどうした? 偽皇女の年齢と違うからと言ってそれが何の問題となる。あれは、神帝が孫娘へ送ったものだ。私が名乗ることにとやかく言われる筋合いはない」
アリシアの年齢詐称疑惑に一同が周りと顔を見合わせるが、アリシアは『たいした問題ではない』という顔付きで切って捨てる。
そうか……だから帝国全土から聖石の欠片を使って皇女候補を招集した際に選ばれなかったのか。
ん? となるとアリシア皇帝ってオレより年下ってこと?
ずいぶん、大人びているっていうか醒めてるっていうか、頭良すぎないか。
確実にオレより皇帝向きな性格をしていると思う。
「いえ、陛下。お気に障ったようなら申し訳ありません。ただ、ちょうどよく似た時期にお生れになった皇女が他にいらっしゃったものですから、気になっただけです」
アリシア皇帝の発言に対し、リシュエットはやんわりと皮肉を返す。
「ふむ、どうやらフォルムス帝国全権大使は、どうあってもこの私をそのメルトリューゼ家で生まれた御子にしたいようだな」
アリシア皇帝は、ひそひそと騒めく参加者を冷たく見渡してから、リシュエットに改めて向き直る。
「しかしな、リシュエット。私の血筋については、先に行われた例の偽皇女との血統裁判で、すでに結果が出ているのだ。そなたはその神殿の出した結果を否定するというのか?」
「神殿の裁可に意見を差し挟むなど滅相もありません。ですが、血統裁判も完ぺきとは言えないと過去の文献にも残っていましたもので……」
リシュエットは口ではしおらしげに答えるが、内実は結果に疑問が残ると言っているようなものだ。
その返答にアリシア皇帝は大きく溜息をつくと呆れた顔で口を開く。
「強情な娘だな、そなたは。だが、百歩譲って私がその御子だったとしよう。けれど、それによって何が変わる。他に継承権を持つものがいない現状、神帝の娘であろうが四世の娘であろうと変わりはないだろう?」
「…………現状ではそうかもしれません」
初めてリシュエットの舌鋒が鈍った。
「ふむ、それにしてもリシュエット。そなた何故、そうまでして私に突っかかるのだ? 恨みを買うような覚えはないのだが」
アリシア皇帝が疑問を呈すると、ネヴィア聖神官は、さも今思いついたかのような素振りでリシュエットに尋ねる。
「リシュエット殿、お聞きした覚えがあるのですが、年を取ると物忘れがひどくなりましてな。恐れ入りますが、貴女様のご家名はなんと仰ったかな?」
「アールグレイス……リシュエット・アールグレイスでございます。ネヴィア聖神官猊下」
「ほう、アールグレイス家と言えば、フォルムス帝国の筆頭宮廷医術師を輩出している名家でしたな」
「はい、現筆頭宮廷医術師は私の父です。そして祖父はイオステリア帝国の元筆頭宮廷医術師ウルリク・サマセナドーンでございます」
「宮廷医術師のウルリクですと……何とも懐かしい名前だ。しかも、この場でその名を聞くとは、まさに運命の巡り合わせを感じる……いや、これは失礼。ただの独り言ですの気になされぬよう願います」
ネヴィア聖神官には既知の名前だったらしく、昔を懐かしむような表情を浮かべる。
「ですが、ウルリク医術師長の御身内ならイオステリア帝国に含むところがあるのも道理かもしれませんな」
「どういう意味かな、ネヴィア聖神官。いったい、その者はどのような人物なのだ?」
一人納得する聖神官にアリシア皇帝は非難の目を向けると説明を求めた。
「そうですな。この場で、かのウルリク先生について語れるのはリシュエット殿以外には私しかおりませんね。さて、ウルリク・サマセナドーンなる人物はイオステリア帝国の、それもデュラント神帝即位時の筆頭宮廷医術師でしてな……」
ネヴィア聖神官は当時を思い出すかのようにウルリク宮廷医術師の略歴を述べ始める。
それによると、ウルリクは元々アルセム王国の出身であり、医術師界でも名門のサマセナドーン家の一族であったそうだ。
当時、すでにウルリクは他の医術師の追随を許さぬほど卓越した腕前を持っていたが、残念なことに三男として生まれたためアルセム王国での最上位を望めなかった。
そのため、デュラント神帝とレリオネラ皇后が結婚する際、随員としてレリオネラ皇后に同行し、そのままイオステリア帝国に帰属することを選んだ。
そして、ウルリクはレリオネラ皇后はもとよりデュラント神帝にも厚く重用され、瞬く間に筆頭宮廷医術師に昇りつめ、名医として名を馳せることとなった。
もちろん、アイル皇子の出産を取り仕切ったのもウルリクであり、その後の治療に携わったのも彼である。
デュラント神帝の在位中のウルリクは、まさにイオステリア医術師界の頂点として君臨し、絶大な権力を握っていたそうだ。
ちなみに弟子であった年の離れた妻とは二女をもうけ、長女には婿養子を取り家を継がせ、二女にはフォルムス帝国筆頭宮廷医術師であるアールグレイス家へ嫁がせ両家の橋渡し役を担わせた。
つまり、ウルリクはイオステリア・アルセム・フォルムスの三国で影響力を及ぼしたのだ。
このようにウルリクの権勢は終生変わらず盤石だと誰もが信じて疑わなかったが、ある日突然終わりを告げる。
奇しくも四世が即位した翌日、すなわちアイル皇子の消息が不明になった日にウルリクは前触れもなく失脚した。
罪状は宮廷医術師長の役職を利用した不正蓄財と帝国に対する反逆行為があったとされている。すぐさま、ウルリクの財産は没収され、イオステリアのサマセナドーン家は取りつぶしの憂き目となった。
当時から、その一連の動きの素早さに陰謀論を呟く者も多くいたが、デュラント神帝の裁可に異を唱える者などいるはずもない。
当然のごとくフォルムス帝国・アルセム王国はそろってウルリクの助命を嘆願したが、帝国に聞き届けられることもなくウルリクは処刑された。
孫であるリシュエットがイオステリア皇帝に対して敵意を示す理由も納得できる。
「ふむ、何のことはない。ただの私怨か。失望したぞ、リシュエット全権大使」
アリシア皇帝は興味が失せたようにリシュエットに声をかける。
「力及ばずでしたか……けれど、無駄ではありませんでした。そうですね、ネヴィア聖神官猊下……」
役目を終えたように席に座るとリシュエットは聖神官を見つめた。
「よろしい、後は引き受けましょう。貴女のおかげで使いたくなかった切り札を使わずとも済みましたよ。礼を言います」
ネヴィア聖神官のリシュエットの意思を汲むような発言に参加者が目を見張った。
「さて、皆様に私からぜひとも紹介したい人物がおります。陛下、よろしいですか?」
「聖神官が何をしたいのか、さっぱりわからぬ。よもやリシュエットと組んでいたのではあるまいな? ならばこの会議の意味は無くなったのも同然であろう」
「事前に打ち合わせなどしておりませぬよ。ただ、陛下に対し何か物申したいとの情報は得ておりましたが、ここまで頑張るとは予想外でした。いやはや、さすがフォルムス帝国次期皇帝のお妃候補なだけありますな。大変、聡明かつ度胸がある」
「下らぬ。このような者を皇帝の妃などと国を傾けるぞとフォルムスに書簡を送ろう」
「ご自由にされるがよいでしょう。して、陛下。一同に紹介してもよろしいか?」
「勝手にするがよい」
アリシア皇帝が投げやりに言うと、ネヴィア聖神官は笑みを浮かべながら振り返った。
え? 何だ?
「それでは、ご紹介しましょう、もう一人の皇女。リデル・フォルテ様でございます」
キリが良いところまで書いたら、長くなってしましましたw
いよいよネヴィア聖神官のターンです。
ちなみに次回から新章です!
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よろしくお願いします。




