停戦会議へ……①
「と言うわけで、ぜひ今回の停戦会議に私の供をお願いしたいのです」
停戦会議が間近に迫ったある日、ネヴィア聖神官からの呼び出されたオレは彼から、とんでもない提案を受けていた。
「供って……オレが付いて行っても意味があるとは思えませんけど?」
「いえいえ、簡単な身辺警護と私の話し相手をお願いしたいのです」
話し相手って、この爺さんと話すの嫌いじゃないけどさ。
「でも、警護に関しては神殿騎士団もいますし、お付きの神官だって、こんなにいるじゃないですか」
ネヴィア聖神官の後ろには教皇領から付いて来たお付きの神官達が何人か控えていた。
オレとしては停戦会議の決裂を見越してクレイ救出の準備をしたいところだったので、言葉はやや否定的になる。
ネヴィア聖神官にはいろいろ便宜を図ってもらっているので断りたくはないけど、時期的にも微妙なところだ。
ただ、ヒューとも話をしたが、会議の結果次第で方策が変わるので、結果が出るまでたいした準備もできないのも事実だったから、会議自体に参加するのも有りと言えば有りだと思う。
身近にいれば状況をいち早く確認でき、早めの手が打てるからだ。
「いや、ぜひともお願いしたい。貴女とはお父上のことで、まだ話し足りないですし、警護についても貴女の武勇は折り紙つきです。ここの騎士団員からも絶賛されているではないですか」
「はあ……そうですけど」
「リデル様、このお話ぜひ受けるべきと存じます」
オレが曖昧な表情を浮かべているとパティオが横合いから受諾を促してくる。
「でもパティオ、オレが聖神官のそばにいると面倒にならないか? オレって皇帝側から言わせれば皇女を名乗った犯罪人だし、公の場に出るのは相応しくないと思うんだ。それにオレのせいで聖神官の立場も悪くなって停戦交渉に悪影響を及ぼすことに……」
「逆です、リデル様。皇女時代のリデル様を高く評価している方々も数多くいらっしゃいますし、聖神官の……ひいては教皇の後ろ盾があることがわかれば、貴女様への皆の見方が変わるかもしれません。そもそも、皇女詐称についてもケルヴィン宰相が決めたことであり、リデル様には全く非など無いのですから」
まあ、確かにオレが望んで皇女を名乗ったわけではないのは本当のことだけど。
「パティオ殿の言う通りです。貴方が気にかけるようなことは少しもありませんし、これは私からの個人的な要望です。そこから生じる事態はすべて私の責となります故、気に無さならぬよう願います。どうか、老い先短い年寄りの我儘と思って、お聞きくださると大変有難いのですが……」
そうまで言われると、さすがに断りにくい。
「わかりました。このお話、お受けします」
「おう、そうですか。それは良かった」
ネヴィア聖神官は喜色を露わにし続けた。
「では、さっそくリデルさんに似合う神官服を新調しなければ……」
「は? ちょ、ちょっと待った! その神官服って何だ?」
オレの驚きにネヴィア聖神官が不思議そうな顔をするので、パティオが笑いを堪えながら補足する。
「聖神官の供回りになるということは、当然神官服を着用しなければなりません。それは護衛であっても変わりありません。そうでないと目立って仕方ありませんから」
な、何ですと!
清楚なソフィアは神官服がよく似合うけど、オレなんかが似合うわけない。ちょっと早まったかも……。
ネヴィア聖神官とパティオがオレに着せる神官服について、あれこれ盛り上がるのを見て心底、後悔したがあとの祭りだった。
◇
「とてもよくお似合いですわ」
ソフィアがうっとりした目でオレを見つめる。
「そ、そうかな……」
「あ、駄目です。せっかく髪も綺麗に整えているのですから、触ってはいけません」
恥ずかしくなって頭を掻こうとしたら、ソフィアに駄目出しされる。
停戦会議の日、オレは用意された純白の神官服に身を包んでいた。
何だか着慣れないし、上からすっぽり被るタイプの服なので、すーすーして心許ない感じだ。その上、全身に高そうなゴテゴテした装飾品をたくさん付けられ身動きが取れない。
これでは、いざという時に後れを取ってしまいそうで怖いんだけど。
「いやはや、これは何とも美しい。やはり、リデルさんはイオラート神に愛されておりますな。まさに神の申し子と言えましょう」
ネヴィア聖神官も目を細めて微笑んでいる。
どことなく孫の成長を喜ぶお爺ちゃんみたいだ。
神の申し子ね……まあ、オレの母さんは『天落人』という神界の住人らしいから、あながち間違ってはいないか。
けど、神殿関係者、しかも聖神官が口走ると洒落にならんから。ほら、現に周りの神官連中がオレに後光が射しているかのように頭を垂れてるぞ。
「リデル、支度はお済ですか……」
ちょうどホールに入ってきたヒューがオレの姿を見て固まる。
「な、何だよ。柄にもない恰好してるとオレも思ってるから」
何故だろう、知らない人は平気なのにヒューに見られると物凄く恥ずかしい。
不謹慎な話だけど、ここにクレイがいなく良かった。
絶対にあいつだったら、ねちっこく揶揄ってるのに間違いないはずだ。
「いえ、すみません。あまりのお姿に見惚れてしまって」
「いいよ、取り繕わなくたって……オレだって、よくわかってるから」
「誤解です、リデル。貴女は本当に…………いえ、いいです、諦めました」
ヒューは諦観した表情を見せて言葉を続ける。
「リデル、支度がお済ならパティオ大神官がお待ちになっています。それと、ネヴィア聖神官、同様に大神官が貴方をお探しのようでしたよ」
「おお、そうであった。こうしてはおられん。リデルさん、また後でお会いしましょう」
オレにかまけて大事な用向きを忘れていたらしいネヴィア聖神官は取り巻きの神官達をぞろぞろと引き連れて、そそくさと部屋を出て行った。
「では、リデル。我々もそろそろ移動した方がよろしいでしょう」
残されたオレとソフィアにヒューが声をかけるが、オレは浮かない顔でヒューに尋ねる。
「ねえ、ヒュー。本当にいいのか?」
「また、そのお話ですか。もう何度も話し合ったではないですか。私の決心は変わりませんよ」
ヒューの決心……それは『天隷の騎士』を返上すること、すなわち騎士を辞めるということだ。
ヒューが『天隷の騎士』である以上、皇帝であるアリシアに忠誠を誓わなければならない。その頸木から脱するには『天隷の騎士』を辞めるしかなかったのだ。
それは理解できたし、ヒューのオレを思う気持ちにも感謝の言葉しかない。けど、ヒューが騎士で無くなってしまうことに、どうしてもオレは納得できなかった。
なので今日まで何度となく話し合ったのだけど、ヒューの決心は固く、話は平行線のままだった。
「さあ、その話は終わりです。パティオ大神官がお待ちですので、すぐに向かいましょう」
明るい口調で促すヒューにオレはのろのろと従った。
章タイトルですが、もしかして『停戦会議』まで、たどり着けなかったら、変更するかもしれませんw
どうやら、年度内終了は赤信号のようです、ごめんなさい(>_<)
液タブは、まだ買ってません。考え中です♪
ワ〇ム製は高いからなあ……。
あと、クリスマス短編を投稿したのですが、あまりに読んでくださる方が少なかったので、ここで宣伝を。
「サンタク」https://book1.adouzi.eu.org/n5651gr/
リンクって、どうやって貼るのだろうか?




