その後の顛末……⑨
一もに二もなく賛成した……って、ユーリスはドヤ顔で言うけど、言ってる意味がよくわからない。そもそも、『だから』って何だよ?
「どういうこと?」
話の流れが見えなくてオレが聞き返すと、ユーリスはじれったそうに答える。
「デイルが逃げ出した真の理由はデュラント三世が残した神託文にあったのさ。そいつがある限り、アリシア皇女は二人の公子の内どちらかと必ず結婚しなければならなかったし、当然世継ぎを産むことも強要される。だが、それはお前さんにとって……」
「死ぬことと一緒……」
「そうだ。だから、デイルは逃げ出すことにしたんだ」
ユーリスは、『納得したか?』という顔をオレに向ける。
そうか……親父が皇帝の座を投げ捨てた本当の理由は、オレを救うためだったのか。
それなら腑に落ちるというか、納得できた。
親父って、見た目はいい加減な感じだけど、けっこう責任感があるし義理堅い性格だったから、皇帝の責務を自分のわがままだけで安易に捨てるとは到底信じられなかったのだ。
自分の娘……母さんが残したオレの命を守るためなら、何をも優先して助けようとするのは親父らしい決断と言えた。
結果的に帝国の内戦を引き起こすこととなり、多くの人の運命を狂わせることになってしまったけど、もし仮にそれを非難されても親父はその誹りを甘んじて受けたと思う。そのくらいの覚悟はしていたような気がしてならない。
もしかしたら、傭兵となって戦いに身を投じたのも、その贖罪の気持でもあったのだろうか?
いや、それはさすがに考え過ぎか。
親父の奴、けっこう不器用だったから、他の仕事が上手くできず(皇子になる前の)元の傭兵稼業に戻っただけかもしれない。
ん……待てよ。ひょっとしたら、聖石でオレを男に変えたのも、出産による死や将来愛した男の子を産めないことに苦しまないようにするためだったとか……。
こちらは十分、可能性はある。あのお節介な親父なら、やりかねない話だ。
「おや、ずいぶん話し込んじまったな。そろそろ、これぐらいにするか。お前さんが聞きたいと思うことは粗方答えたつもりだが……」
「ああ……ありがとう。衝撃的な事実もあったけど、ずっと謎だったことがいろいろはっきりして、すっきりしたよ。ホント、感謝してる」
一度にたくさんの情報を聞いて、まだ頭の中がまとまらないけど、助かったのは事実だ。
オレが頭を深々と下げると、ユーリスは照れたように言った。
「いいってことよ。お前さんはデイルとロニーナの娘だ。俺っちにとっちゃ姪っ子みたいなもんだ。また聞きたいことがあったら、いつでも言いな」
その目は、本当の叔父さんのように優しかった。
◇◆◇◆◇◆
ユーリスが長い話を終えると、屋敷の使用人がオレを用意された寝室へと案内してくれた。ユーリスは、これからこの家の女主人リコラさんに付き合うのだそうで、他人事ながら少し疲れた様子で出て行ったユーリスに頭が下がる思いだ。
やっぱり、女たらしは違うね。マメでないと務まらないのかもしれない。とてもオレには真似できない。まあ、間違っても真似しようとも思わないけど……あ、オレはもう女の子だから関係なかったか。
にしても、ユーリスは本当凄いと思う。
何がと問われれば、男女のそれ……にである。ユーリスって、剣の間合いを読むのが天才的だけど、男女の間合いを読むのも長けているような気がする。
うっかりしていると、すっと懐まで入り込んでいる……まさに絶妙と言っていい。
その上、年齢を感じさせない美貌で下手な女性より色気がある。盛り場だったら、たぶんオレ以上に女だけでなく男にモテるに違いない。
べ、別に羨ましくなんかないけど……。
「もう、寝よう……」
そう宣言してベッドにもぐり込むが、ユーリスから得た情報量が多すぎたせいか、目が冴えてちっとも眠くならない。
しばらくは、頑張って寝ようとしたが、どうにも無理なようなので、オレは諦めて今後のことについて考えることにした。
(これから、どうしよう?)
最初に浮かんだのは、これからどうするべきかだった。
ガートルードの策略で、あてどない一人旅を余儀なくされているが、これといった目的があるわけではない。
仕方なく親父のルーツを探そうと聞きまわったが、偶然にもユーリスと出会い、当初の目的以上に詳しい当時の事情を知ることができた。これ以上を望むのは困難だろう。
それに、そのユーリスの話のおかげで、今後を考えるべき上ではっきりしたことが、いくつかある。
まず、オレが行方不明だったアリシア本人に間違いないということだ。ただ、それは偽りの皇帝であるデイルの娘としてであり、皇女ではなかった。
なので、ガートルードを倒して皇女に返り咲こうという考えは根本から消えたと言っていい。実際、やる気のないオレより、やる気満々のガートルードに任せた方が上手くいきそうな気もする。
大体、皇女になったら世継ぎを産まなければならないわけで、先ほどユーリスから聞いた情報を考えれば、オレとしては絶対に避けなければならない事態だ。
故に皇女関連のルートは回避の一択だ。
となると、オレはいったい何をすれば良いのだろう。
一応、母さんはフェリスディア伯爵家の正式な養女となっているわけだから、オレも伯爵家令嬢と言えば令嬢だ。
実家に頼るというのも一案だけど、ガートルード絡みで迷惑かけそうと思うと躊躇ってしまう。
どうしようかなぁと、つらつら考えている内にオレはいつの間にか眠りについていた。
これで、本章は終わりです。次回からは新章になります。
ちょっと時間が飛ぶ予定です。




