昔語り……⑥
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「いやいや、なかなか様になってたぜ。おめえの演説も」
「馬鹿言うな、用意された原稿を読んだだけだ」
にやにや笑いのユーリスに俺は憮然として答える。
「けっこう皇子様の格好も似合ってたし、どことなく気品っぽい雰囲気もあるし、案外この仕事お前に向いてるかもしれないぜ」
「全然向いてない。バレるんじゃないか、冷や冷やしてるさ。大体、お前のその格好の方がばっちり決まって……」
近衛兵の制服をしゃきっと着こなしたユーリスに文句の一つでも言おうしたところ、思わぬ横槍が入る。
「いや、ユーリスの言葉も一理あると思うぞ。なかなかどうして、上に立つ者の風格が出ている。そう謙遜するものでもない」
「そ、そうか……ありがとな」
どう見ても真顔のロニーナが、そんなこと言うもんだから、ユーリスへの反撃の糸口を失ってしまった。
(そういうロニーナだって、どこかのお姫様みたいだ)
俺の侍女という役柄のため、淑女然とした衣装のロニーナの姿を横目でちらりと見て、そんな風に思ったが、口に出せば確実に機嫌を損ねるので、心の声だけに留める。
「それにしても、素晴らしい場所だな、ここは」
ロニーナは眼下に広がる景色をキラキラした目で見下ろした後、弾んだ声で俺に笑顔を向けた。
俺達は今、城砦の物見塔から敵国であるフォルムス帝国の辺境にあたる平原地帯を一望していた。 そう、ここは帝国の南端、フォルムス帝国との国境にほど近い最前線にあるメルヴェ城砦だ。そして、今回の依頼の目的地でもある。
あの契約の日まで話を戻そう。
皇帝陛下に何故か認められた俺に依頼を断ることなど出来よう筈もなく、強制的に契約は成立した。その後のダンフォードの説明で知らされた俺の仕事内容というのは、皇子の身代わりとなって最前線の砦に視察へ赴くことだった。
本来、最前線への視察は帝位継承者である皇太子が行う重要な責務なのだそうだが、病弱なアイル皇子ではその任を果たすことが難しかったという。
それでも今までは表面上、問題にはならなかったのだが、今回このように強行することになった背景に、皇帝の継嗣問題が絡んでいた。
病弱なアイル皇子ではなく健康な次子に継がせようという勢力が存在していたからだ。しかも厄介なことに次子達は双子で、それぞれの妻の実家が後押しをする主導権争いが顕在化していたのだ。デュラント三世陛下としては、是が非でも皇太子が健在であることをアピールする必要があった。
そのための苦肉の策が俺の存在と言う訳だ。
皇太子は無事に健康を回復し、帝国の今後に不安材料はないという事実を国の内外に見せ付けるために、俺が身代わりとなって最前線の砦へ視察に赴くと言う筋書きだ。ずっと皇宮に引きこもっていたせいで、アイル皇子のことをよく知る者が少ないという実情が、この無謀な策を実行させた要因と言って良かった。なので、皇帝が認めるほど俺とアイル皇子は似ているらしいので、下手に皇子の真似をしなくても、普通にそれっぽくしてるだけで良かったので、俺としても気が楽だった。
問題は俺ではなく、同行する他の二人にあった。
いつもの調子で行動するなら、とても皇太子の身近にいる、いや身近にいて良い人物とは言えなかったからだ。二人とも容姿だけなら一級品なので傍にいても問題ないのだが、如何せん言動と行動が破天荒過ぎる。
そのため、申し訳なかったが二人に制限を付けさせてもらうことにした。ユーリスは無愛想で無口なキャラ、ロニーナは田舎から出てきた世間知らずで天然という設定で通してもらうことにしたのだ。そして、何か設定以外の行動を起こす前には必ず俺の許可を取ることを徹底させた。
おかげで今のところは、両者ともボロは出してはいない。まあ、俺からすればバレるのは時間の問題な気がするが、視察が終わるまで持てば良いので、何とかなるだろう。
とにかく契約が決まると皇太子のスケジュールに合わせる形で、貴族のしきたりや作法等の講習を受け、俺達は慌しく帝都から視察先へ出発した。
本当にギリギリの日程らしく、道中でも講義を続けなければならない状況で、帝室側が本気で視察取り止めを視野に入れていたことが窺える。ダンフォードも余裕そうに見えたが、親しくなってから聞いたら、実際は薄氷を踏む思いだったそうだ。
まあ、彼の危惧とは裏腹に元々そうした作法や知識は父親から教えられていたせいで、それほど俺は苦にならなかったので、彼に「嬉しい誤算でした」と後で聞かされた。
ほどなく、メルヴェ城砦に到着し、視察は順調に始まった。さきほども全将兵の前で皇太子の訓示とやらを原稿通りに話したばかりだ。思いの外、好評のようで俺としては一安心と言ったところだ。
「じゃ、アイル皇子。演説も終わったし、俺っちは少し砦内の情報を収集してこようと思ってるんで、後はよろしくな」
おいおい、お前は俺の護衛だろう。
護るべき対象から離れてどうする――とも思ったが、ただでさえ行動制限されてストレスが溜まっているに違いないと思い、心配だが許可することにした。
「自由行動は許すが、自分の設定を忘れるなよ。それと、くれぐれも目立たないように」
と釘を刺すが無理だろうなと半ば諦めながら、ユーリスを送り出す。
「さて、ロニーナ。景色を楽しんでるところ悪いが、少しいいかな?」
飽きずに砦からの遠望を眺め続けている、もう一人の同行者に俺は勇気を出して話しかけた。
安心して下さい。昔話も、もうすぐ終わります(←ずっと、そう言ってる気がする)
ずっと体調が悪いのは季節のせいだと思いたい(>_<)
12月に再診があるので、それまではぼちぼち頑張ります。




