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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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あなたの本命は誰ですか?③

 オレはクレイの立ち去った扉を、しばらくぼーっと見つめていた。


 なんとも言えない気分だった。

 例えるなら、あるのが当たり前のものがなくなった喪失感……何も考えず、後を追いかけたい衝動に駆られた。

 身を切られるような焦燥感にさいなまれる。

 足を一歩、出口に向かって踏み出したところで、オレは我に返った。


 何なんだ! この感情の流れは……まるで女の子が恋する男に向ける気持ちそのものじゃないか。


 最近、女性的に思考するのが自然すぎて気付かなかったけど、今のオレはどうかしてる。自分の感情が別の誰かにコントロールされているんじゃないか? そう勘繰りたくなる。


 部屋の壁に貼り付けられた鏡に映る自分の姿を見て、身も心もこのまま女の子になってしまうんじゃないかという恐怖が首をもたげる。

 甘く心地よい自然なこの感情に引き込まれてはいけない、オレは気を引き締めると談話室から廊下へと出た。


 宿舎へ向かおうと、しばらく廊下を歩くとソフィアが待っているのが見えた。やはり、用事があるというのは、オレとクレイを二人きりにするための方便だったようだ。

 敢えてそのことに気付かない振りをして声をかける。


「ソフィア、用事は済んだの?」

「はい、ですので宿舎までご案内しようと思い、戻って参りました」


 彼女は小走りに近づくと頷いた。長い髪がさらさらと揺れる。

 こうやって、改めて見るとソフィアって本当に綺麗な女性だと思う。顔貌もスタイルも非の打ち所がない。性格は穏やかに見えるけど、芯はしっかりしている上、出過ぎた振舞いもせず、仕事もできる。

 今まで、よくわからない色眼鏡で見ていたせいで、良いところがわざと目に入らなかったように思えた。

 客観的に見ても、ソフィアは素晴らしい女性だ。

 完璧すぎて隙が無く、男性としては少し近寄りがたい雰囲気もあるけど……。


「……ねぇ、ソフィア。今日の夕食のことなんだけど……」

「はい、今日は試合にお勝ちになられましたので、厨房にも多少の無理がきくと思います。何かご要望がおありですか?」

「うん、メニューに注文はないんだけど……いつもオレだけ食べて、ソフィアは給仕しているよね。たまには一緒に夕食したいんだ」

「え?」

「ソフィアと食事したいんだけど、駄目かな?」


 オレは恐る恐るソフィアの様子を窺った。


「……でも私は、リデル様のお世話係で……」

「それは表向きの話でしょ。クレイから頼まれて側にいるだけで、本職じゃないんだよね? なら、一緒に食事したって問題ないじゃないか」

「それはそうですが……リデル様はクレイ様にとって大切なお方ですから、お世話するのは当然のことで……」


 結構、頑固なところもあるみたい。


「でも、オレ、ソフィアと食事したい! 駄目?」


 上目遣いで懇願すると、ソフィアは仕方無さそうに、でも少し嬉しそうに頷いた。


「では、今回だけ特別ですよ」


 そう言って見せた笑顔はとても可愛かった。

 ソフィアって、こんな風に笑うんだ……初めて見る彼女の表情にオレは見とれた。


 その日の晩餐は楽しいものとなった。


 話してみると、意外にもソフィアは気さくでさっぱりした性格で、話しやすかった。男っぽい性格で困ってるんですと笑う彼女に、自然と笑顔を返せる自分に内心、驚いていた。

 オレより3つお姉さんの20歳であることもわかった。いつも落ち着いていて、もっと年上かと思っていたけど、時折り見せる表情は年齢相応に見える。

 話す内容は、二人に共通した知り合いであるクレイの話に終始した。ただ、クレイの出自については、本人が口を固く閉ざしているので、ソフィアもそれをはばかって口にすることはなかった。

 でも、断片的なエピソードをつなぐと、いいとこの坊ちゃんなのは確かなようだ。


「私が初めて、クレイ様にお会いしたのは6歳の時でした。親戚のおじさんから、主家の方だからくれぐれも粗相のないようにと言われて、びくびくして会ったのを今でも覚えています」

「その頃のクレイって、どんな感じだったの?」

「今よりずっと細身で、優しそうなお兄さんでしたよ。小さな私にも、きちんと礼儀正しく応対してくれました。クレイ様が10歳か11歳ぐらいでしたでしょうか」


 オレの知らないクレイを語るソフィアは、なんだか嬉しそうに見えた。


 少し前のオレなら、胸が焦げ付くような焦燥感を感じただろうが、今日は不思議と苦にならない。

 どういう心境の変化かはわからないけど、ソフィアと自然に話せるのは嬉しかった。

 ソフィアの話を聞いて、逆に彼女の知らないクレイを教えてあげたい気持ちになったオレは、ついしゃべりすぎた。


「オレが奴と初めて会ったのは、13歳だったかな。親父について傭兵稼業を始めて一年ぐらい経った頃だと思う。オレのいた傭兵団にふらりとやって来たんだ」


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