前兆……②
◇
「いやいや、まさか君が本当にあの高名なグラント将軍と知り合いとは思わなかったよ」
別室に控えていたマニトルさんをアーキス将軍に引き合わせると、マニトルさんは感慨深げにオレに言った。
「その美貌といい、強さといい、只者ではないと思っていたが、君はカイロニア公国の諜報員か何かだったのか」
「そんなんじゃないよ、ただの18歳の女の子さ」
「前にも言った気がするが、どう考えてもその設定には無理があると思うぞ」
アーキス将軍が苦笑しながら、マニトルさんに向き直る。
「アーキス・グラントだ。リデル様より事情は伺った。貴方の当家への来訪を歓迎する」
「い、いえ。こちらこそ、帝国の重鎮であられるグラント将軍にお目にかかれて光栄です。私は文化比較学を探究しているマニトル・ロンディヴァと申す者です。約束もなく不躾な訪問をお許しいただき感謝に堪えません」
「なあに、リデル様の紹介だ。粗略には扱えんさ。貴方も……マニトル先生でしたか? ご自分の家と思って気楽になさってください」
「はあ……ありがとうございます」
マニトルさんは過分な申し出に恐縮した後、オレに視線を移して首をかしげる。
「本当に君はいったい何者なんだ? 天下のグラント将軍が『様』付けするなんて……」
「まあ、いろいろあるんだよ。そんなことより、アーキス将軍はあんたが見知ったことについて聞きたいんだって。もう一度ここで話してくれるかな」
「もちろん、お話させていただきます」
最初はカイロニアの英雄に会って緊張していたマニトルさんだったけど、さすがは元アルセム王国の外交官だけあって、すぐにいつもどおりの感じで話し始めた。
「……と、そんなことがあったのです。正直、それで命を狙われるとは思ってもいませんでした。今後、私はいったいどうすれば……」
「先生の身柄はカイロニア公国が責任を持って保護しよう。それで構いませんか?」
「構いません! そうしていただければ私も安心です。願ってもないお話です」
アーキス将軍の提案にマニトルさんは喜色を顕わにする。
実際の話、ライノニア・アルセム両陣営に対抗できるのはカイロニアをおいて他にはないわけで、マニトルさんの喜びようも理解できる。
「でも、アーキス将軍。それだと、ライノニア・アルセム両国に公然と敵対することにならないの?」
オレが心配して言うと、アーキス将軍はにこりと笑って答える。
「反対です、リデル様。この先生を押さえることで、逆に両陣営に対し優位に立つことができるのです」
そうか……お前達が秘密裏に陰謀を巡らしている証拠を我々は掴んでいるぞ、と言いたいわけか。
温和そうに見えて、なかなかどうして喰えないおっさんだ。
優しい笑顔が悪い笑顔に見えてきたよ。
とにかく、マニトルさんの身柄はアーキス将軍が預かってくれるとのことで、これで一安心だ。
帝都から出て行くつもりのオレとしては、後顧の憂いは絶っておきたいところだからね。
大袈裟に謝意を示しながら、マニトルさんが護衛の兵に付き添われて退出していくと、部屋にはオレと将軍だけが残った。
「あの男の処遇についてはお任せください。悪いようにはしません」
「ごめんね、本当はもう頼める筋合いじゃないのにお願いしてしまって」
「いえ、こちらにも利がある話なので気になさらずとも……それより、先ほどの話になりますが、当家に立ち寄っていただけないとのお話。いったい、リデル様はこれからどうするおつもりなのですか?」
「ああ、それね。ちょっとさ、アルセム王国に行ってみようかと思ってるんだ。祖父ちゃんがあの国の出身のようだから」
「ほう、アルセム王国に……」
「うん、今回の親父の出生にまつわる話の元凶がそこにあるような気がするんだ……そうそう、ところで将軍はアルセム王国の騎士で『アデル・フォルテ』って人物を知らないかい?」
「アデル・フォルテ殿?」
「そう、オレの祖父ちゃんの名前」
アーキス将軍はその名を聞くと、聞き覚えがあるのか眉根を寄せて考え込んだ。オレは期待を寄せて返答を待ったけど、将軍は頭を振って残念そうに言った。
「確かに聞き覚えがあります……それも私の若い頃のはずだと思います。しかし、残念ながら記憶が薄れてしまって、どのような人物だったかは忘れております」
まあ、それはそうだろう。オレだって何年も前の話なんて、よく覚えてないもの。
「ですが、騎士であったような気がします。アルセム大使館に照会すれば、何かわかるやもしれません」
「え、ホントに?」
「ええ、アルセム大使館に便宜を図るように書状を認めましょうか?」
「そうしてもらえると、すごく助かるよ」
お、アデル探索に光明が射してきたかも。
「ただ、今すぐは避けた方がよろしいかと。万が一、先ほどの学者襲撃に関わった者が素知らぬ顔で大使館で働いているかもしれません。リデル様のいつもの格好であれば気付かない可能性もありますが、危険は危険です。私としてはお勧めできません」
ぬうっ……一気に片が付くと期待したけど、そう簡単にはいかないか。
でも、他に手がかりらしい手がかりはないし……。
『蛇穴に手を突っ込まなければ蛇は捕まえられない』(アネストアリア大陸の故事でこちらの世界の『虎穴に入らずんば虎児を得ず』に相当)って昔の人は言ってたから、ここは危険は承知で冒険する必要があるかも。
オレは反対するアーキス将軍を何とか説得して、渋々ながら書状を用意してもらうことに成功した。
寒暖差にやられて体調不良です。
連休後半は寝込んでましたw
新作ホラーを書こうと思っていたのに(>_<)
また秋アニメが始まりますね。
よく読んでいるなろう作品もアニメ化されるので、楽しみです♪




