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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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見た目より中身を重視しましょう!①

 一日挟んで第2回戦の日になった。

 昨日は鍛練も軽めにして、ゆっくり休もうと思ったのだけど、予定通りにはいかなかった。届け物や来客の対応に追われたのだ。

 ソフィアが聞きつけてきた話によると、巷でのオレの評判はかなり良いらしい。しかも一部の熱狂的なファンが徒党を組んで応援しているとのことだ。貴族の子弟を中心としたそのグループが大々的に活動しているらしく、そのためオレに対する注目度も日に日に増しているようだ。

 本来は外部の人との接触が禁止されている大会期間中にもかかわらず、大会関係者の紹介という触れ込みで、多くの来客が訪れた。

 彼らは一様にオレの容姿と強さを褒め称え、オレの愛想笑いを見て満足そうに帰っていった。彼らの身なりも、届けられる贈り物も庶民では手の届かない立派なものが多い。

 正直げんなりしたが、これも大会出場者の務めらしい。前に聞いたヒューの心構えを思い出して、にこやかに応対した。

 時折、届けられる『リデルおねえちゃん、がんばってね』などの子どもの手紙にささくれた心が慰められる。



「――――とまあ、ひどい話なんです」


 ソフィアが会場へ出かけるオレの支度を手伝いながら、憤慨しながら話す。

 無差別級において、女性同士の対決はあまり例を見ない。そのため、シリルとオレの戦いは、最近のオレの人気も相まって注目を浴びているらしい。


 ソフィアの話によると、


『女性同士の戦いは、どちらに軍配が上がるか……容姿だけなら既に勝負がついているが……』

『シリルは勝っても負けても悪く言われるだろう』

『大人と子どもの戦い……というより猛獣と美少女の戦いと言えよう』


 などと言いたい放題だ。


 この話をシリルも耳にしている筈だから、その心中が穏やかでいられるわけがない。少しは彼女と戦う当事者であるオレの身にもなって欲しい。 

 しかも、街の話はこんな風に結論付けられていた。


『この戦いでリデル嬢が負けるのは必至と思われるが、今回の大会での異常人気により、貴族のサロンに引っ張りだことなるだろう。そう考えれば真の勝者がどちらであるかは自ずと明らかである』


 やれやれ、世間の連中はオレが売名目的で勝てもしない大会に出ていると見ているみたいだ。サリストゴンとの戦いにも八百長疑惑が持たれているらしい。


「次の試合で、そんな噂、吹っ飛ばしてやるさ」


 オレはソフィアに静かに宣言すると闘技場へ向かった。

 

 今日の第2回戦の試合日程は、


 第1試合がイクスとヒュー、第2試合がオレとシリル、第3試合がナグリッシュとジラード、そして第4試合がグビルとラドベルクの組み合わせだ。 

 午前中に2試合、午後に2試合行われるのは1回戦と同じだ。


 オレはヒューの試合を観戦すべく闘技場へ向かおうと1階のロビーに降りた。宿舎から闘技場へは、外へ出ることなく直接行くことができたが、ロビーで退出の受付を済ませる必要があったのだ。

 鍵を渡し、出掛けようとすると、入り口が何だか騒がしい。


 見てみるとエントランスで警備の者と若い女性が押し問答していた。途切れがちに聞こえる会話の中に『ラドベルク』の単語が耳に入り立ち止まる。


「どうかしたの?」


 オレが声をかけると二人が振り向く。


 女性は20代半ばのようで、日に焼けた肌と洗いざらしの服が、質素な生活を想像させた。表情に若々しさが見られず、ひどく疲れている様子に見える。


「あ、リデル様、お気になさらないでください」


 がっしりとした体型の守衛は職務に忠実な人物のようだった。


「すみません、ラドベルク様に会わせてください。大事な用件があるんです」


 女性はオレの姿を認めると助けを求めた。


 ラドベルクだと?


「こら、勝手にしゃべるな」

「まあまあ、そう怒らないで。お姉さん、大会関係者の紹介はあるの?」


 押し戻そうとする守衛を制して、女性に尋ねる。


「……ありません」


 か細い声で答える。


「だから、さっきから駄目だと言っているでしょう」


 勢いづく守衛に女性は少し考え込む。


「それでは、伝言と届け物をお願いできますか?」

「それも駄目で……」

「いいよ」


 機先を制し承諾する。


「リデル様!」

「オレが責任取るから……で、何を伝えればいい?」


 オレは女性に優しく問いかけた。


 年端の行かないオレの素性を疑う表情を見せたが、彼女は意を決したように、はっきりと言う。


「では、『ノリスは殺されました。約束が果たせなくなってすまないと死ぬ間際に彼が詫びていた』……そうラドベルク様にお伝えください」


 淡々と告げる言葉と内容のギャップにオレは声を失った。泣き腫らした顔と力なく俯く姿から、亡くなったノリスとの関係が推察できる。


「それだけでいいの……え~と、お姉さんの名前は?」

「いえ、ラドベルク様は私のことをご存じないので…………今の言葉、必ず伝えていただけますか?」


 切羽詰った目でオレを見つめる彼女の依頼を無下に断ることなど出来なかった。


「うん、わかった。今すぐ伝えてくるよ」


 一瞬、頭の中にこれから始まるヒューの試合のことが浮かんだけど、『どうせ、次の試合で戦うんだから』という安易な発想で、お姉さんの依頼を優先することにした。


「それと渡したい物は?」


 オレが訊ねると、お姉さんは小さな紙包みを差し出した。受け取ると思ったより軽い。手紙か何かのように思えた。


「これは?」

「ラドベルク様からノリスが預かった物で、ずっと私が保管していました。彼が亡くなったので、お返ししようと思って」

「中身は?」

「わかりません。ただ、人の命に係わる大事なものだと彼は言っていました」


 それ以上のことは彼女も知らないように見えた。


「わかった、これも必ずラドベルクに渡すよ。オレはリデル、ラドベルクの知り合いなんだ」

「あなたが、あのリデルさん」


 意味ありげに驚いた目をしたが、それ以上の言葉は言わなかった。


 それではお願いしますと、お辞儀をすると彼女は去っていった。宿舎から出て行く後ろ姿を見送りながら、伝言のことを思い返していた。


 殺されたノリス……ラドベルクとどんな関係なんだろう。


 やっぱり、本人に聞くのが一番手っ取り早い。オレはすぐさまラドベルクの部屋に向かった。

運そして、良く出掛けようとしていたラドベルクに出会うことができた。


「ラドベルク! あんたに会いたいって女性が来てたよ」


 オレの姿を認めると、ほんの少し優しい目になった気がする。


「そうか……名は何と言った?」

「それが、名前を言わなかったんだけど、ノリスって人のことで言伝、頼まれたんだ……」


 そのとたん、ラドベルクの表情が変わった。


「リデル、すまない。こちらに来てくれ」


 今出てきた自分の部屋にオレを招き入れる。


「出場者の男女が個室で密会したら、マズイんじゃないの?」


 オレの冗談にも返答する余裕さえないようだ。




「で、ノリスのことで、どんな言伝を?」


 扉を閉めるとすぐにラドベルクが切り出す。


 オレは先ほど聞いたノリスが殺された話と預かった紙包みについて、ラドベルクに告げた。


 ラドベルクの顔色が蒼白になる。


「ノリスが殺された……」


 一言呟いて、倒れるように座り込むと椅子が悲鳴を上げる。そして、右手で両目を押さえると俯いて沈黙した。


「ラドベルク……?」

「私のせいだ。すまなかった、ノリス……」


 オレの問いかけに応じる様子もない。


 しばらくの間、所在無げに立ったままラドベルクの様子を窺うしかなかった。どうやら、ノリスが殺されたことに責任を感じているらしい。

 一人苦しむ彼の姿を見ていたら、何だか可哀想になってくる。知らぬ間に彼の頭を抱きかかえると赤銅色の髪を撫でていた。


「無理するなよ、何でも一人で抱え込まないでさ」


 突然の行動に自分自身、びっくりしたけど、とにかく慰めてあげたかったんだ。

 ラドベルクはただ黙って、オレのされるままになっていた。


 …………どのくらいそうしていただろう。


「ありがとうリデル……もう大丈夫だ」


 オレから離れて身を起こしたラドベルクは、いつもの様子を取り戻していた。


「情けないところを見せたな」


 はにかんだような笑みを浮かべた。


 そんなことない、逆にオレは嬉しかった……でも、なんでだろう?


オレの困惑に気付かず、ラドベルクはその甘く低い声でノリスとの関係を話し始めた。



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