帝国への帰還……⑥
「とにかく、神殿と宮殿には手を打ったから、その結果を待つとして、あと優先的にしなければならないのは……」
オレの内心の葛藤に気付きもしないクレイは思案げな顔になる。
「とりあえずは、トルペンの行方を捜すことか」
「そうですね、あの方個人の能力も宰相補という立場も今後のことを考える上で不可欠なものですから」
ソフィアも同意を示す。
「だな。それに直接その現場にいたというのも大きい。俺達の知りえていない新しい情報を得ることが出来るかもしれない」
「では、ゴルドー商会の情報網を使って、行方を追ってみましょう」
「頼む。俺の方も伝を当たってみる」
「わかりました。すぐに手配してきます」
オレが固まってる間に、次の方策がどんどん決まっていく。
くすん、オレっていなくてもいいんじゃん。
「リデル、何いじけてるんだ?」
「い、いじけてなんかないもん」
オレが嘘涙でぷんぷんしていると、クレイは呆れたようにオレを見る。
「どうする? お前は、ここで残って待つか? これから俺はノルティの線からトルペンの足取りを追うつもりだが……」
「もちろん、一緒に行く」
クレイの提案に食い気味に反応する。
「そうか……俺としては今回の件に関してはお前が要だから、大人しくしてもらった方が有り難かったんだが……まあ無理か」
おいクレイ。何故、そこで深いため息をつく?
「とにかく、ノルティはトルペンと行動を共にしている公算が高い。お前、ノルティの立ち寄りそうなところに心当たりはあるか?」
「そうだなぁ。居るとしたら、ありきたりだけど、実家と言ってもいい帝国図書館かな。ノルティの父親がいるし、隠れる場所もたくさんあるから」
「まずは、その辺りか。ただ、敵も当然トルペンを探しているはずだから、こちらも慎重にいかないとな」
「うん、わかった」
「頼むぞ。ただでさえお前は目立つんだから、くれぐれも軽はずみな行動はするんじゃないぞ」
「心配性だな」
「いや、お前の場合、心配し過ぎでちょうどいいくらいだからな」
失敬な。クレイの奴、オレのこと全く信用してないな。
オレだって、そのぐらい弁えてるさ。
……はい、正直に言います。この時のオレはそう甘く考えてました。
◇◆◇◆
「ん? 何だね君は、ここに何か用があるのかい?」
帝国図書館の重い木製の扉が開き、相手は怪訝そうな顔で見下ろす。
「宮殿から伝言を預かってきたんです。ここの旦那様にお取次ぎ願えますか?」
「先生は在宅してるけど……」
館長助手のラルフさんはオレをじろじろと見つめた。
あまり身奇麗でないフードを目深に被ったオレは、相手から見れば浮浪児にように見えたのだろう。
オレは帝国図書館にノルティの消息を尋ねにやって来たのだけど、おそらく監視の目が厳しいだろうと変装してきたのだ。
だから、今のオレの姿は典型的な街の浮浪児のそれと言っていい。
なぜ、そんな格好をしているかと言うと、戦乱が長く続いたことで多くの孤児達が帝都に溢れていたので、変装としては申し分なかったのだ。
実際、犯罪に手を染めないなら、奉公に出るか、職人の弟子になるか、そうでない者は街で簡単な仕事をして日銭を稼ぐしかなかった。
靴磨きや街の清掃、子守……そして伝令だ。
辻馬車の停留所やホテルや酒場の周辺に陣取って、客からの伝言を受け取ると指定された相手に届ける。
そんな仕事だ。
それなりに信用が必要で、ホテルの荷物運びやドアマンと昵懇になると優先的に仕事を回してもらえるものらしい。
ただ、中級貴族以上は家の使用人を使うので、伝令を利用するのは稀なのだそうだ。だから、宮殿からの伝言という言葉にラルフさんは明らかに疑いの目でオレを見ていたので、オレは急かすように言った。
「緊急の要件なんです。中に入ってもよろしいですか?」
「ま、いいか。中に入ってよ」
元来、のんきな性格のようで、深く考えもせずオレを中に招き入れてくれた。
助手として、保安上の甘さはどうなのかと思いながらも、オレは彼に従う。
図書館に入る前に、さりげなく振り返って辺りを見回したが、怪しい人影はないようだ。
けど、油断は禁物だ。敵の監視者がどこにいるかわからない。
オレはラルフさんが扉を閉めるのを注意深く見守った。
「先生は奥にいるけど、どうする? 僕が代わりに伝言を聞いておくか、直接先生に告げるか?」
「直接でお願いします」
「そう、わかった、ついておいでよ……あ、ただ廊下に積んである資料には触らないでくれたまえよ。大切なものばかりなんだ」
「わかりました」
「じゃ、行くよ」
オレはラルフさんの後を追って廊下を進んだ。
体調不良のため、短めですみません。
何なの、この気温の変化は<`ヘ´>
急に寒くなったので、また調子が悪くなったじゃない。
車検でお財布も寒いし、踏んだりけったりです。
この状態で来週は出張があるので、明日はゆっくり養生しないと(>_<)
皆様も、お気をつけてくださいね。




