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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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一番人気はあなたですか?①

 闘技場への入り口から、観客席の熱気をはらんだ空気が何処からか吹いてくる涼しい風と入り混じって、緊張と興奮で上気したオレの頬を撫で上げる。オレ達がいる待機所から一歩出ると、そこはもう、闘いの場だ。


 無差別級本選大会が始まろうとしていた。


 オレ達がこの待機所にいるのは、開会式で出場者紹介があるためだ。クレイに言わせれば、皆が今後の賭ける相手を決める大事なセレモニーなんだそうだ。

 今日は試合がない日だというのに、観客席がいっぱいなのはそうした理由があるようだ。


 最初に大会主催者として、レオン・デュラント公子が開会の挨拶をした。遠目で見ると、威厳と高貴さに満ち溢れ、とてもあの残念な性格の片鱗は見受けられない。

 やっぱりあいつ、この公国の支配者なんだと改めて納得した。多くの来賓挨拶が終わると、剣舞や曲芸のような様々なイベントが披露され、いよいよオレ達出場者の出番が来る。


「良いか? 名を呼ばれたら闘技場中央に行き、観衆にアピールするのだぞ」


 係官が言うと、出場者達は無言で頷く。


 やがて、恰幅の良い進行役が闘技場に進み出て、大音声だいおんじょうを上げる。


「ただ今より、無差別級本選大会の出場者を紹介いたします!」


 よく通る声が闘技場全体に響き渡る。


「1番、アムダート・ノーリス!」


 名を呼ばれた屈強そうな男が待機所から闘技場中央へ進み出る。


 大剣を抜くと、自分の腕前を披露するかのごとく振り回す。


 観客から喝采の声が上がり、彼は意気揚々と戻ってくる。ディストラル帝国軍の正規兵だったというその男は、力強さとそつのない動きを見せた。


「2番、イクス・サーフィル!」


 次々と名を呼ばれた者がアピールを行っていく。



 オレは待つのが苦手だ。待ってる間にあれこれ考えてしまうからだ。戦場でも戦いが始まるまでの時間が、一番嫌いだった。


 最初の頃は、もしかしたら自分が死ぬんじゃないかと心配した。けど、直にそんな感傷もなくなった。運が悪ければ死ぬ……それだけだ。

 強いからって生き残るわけでも、弱いからって確実に死ぬわけでもない。死ぬ運命なら死ぬ、そうでなければ死なない。

 そう思っている。

 

 だから、心を迷わせるつかの間の時間等ない方がいい。


「7番! リデル・フォルテ」


 オレの名が呼ばれた。


 椅子から立ち上がり、闘技場の入り口に向かった。闘技場に一歩、足を踏み入れると、いきなり視界が開ける。

 オレの目に満員の観客席と白い小石で敷き詰められた広い闘技場が映った。観客の圧倒的な視線で立ちくらみしそうな自分を励まし、指示通り中央まで歩く。

 観客から低いどよめきが起こった。


「なんだ、女だぞ!」

「それどころか、まだ子どもだ」

「何かの間違いじゃないのか?」

「いやしかし、上玉だなぁ」

「はは、お前の女好きは相変わらずだな……」


 驚きと非難の入り混じった声があちこちで聞こえる。


「しかし本当に出場者か、あの衣装は召使いの物だろう?」

「しかもあんなデカイ剣、使えるのか?」


 そう、オレが背負っているのはテリオネシスの剣。そして当然、セットの防具を着ている……。

 まぁ、何だ……端的に言えばクレイの誘惑に負けたって訳だ。主義スカートより欲求テリオネシスがやや優ったというところか。

 それほど、剣士にとって、この剣は魅力的だった……っていうか、大きい剣が欲しかったんだもん。


 観客のざわめきは続いていた。


「あの剣、あの娘の背丈ほどはあるぞ」

「なぁに、紹介用のはったりさ」

「でも本選出場者なんだろ?」

「お前馬鹿だな、あれはきっと大会を盛り上げる座興に違いないよ。今回は予選なしだから」

「なるほど、そんなもんか」

「ああ、可愛いなぁ! 惚れちゃいそう」


 最後のは、ほっといて概ね否定的な見方が大勢を占める。


 まぁ、こんななりじゃ普通はそう思うだろう。けど、本選で度肝を抜かせてやるさ。


 慣れないスカートの裾を気にしながら、中央に佇むとオレは、ふと空を見上げた。


 青空だった。

 雲ひとつない……吸い込まれそうな青……。

 鳥みたいにどこまでも飛んで行けたら、気持ちいいのかな?


 長い黒髪が熱風で揺れる。


 観客が少しづつ静かになり始め、係官が咳払いするのを聞き、オレは我に返った。


 し、しまった。ぼんやりしちまった。


 オレは四方に慌てて一礼すると、剣も抜かずに待機所に戻った。係官は苦虫を潰した顔をしたが知らん顔をする。


 何故だろう? 観客にアピールする気が失せていた。偽りの姿で武威をひけらかしても意味がないように感じた。


 オレは待機所に入り、静かに出番を待つ男をじっと見つめた。



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