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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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今のあなたの目標を安心サポート!③

 情報収集をクレイに任せてしまうと、無差別級の本選までオレのしなくちゃいけないことは、ほとんどないと言って良かった。宿屋の中庭での鍛錬と、闘技場での観戦で毎日が過ぎていく。

 大会開始から半月が過ぎ、基本部門の決勝戦が近づくと、自然に市民の話題は次に行われる無差別級の本選についてのものとなっていた。特に今回の無差別級は予選が無く行われるせいで、本選が開催されるまで出場者が全くわからないという状況が話題を加熱させる原因となっていた。

 そのため、巷では出場者予想が大いに盛り上がり、にわか専門家気取りの人物が出場者予想を、したり顔で話す姿がどこの酒場でも見られた。


 オレが準決勝を観戦した帰りに大通りを歩いていた時だ。肉の焼けるいい匂いが、どこからかともなく漂ってきた。

 匂いの元を捜してみると、通りに面した屋台で串に刺した焼肉を売っている。思わず匂いに釣られて近づくと、屋台の周りに串焼肉を肴に酒を飲む数人の男達がいた。

 屋台の主人に注文し、何気なく男達の話に耳を傾けると、案の定、話題は本選出場者の予想だった。


「まあ、ラドベルクは当然として、あとは誰が出るだろうか?」


 座の中央にいる頭の禿げ上がった赤ら顔が言う。


「エントランド(エントランド連合王国)の騎士ローヴァスが出ると聞いたな」


 右側の痩せた白髪混じりの男が、得意そうに話す。


「剣闘士のオルラックが今回も出るそうだぞ」


 左側の太った男が続ける。


「そうか……しかし、昨年優勝のフェルマスが怪我のため、出場辞退ってのは、がっかりしたなぁ」


 赤ら顔が残念そうに言う。


「いや、何でもラドベルクと闘いたくないための仮病だって噂があるぞ」


 白髪混じりが声を潜めて話す。


「それはないだろう。奴だって優勝者だ、ラドベルクといい勝負だったかもしれないぜ」


 赤ら顔が反論する。


「おいおい、お前達! 今年の大本命を忘れてるぞ」


 対面の商人風の男がしたり顔で言う。


「誰だい、そりゃぁ?」


 他の三人が首をかしげる。


「白銀の騎士ヒュー・ルーウィックだよ」


 商人風の男が、自分が白銀の騎士になったかのように威張って言う。


「おお、そうか。今年は彼が出るんだってな」

「こりゃ、要注意だ。賭け率がどうなるかな」

「ラドベルクとルーウイックか、迷うなぁ」


 発言者以外の三人がてんでに話し始める。


 さすがはヒュー、人気があるな……って賭博かよ。


 気がつくと、その男達以外の周りにいる者の話題も、もっぱら賭け事に関わる話に終始していた。武闘大会の賭けに勝ち、一夜にして大金持ちになった者や、反対に没落した者の話など枚挙にいとまがない。それほど、ルマ市民がこの武闘大会に傾ける情熱は並大抵ではなかった。


 宿屋に戻り、さっそく噂の当人に報告する。


「ヒュー、街で凄い人気だよ」

「そうですか? 期待されるのは嬉しいことです。頑張らなくてはいけませんね」


 いや、期待されてるのはきっとラドベルクの対抗馬としてだろうけど。


「まあ、頑張ってね。それよりこれ、お土産」


 熱々の串焼肉をヒューとクレイに差し出す。


「お、美味そうだな」


 クレイとヒューが受け取ると、オレは自分の分を豪快にかぶりつく。


「おいおい、リデル。ヒューがびっくりしてるぜ。少しはお淑やかに食べたらどうだ?」


 確かにヒューが串を持ったまま、目を点にしている。


「へ? いけなかったか」

「いえいえ、見ている方が清々しくなるくらいの食べっぷりですよ」


 それ、褒めてんだかけなしてんだかわかんないよ、ヒュー。


「とにかくあんたが噂の渦中にいることは、間違いないようだな」


 クレイが感心したように話す。


「私は闘いに専念するだけです」


 ごもっとも……ヒューの言う通り。出場者は勝つことに意義がある。名誉も金も勝者のものだ。

 でも、ヒューの求めているのは、それとは少し違うように思えた。


 何だろう? 名誉欲や金銭欲はもとより探究心だけではない……何か己に課した罪罰のような峻厳さが感じられる。

 けど、穏やかさに秘めたその内包する厳しさの意味を気安く問える筈もなかった。

 それに『白銀の騎士』という世間が羨む名声を少しも喜んでいるようには思えなかった。

 むしろ、その立場に伴う行為を半ば義務と考えている節が見受けられた。

なので、名士や高官からのお誘いがあれば、鍛錬を犠牲にして出掛けて行く姿を何度か目にした。


 オレは自分自身の秘密が打ち明けられなくて心苦しく思っていたけど、ヒューもまた自分の本心を明かしていないんだと常々感じていた。

 いつか、お互い何でも話し合える友達になりたい。クレイと談笑するヒューを見て、心底そう思った。


 そして、そんな矢先に、そのヒューに信じられない事件が起きた。



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