決着……④
「とにかく、ご面倒おかけして申し訳ありませんが、ドゴスの証言を確認しに行った使者が神殿から戻るまで、ここにてお待ちいただくことになります」
「別に構わないよ。最初から、長引くと思ってたから」
恐縮するグビル団長にオレが気にしないでくれと返答すると、それではと食後のお茶まで用意をしてくれる。
さきほどの昼食の給仕もそうだが、可愛らしいメイドさんではなく、いかつい男性が澄ました態度で、お茶を淹れてくれるのは、何とも言えない光景だ。
オレが微妙な顔をしていると、団長が笑って言う。
「グレゴリ傭兵団は、男女の区別はつけないようにしてるんです。入団したての若いやつが給仕等の身の回りの世話することになっていましてね」
そういや、グレゴリは実力主義で男も女もないって聞いたことがある。オーリエも女性とは思えないほどの腕だったし、本当のことのようだ。
「そいつは、厳しい話ですね」
クレイが表情を消して呟く。
それに対し、苦笑いしながら団長は答えた。
「まあ、そう言うな。私もその辺のことは、ちゃんとわきまえているさ。だが、男女の差を理由に戦場に出さないというのも一方的だと思うぞ。それに君だって、リデル様を戦場に出していたと記憶してるが……」
「こいつは……規格外です。それに必ず俺が傍にいますから」
どうやら、二人の会話の真意は戦場に女性が立つことのリスクを話していたようだ。確かに、生物学的に見ても、身体能力で男性より劣る女性の傭兵が戦場で活躍するのは難しい。
さらに敗者の側に立てば、おそらく男性より過酷な運命が待ち構えていると言ってもよかった。
クレイの言う「厳しい」はそうした可能性も含めて、女性を区別しないというグレゴリ傭兵団に投げかけられたものだ。
もっとも、そうは言ってもグレゴリはいくつかの部門に分かれて運営されており、実際のところ戦場以外での活躍の場はかなりあるのが実情だ。
事務方トップで団長の奥さんのリザさんなんかは、まさにその典型と言えた。
「必ず俺が傍にいる……いやいや、これはご馳走様。君のその強い意思と彼女に対する信頼があるから、君達は共に戦えるというわけか。羨ましいね、それは」
茶化したように団長は言ったが、その瞳は本当に羨ましそうに見えた。
うん、クレイ。真顔でそういうことを言うのはやめようか。
オレが恥ずかしすぎて死ねる。
顔を赤くしてクレイを睨みつけると、オレが何で怒ってるのわからないのか不思議そうに見返す。
じっと見られると、余計恥ずかしくなる。
「そうそう、伯爵様ではないですが、私もリデル様にひとつ質問があるのです。伺ってもよろしいでしょうか?」
「え、別にいいけど」
笑みを絶やさず、問いかける団長にオレは訝しげに答える。
「じゃ、お言葉に甘えまして……」
不意に笑顔を消し、表情を改めるとグビル団長は聞いた。
「何故、帝都にいるはずの貴女がカンディア(ここ)にいるんですか?」
オレは思わず絶句した。
「ずっと気には、なってはいたんですよ。娘のオーリエは手紙で皇女様が帝都で頑張っていらっしゃる様子を書き綴って来ています。それも、つい最近の手紙であってもです。はたして娘が嘘を書いて寄越したのか……はたまた奇怪なことですが皇女様がお二人存在するとでも言うのでしょうか?」
団長はにこやかな笑みを浮かべていたが、その目は真剣だった。
「まったく解せませんな。帝国が難局を迎えている現在、その責任を負うべきお方がこんな場所でふらふらしているなどと、とても信じられません」
「……ひょっとして、団長……怒ってる?」
どうも言葉の端々に棘を感じる。
「怒ってはいません……ただ腑に落ちないだけです。だから理由を問いたいと思った次第です」
団長の問いかけに、オレはまたもや答えに窮する。
あれ、こんな状況……さっきの伯爵との会話でもあったような。
そんな風に考えていると、やはり先ほどと同じようにクレイが会話に割り込んでくる。
「団長、少し話させてもらっていいか?」
「それは構わないよ、クレイ君。確かに君と話した方が話が早そうだ」
す、すいませんね……返答が遅くて。
オレが少しばかり傷ついていると、クレイの目がすっと細くなった気がした。
「まず、最初に言っておきたいのは、団長にお教えすることのできない情報もあることを了承していただきたい」
「それはもちろんだ。私は団長という役職に就いてはいるが、ただの傭兵に過ぎんからな。宮廷がらみのどろどろとした政治劇は御免蒙りたいね」
「それは俺も同感ですよ。さて、それではリデルがここにいる理由なんですが……いきなりで心苦しいのですが、残念ながらお答えできないのです。ただ、明確な理由が確かに存在し、団長の言うように『ふらふら』しているわけでは、決してありません」
あれ、クレイも怒ってる?。
「ふむ、皇女の公務の範疇だと言いたいのだね」
「ええ、そうです」
「なるほど、しかしそれにしては、ずいぶん寄り道が多いような……」
ぎくっ。
それを指摘されると、ちょっと痛い。さすがのクレイも思わず言葉に詰まる。
「そ、それは……団長、貴方もリデルの気持ちや立場について考えてみてください」
「気持ちや立場?」
「ええ、こいつが帝都に向かったのは、皇女になるためなんかじゃありません。人助けだったり、情報収集のためだったり、別の理由です。言い方は悪いですが、皇女になったのも、本人としたら成り行きでなったように感じているかもしれません」
「まさか……」
成り行きで皇女になるとは思わなかったのか、団長は目を丸くしていた。
「ですから、皇女としての心構えがリデル本人にできていないからと言って、それを責めるのは酷というものでしょう」
ここ数日、アクセス数が急に増えています。
もしかして、夏休み効果なのでしょうか?
新しい読者も増えるといいなぁと思う作者でした。




