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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いつまでも可愛くしてると思うなよ!
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Take me out to the ...game ②

「そういう経緯があったのか……」


 ラドベルクの友人から、話を聞き終えたオレはそれ以上の言葉が出てこなかった。

 話した本人は、もう言い尽くしたかのようにぐったりしている。オレは金貨1枚をオジサンに渡してやると労をねぎらった。


「ありがとな。乱暴して悪かった、これで一杯やってくれ」


 そう言い残すと、オレは踵を返して闘技場に向かった。

 気分の悪さも、今の話を聞いてどこかへ行っちまったみたいだ。


 走りながら、もう一度、ラドベルクに係わる話について思い返していた。



 ラドベルクは貧しい農家の三男坊として、この世に生を受けた。そして、成長すると、家を出て軍に入った。家を継ぐでもない、体格に優れた若者が農村から出て、戦いを生業とする職業に就くことは、この時代にはよくある話だ。

 最初、彼は正規軍に徴用されたが、その体格とは裏腹な温和な性格が災いして、長続きしなかったという。性格的に軍隊生活がなじめないことはわかっていたが、食い扶持を稼ぐため、傭兵稼業にその身をやつすしかなかった。

 やがて、傭兵団に所属するようになると、彼の境遇は一変した。平素は温厚な彼が、極限状況に追い込まれると、その隠された凶暴性により戦場を圧倒したのだ。

 敵も味方も、そのあまりの圧倒的な力に『狂戦士』と呼び、彼を畏れた。個人戦闘に限っていえば、彼に勝てる者はごく少数に過ぎなかった。そのため、ラドベルクが投入される戦いはより過酷なものとなっていった。


 そして、今からおよそ6年前にその事件は起きた。


 その戦いにおける彼の所属する傭兵団の任務は、正規軍が撤退するまでの時間稼ぎだった。戦意旺盛な追撃部隊に取り囲まれ、逃げ道を阻まれ、隊が壊滅しそうになったその時、ラドベルクは文字通りバーサーク(狂戦士化)した。

 死を覚悟した彼は、今までに無いほどの力を周囲に見せ付けた。敵の指揮官は彼一人による損害の多さに、追撃を断念し撤退を決意する。

 しかし、満身創痍で生き延びたラドベルクの周りには敵はもとより、味方さえ誰一人生き残っていなかったのだ。

 その戦いを契機にラドベルクは傭兵を辞め、闘技場に闘いの場を移すことになる。


「要するに、自分が怖くなったんでさぁ」


 彼の友人だったという男は言う。


「人殺しはもうこりごりだって言うんで、剣闘士に職を変え、武闘大会で稼げるだけ稼いで引退したって訳です」


 羨ましそうに言った。


「で、ちょうどその頃になじみの女が病で亡くなって子どもが一人残ったっていうんで、引き取って、山奥の村へ移り住んだようでさぁ」


「それが2年前か」


「そうです。でも、子どもなんぞ引き取って、何のつもりなんですかねぇ?今さら罪滅ぼししてもしょうがないってのに」


 ラドベルクの友人は不思議がっていた。



 オレは回想を思い返しながら、闘技場へと走った。ラドベルクにどうしても会って話がしたい気持ちになっていた。

 既に試合が始まったらしく、人通りも少し減り、闘技場まで問題なくたどり着いた。

 ただ、闘技場の外まで人があふれていて、中へ入れる状況ではなかった。


 どうしたものかと、思案していると見知った顔に運良く出くわした。


「おっちゃん――!」


 オレの良く通る高い声があたりに響いた。


 幾重もの護衛に守られ、来賓送迎用の馬車に乗り込もうとしていた将軍が動きを止めて振り返った。一斉に緊張する護衛達を手で制すると、嬉しそうに返答する。


「何だ、リデル殿ではないか。わしに何か用向きか?」

「ううん、闘技場にラドベルクはいる?」

「用があるのはわしではなく、武闘王の方か、そりゃ残念だのぉ」


 大げさなポーズで残念がる将軍にイラっとする。


「ぐだぐだ言ってないで、早く教えろよ!」


 周りの側近のこめかみに青筋が立っていたが、この際無視する。


「おお、彼ならいるぞ、先ほどまで一緒に開会式に出ておった」


 オレの暴言にもニコニコして返事をする。


 おっちゃん、ひょっとしてMなのか?

 それとも孫娘に邪険にされて嬉しがる爺さんのパターンなのか?


「奴に会わせてくれ!」

「貴様、黙って聞いておれば、何様のつもりだ――!」


 闘技場の時とは違う側近が、口から泡を飛ばして激怒する。


「まぁ待て、そう怒るな。この娘とわしは浅からぬ縁があるのだ」


 その一言で周りが動揺するのがわかった。


(もしや、将軍の隠し子では……)


 そういうささやき声があちこちで聞こえる。


 おっちゃん、大概にしないとシバクぞ。

 ただでさえ目立ってるっていうのに……。


「もういい、おっちゃん。ほかを当たる!」


 オレが素気無く言って立ち去ろうとすると、案の定、慌てて引き止める。


「リデル殿、短慮はいかん。まあ、わしに任せておきなさい」


 そう言うと思ってた。


「そうかぁ……、気が進まないけど、仕方ないなぁ……じゃ、よろしく頼むよ」

「それはありがたい」


 え? 何気に立場が逆転してるって、気にしない気にしない。


 オレはVIP待遇で、将軍と一緒に闘技場へ入場した。


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