Take me out to the ...game ①
「いやぁ~、ホントに凄いね」
オレは驚きのあまり、つい大きな声を上げた。
「みっともないから止めろ。田舎者ってバレバレだぞ」
そういうクレイだって、目を丸くしているじゃないか。
「いよいよ始まりましたね」
唯一冷静なのは、都会に慣れているヒューだけだった。
オレ達は闘技場へ向かう目抜き通りを歩いていた。
ルマ市の中心部に繋がる主要道であり、馬車が四台は通れる程の道幅に出店や物売りがひしめき合い、見物客であふれていた。普段、人ごみに慣れていないオレは、人いきれで気分が悪くなりそうだった。
「今日は(基本部門の予選)一日目だから無理するな。宿に戻った方がいい」
目ざといクレイがオレの不調に気づき、声をかけてくる。
いや、行く! と逆らいたかったが、体調が許してはくれなかった。
「うん、そうする」
力無く答えると、今来た道を逆戻りする。
こういうところは、全然最強じゃないんだから……。
聖石に不満の一つも言いたいところだけど、体調の良し悪しさえもなくなったら、人間じゃなくなる気もした。
数ある武闘大会の中でも、最も歴史があり、最も名高いルマの武闘大会。四の上月(太陽暦の10月に相当する)の一ヶ月間に渡って行われ、公国内外から多数の参加者があり、上位入賞した者には高額の賞金と大変な名誉が与えられる。その恩恵により、正規軍の将校に取り立てられる者もあれば、他国に厚遇で迎えられる者もいた。
元々オレもそれを狙っていたのだ。今の近衛軍司令も、この大会の出身者と聞いている。エクシーヌ公女に近づくための最短経路だとオレは思っていた。
日程は月の上旬に基本部門の予選、中旬に基本部門の本選と特別部門(無差別級)の予選、下旬に特別部門の本選がある。これは基本部門の上位入賞者が特別部門の本選に参加できるように配慮されているからだ。基本部門上位入賞者は、無条件で特別部門本選のシード権を手に入れることができる。
ただ、基本部門優勝者はその名誉を損ねるのを良しとしないのか、そのまま特別部門に出場することは稀だった。
だから、準優勝者や3位入賞者が敗者復活戦の意味合いで参加することが多い。
どちらにしても、特別部門……すなわち無差別級の格式は基本部門より一段高いと見られていた。
男なら、やっぱり目指すのはてっぺんじゃなきゃ…………今は男と違うけど。
オレも本来なら、特別部門の参加となるので中旬から闘技場の宿舎に留め置かれる予定だった。
けど、狂戦士様のおかげで予選中止が決定し、下旬からで良くなったのは嬉しい。
だから、最初はイエナちゃん救出の時間が取れると素直に喜んでいたが、この市中の人間の多さとお祭り騒ぎでは、人捜しなど到底、無理に思えてきた。
体調不良と事の困難さに気が滅入って、とぼとぼ歩いていたオレの耳に突然『ラドベルク』と言う単語が飛び込んできた。
振り返ると、傭兵風の男達三人が通りの出店で酒を飲んでいた。今時分飲んでるってことは、出場者でないのは間違いないし、見るからに弱そうだ。
オレは再び歩き始めようと前を向いたが、次の言葉で立ち止まる。
「そうなんだ、ラドベルクとは傭兵時代のダチでさ。で、あいつが傭兵稼業から引退した理由、知ってるか?」
与太話と思いながらも、聞き耳を立てる。
「いや、所帯を持ったからだって、聞いたが」
「おいおい、馬鹿言うな。あいつはずっと独身だぜ」
えっ、イエナちゃんは?
「おい! それホントか?」
思わず、会話に割り込むと三人はぎょっとした顔でオレを見た。
「な、なんだい嬢ちゃん、びっくりさせるなよ」
「そんなことはどうでもいい。ラドベルクが結婚してないって、本当なのか?」
「ああ、本当だとも……」
オレの剣幕に相手は、目を白黒させながら頷く。
「でも、娘がいるぞ」
「ああ、それは養女のことだろ?」
「養女……」
「嬢ちゃん、可愛い顔して怖いねえ」
オレが思案にくれていると、訳知り顔のラドベルクの友人というオジサンはへらへらと笑った。
とにかくこいつは聞き捨てならない情報だ。
「おい、おっさん。もうちょっと詳しく話してもらおうか」
黒オーラを放ちながらオジサンに詰め寄ると胸倉を掴んだ。そのまま、足が地から離れるほど持ち上げると、オジサンは青くなって叫ぶ。
「な、なんでも話します。だから許して……」
もちろんさ、オレは心優しき乙女だもの。




