祝賀会……④
ほどなくして、サラ達が市庁舎から戻ってきた。
ふだん、めったに感情を露にしないワークが明らかにほっとしたように見えたので、彼がオレ達が逃げ出しているのではないかと危惧していたのがわかる。
一方、サラはというと、
「やあ、待たせてしまって悪かったね。すでに支度はできているから、少し時間をもらえれば、すぐに出発できるはずだよ」
内心はどうかわからないが、表面上はオレ達を全く疑っていないように見えた。
オレ達はサラ達を待つ間に『喝采の嵐』の面々と別れの挨拶を交わすことにした。
「君達には本当に世話になったね。本音を言えば、このままこの一座に入ってもらいたいぐらいだよ。だが、君達にもいろいろと事情があるようだから、無理に引き止めたりはせんよ。ただ、気が向いたら、また手伝ってくれると嬉しいかな」
座長は、心底残念そうに言い、路銀の足しにと追加の報酬をくれた。
やっぱり、良い人だ。真ん丸な体型もどこかユーモラスで、けっこう好きかも。
お別れするのは、ちょっと寂しい。
「結局、君のハートを盗めなかったことが、心残りでならないよ」
いつもの芝居がかった口調でフォルヴァインが嘆く。
「こうして二人が無理やり別れさせられるのは、まさに神の与えた試練に違いないね。必ず二人で、この運命を乗り越えようじゃないか」
いやいや、乗り越えたくないし、オレはあんたと別れることができて、せいせいしてるのだけど。
「せめて、最後に別れの口付けを……ごふっ!」
自分に酔ったように話すフォルヴァインの顔に、いきなりパンチが炸裂する。
え、オレじゃないよ。
驚いて殴った相手を見る。
「うふふ……馬鹿の戯言は聞き流してくださいね」
にこにこと、いつもと変わらぬ表情でミルファニアさんが笑っていた。
なにこれ、ちょっと怖いんですけど。
一発でフォルヴァインを沈めたミルファニアさんは、何ごともなかったようにオレの手を握り、目を潤ませる。
「リデルさんとお別れすると思うと、辛すぎて生きていけないです」
「お、おう」
「ですが、相手の幸せを考えるなら、潔く身を引くっていうのも大事なことですよね」
「ま、まあそうかな」
ミルファニアは、その言葉を聞いて、一旦は力なくうなだれるが、
「でも、やっぱり離れたくないですぅ……」
再び、オレの手をぎゅっと握り締めると潤んだ目で見つめてくる。
頬は紅潮し、息も荒い。
何よりも、普段の消極的な態度が影を潜め、積極的にぐいぐい攻めてくる。
何なんだ、今日のミルファニアは?
も、もしかして、興奮してるのか? いや、そうじゃない、これは……。
オレがドン引きしていると、隣にいた座長が慌てふためいてミルファニアを取り押さえながら叫んだ。
「誰だ、朝っぱらからミルに酒を飲ませた奴は……」
他の座員は顔を見合わせると、一斉にダウンしているフォルヴァインを指差した。
「な、何で止めなかったんだ」
「ミルが二日酔いで調子が悪いと言ったら、フォルヴァインさんが二日酔いには迎え酒が一番効くって……」
元吟遊詩人さんが、そう証言すると座長は頭を抱えた。
フォルヴァイン……自業自得だったか。
そんな訳で、せっかくしっとりとした別れのシーンを期待していたら、はちゃめちゃな幕切れとなってしまった。
まあ、それがあまりに『喝采の嵐』らしくて、面白かったけど。
その後、ミルファニアはそのまま酔いつぶれて眠ってしまい、気を失ったフォルヴァインの怪我もたいしたことはなかったようだ。
ただ、自慢の二枚目が台無しになってしまったので、しばらくは舞台に立てないだろうとの話だ。
座長は、休暇を取るつもりだったから良かったものの、公演中なら大事になっていたと、今度という今度は目が覚めたら二人を厳しく説教してやると息巻いていた。
オレが目が覚めたフォルヴァインが激怒するのじゃないかと心配していると、座員はいつものことだから、気にしなくて良いと苦笑いする。
座員の話によると、実はフォルヴァインとミルファニアは同じ村出身の幼馴染の間柄だそうで、恋人同士ではないけれど、ずっと一緒にいる仲で、こういう騒ぎは日常茶飯事なのだそうだ。
浮気性で派手な色男と堅実で控えめな地味女の組み合わせ……普通なら一方的な関係になりそうなのに、実際はミルファニアの方が主導権を握っているのだとか。
なんだか不思議な関係だ。
オレは、座長に慰めの言葉をかけ、サラ達との待ち合わせ場所に向かった。
しばらく待つと、言葉どおり短い時間で準備を終えたサラとワークが『シトリカの涙』の通用門に現れた。旅行中なので荷物はそんなに多くないし、すぐに必要のない物は馬車に載せたままにしていたそうだ。
オレ達も旅行者用の有料厩舎に預けていたリーリム達と久しぶりの再会を果たしていた。
雨のせいで、外に出られず欲求不満だったリーリムはオレに頭をこすり付けて、遠駆けをねだってくる。
オレもその誘惑にのりたいところだけど、さすがに時間の余裕が無い。
シトリカを出たら、思う存分走らせてやるから。
頭を撫でて優しく諭したが、ご機嫌斜めのようだ。
これから河を渡るために狭い船に乗らなきゃならないのに大丈夫だろうか。
ちょっと、心配になる。
けど、オレの杞憂は、意外な形で裏切られた。
なんと、ワークが顔に似合わず(失礼!)、抜群に馬の扱いが上手かったのだ。
それこそ、オレが嫉妬するぐらいリーリムはワークに懐いていた。
サラの話では、人間には怖がられるが動物全般に好かれやすいのだそうだ。
なに、そのスキル。ぜひ、オレにも教えて欲しい。
羨ましくて、涙が出るぞ。
そのワークの神スキルのおかげで、オレ達は問題なく西シトリカに渡ることができたのだ。




