表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
いいかげんにしないと怒るからね!
232/655

引き続き第三幕……③

 

 オレは、みんなの好意的な反応にほっとして客席に笑顔を振りまこうとした。


 その時だ。

 不意にぞくりとした感覚を覚え身を固くする。

 これは、戦場で何度も感じたことのある……紛れもない『殺気』だった。


 無意識にサラの方へ視線を飛ばすと、彼女はクールな表情を保ちつつ口元に笑みをもらしながら、観客に手を振っていた。


 サラじゃない。 


 オレは慌てて、今度は客席を見渡したが、圧倒的な観客の熱気を感じるばかりで何も見出せなかった。

 先ほどの濃密な殺意は、ほんの一瞬だけオレに向けられたようだ。


 何者なんだろう?


 オレが本物の皇女であることを知っての行動なのか、それとも単に役者としてのオレに殺意を抱いたのか。

 全く見当がつかない。どちらにしても、尋常でない殺意だ。

 そこまで人に恨まれることをした覚えがあんまりない。


 頭を悩ませていると、クレイとヒューが訝しげにこちらを見ていた。

 どうやら、クレイ達も異変に気づいていたようだ。けど、舞台の上なので、それ以上の反応は見せることはなかった。


 やがて、カーテンコールも終わり、役者がそれぞれ一礼すると舞台袖に消えていく。

 オレも気を取り直して笑顔を見せると、客席に向かって小さく手を振りながら舞台を後にした。


 こうして、最後の最後で少しばかり気になることもあったけれど、『喝采の嵐』の最終公演はシトリカでも類を見ない大盛況の内に終了したのだ。



◇◆◇◆◇



「だから、考え直してはくれないかと言ってるんだ」


「その件は、とうに済んだ話だったではありませんか」


「ソルメロス、そこをあんたの力で何とかして欲しいんだよ」


「そう言われましても……」


 興奮醒めやらぬ観客を送り出し、片づけがひと段落して楽屋へ戻ると、支配人と座長が押し問答を繰り返していた。


 どうやら、『喝采の嵐』の慰留を持ちかけていたようだ。


「おや、リデル君じゃないか。本当に素晴らしい舞台をありがとう。そうだ、君からも座長に言ってくれないか」


「どうしたんですか、支配人さん」


「どうしたもこうしたも、ソルメロスが頑固で困ってるんだよ」


「頑固ではありません。最初から、河止めが明けるまでという契約だったでしょう」


「それはそうだが……だから、新しい契約を結ぼうと申し出ているんじゃないかね」


「残念ながらお断りします。『喝采の嵐』は旅芸人の一座です。一箇所に腰を落ち着けて興行することは考えておりません」


「何を青臭いことを言ってるんだ。君らだって、ここにいれば安定した生活が続けれられるし、私だってこれだけの公演ができる一座をみすみす手放すことなんてできやしないよ」


「残念ですが、見解の相違ですな」


 座長が取り合わないことを悟った支配人は、今度はオレに目を向ける。


「一座が駄目なら……リデル君、君だけでもここに残ってくれないか。決して悪いようにはしない」


「支配人!」


 珍しく座長が怒気を見せる。


「この際だから言うんだが、正直『喝采の嵐』なんて、どうでもいいんだ。君が……君さえいれば客を呼べる。だから……」


「ほお、そいつは聞き捨てならないね」


 支配人が話し終える前に、サラが危険な笑みを浮かべながら、オレの後ろから顔を出した。


「こ、これはサラ女史……いやあ、君の書いた脚本ほんのおかげで本当に素晴らしい舞台になったね。感動したよ」


「ふん、さっきはそんな風に言っていたようには聞こえなかったがねぇ」


「そ、それは……」


「いいかい、よくお聞きよ。あたしは自分の書いたものに責任と誇りがあるんだ。たしかに、リデルという素材は凄かったさ。でも、それを生かしたのは、あたしの脚本であり、演出であり……『喝采の嵐』全員の努力の結果だと思ってる」


 サラはにやりと笑ってオレを見る。


「リデル……君はどう思う? 自分だけの力で、この成功を成し遂げたと思うんなら、好きにしたらいい」


「サラ、オレは素人だよ。みんなのおかげで、たまたま注目を集めただけだと思う……だから、支配人さん、ごめん。貴方の要望には応えられない」


 オレが明確に拒絶すると、支配人はがっくりと肩を落とす。


「そういうわけだ、諦めてくれ」


 座長が声をかけると、支配人は力なく頷いた。


「わかった、それについてはきっぱり諦める。その代わり、さっきの話は受けてくれるんだろう?」


 さっきの話?


「ああ、あの話か。ちょうどいい、君たちにも意向を聞きたいんだが、シトリカ市長が河止め明けを祝うパーティーを開くらしい。その会に我々を招待したいのだそうだ。どうするかね?」


 ん、市長の招待?


 何だか、厄介ごとの予感がするぞ……。


「それについては、あたしは座長に委ねるよ。面倒な話だけど、一応は名誉なことだからね」


「オ、オレは……」


 どうしよう……主演女優が不在じゃ、座長の面目が立たないし。かと言って、参加するのも何となく嫌な予感がしてならないんだよな。


 それとなく、クレイとヒューを見ると二人ともお前に任せる的な顔をしている。


 無責任な奴らめ。


 オレは一つため息をつくと、諦めたように言った。


「オレも座長さんに任せるよ」



◇◆◇◆◇



 翌日の昼までオレは泥のように眠った。


 支配人が帰った後、『喝采の嵐』の面々と酒場を借り切って、打ち上げを行ったのだ。舞台の成功を祝って、大いに盛り上がった記憶がある。


「らから、なんれわらしのればん(出番)が、なかったのれすか?」


 ミルファニアさんが強い酒をしこたま飲んで、座長に詰め寄ったこともよく覚えている。


 本来は、アレク公子の婚約者として登場し、エミリア皇女を執拗に苛める役どころだったのだが、時間の都合で割愛されてしまったのだそうだ。


「誰だ、ミルファニアにこんなに飲ませたのは!」


「いえ、自分でほいほい飲んでましたけど……」

  

 元吟遊詩人の座員が座長の問いかけに答える。


「明日の夜は祝賀会があるんだ。みんな、ほどほどに……おいリデル君、大丈夫か?」


「にゃははは!」


 かく言うオレもヒューが止めるのも聞かず、強いお酒を呷ったせいで、この後のことはあんまりよく覚えてないんだ。

 決して、クレイとソフィアがいつものごとく姿を消したせいなんかではない。


 べ、別に気になんかしてないんだから。




 とにかく目を覚ますと、もう昼は過ぎてるし、おまけに酷い頭痛でベッドから起き上がれなかった。


 体も何となくだるいし、微熱もありそうだ。そう言えば、そろそろそういう周期だったことも思い出され、さらにブルーな気分になる。



「よお、お早う。二日酔いでダウンしてるんだって?」


 オレが唸っていると、クレイが爽やかな笑顔で入ってくる。

 こういうタイミングに限って、現れるこいつを、本気でどうしてくれようかと思う。


「うるさいなぁ。それより、ちゃんとノックしろよ。一応、乙女の部屋だぞ」


「何言ってんだ。ちゃんとノックしたけど、返事が無かったんだぞ。それに男同士って触れ込みで泊まってるんだ。あまり気を使うと逆に変に思われるだろ」


「いいから、黙っててくれ。オレは疲れてんだから」


「機嫌悪いな。本当に体調が悪いんだな」


 もし、さらに下らないこと言ったら、真剣に引っぱたこうと思ってたけど、どうやら真面目に心配してくれているらしい。


「一応知らせておくが、ソフィアには一足先に西シトリカに渡ってもらったからな。俺達が向こうに着く頃には情報収集を終えているだろうよ」


 昨晩は、慰労を兼ねてその打ち合わせをしていたってわけだ。クレイとソフィアのことだから、色っぽい話になるなんて思わないけどさ。


「ま、時間になったら起こしに来てやるから、それまで休んでたらいい」


 クレイは優しげな口調で言うと、静かに戸を閉めて出て行った。


 オレは枕に顔を埋めると、ここ最近のことを振り返る。


 ちょっと、いろいろ我がままが過ぎたかな。クレイやヒューに甘えてばかりな気もする。

 舞台が終わって安心したせいだろうか、どうにもマイナス思考に陥っているのが自分でもわかる。


 クレイの気持ちは……わかってる。

 オレのこと、大切に思ってくれているけど、それは『主』としてだ。本人がそう言っているから間違いない。


 じゃあ、オレは……。


 考えると頭が痛くなる。


 もう一眠りしよう、オレは仰向けになると目をつぶった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=687025585&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ