厳選アイテムをあなたに!③
アーキス・グラント将軍――――『カイロニア公国の盾』と称される将軍で、智謀と勇猛さを兼ね備えた指揮官として国内はもとより国外でも名の知れた人物だ。内戦時に周辺諸国の介入を許さなかったのは、ひとえにアーキス将軍によるところが大きかったとも伝えられている。
まさに公国の重鎮、いやイオステリア帝国の重鎮と言って良いだろう。
なのに、ここで何してるんだ?
お遊びが過ぎるぜ、全く。
オレはその名が聞こえなかった振りをして、そ知らぬ顔で将軍に聞いた。
「で、試験の結果はどうなんだ?」
「おお、忘れておった。無論、合格だ。久しぶりに楽しかったぞ」
「そりゃ、どうも……」
将軍はご満悦のようだ。
「今回は、予選なしで本大会になる。どうする、闘技場の宿舎にすぐに入るか?」
「いや、まだやることがあるんで、もう少し市内に残るよ」
本選通過者の特典である宿泊費等の全額負担は確かに魅力的だったけど、行動の自由を束縛されるのは避けたい。ラドベルク親娘を助けるためには、時間が必要だった。外へ出られないんじゃ、話にならない。
「そうか、本選まで、まだ間があるからな。市内見物なども良かろう」
「しかし、本選出場者は宿舎に留め置くのが規約となっておりますが……」
付属品改め側近らしき男が固いことを言い始める。
「予選会の期間までは含まれていないと記憶しておる。構わないだろうさ」
「しかし……」
側近君は納得しかねる様子だ。
オレはふと思いついたことを口にする。
「ねえ、試験官のおっちゃん。ラドベルク・ウォルハンの居所って知ってる?」
「お、おっちゃん……」
側近君は唖然として凍りついた。
「おお、かつての武闘王だな。もちろん知っておる。確か『英雄の憩い』という店を定宿にしておったぞ」
将軍は意に介さずニコニコと教えてくれた。
案外、良い人かも。
「娘、ひょっとして大会前にラドベルクと一戦交えるつもりか? 奴は手強いぞ」
心配そうに聞いてくる。
「おっちゃんとどっちが上?」
「難しいことを聞きおるわい……そうさのぉ、個人技では奴の方が上かもしれん。わしはもう年寄りだからな」
あんだけ戦っといてよく言うよ。
「だが、わしは人を使うのに長けておるでな」
片目をつぶってニヤリと笑う。
そう……あんたの本当の凄さは、決して闘技場じゃ計れない。
「ありがとう、探す手間が省けて助かったよ」
「礼には及ばん。娘、大会を楽しみにしておるぞ」
将軍の目が少年のようにワクワクしているのがわかる。
「ああ、期待してくれ。じゃ、さいなら」
オレが出口へ向かうと、思い出したかのように将軍が声をかける。
「娘、そう言えば名は何と申したかの?」
「リデル・フォルテ」
オレは振り返って答える。
ホント、試験官なら名前ぐらい覚えておけって……バレバレだって。
オレは苦笑しながら闘技場を後にした。




