二人旅 ④
ジュバラク行きの旅程は、そんな風にすこぶる順調に進んだ。
それに変化が訪れたのは休息に立ち寄った村から出て、しばらくしてからだった。
オレ達が進んでいる街道は左右を森に囲まれていて、道幅も馬車がすれ違うのがやっとの広さでお世辞にも整備が行き届いているとは言い難かったが、馬や旅人の足で踏み固まれていて、思ったより走りやすい道だ。
ただ、道が折れ曲がったり、鬱蒼とした森の木々のせいで見通しが悪く、自然と馬の足も常歩となっていた。
ふと、何かを感じて顔を上げると、木々の隙間からキラリと光が見えた。
金属が日の光を反射しているのだ。
「クレイ、誰かいる」
オレの言葉にクレイは愛剣をすらりと抜き、周囲を警戒しつつ歩みを進める。
道なりに左へ折れると、はたして枯れ木や倒木を利用した簡易のバリケードが道を塞いでいた。
オレ達がその前で立ち往生すると、人相の良くない男たちが七人ほど森から飛び出し、周囲を取り囲んだ。
「こんなにきっちり現れるなんて、律儀というか、仕事熱心な盗賊さんだな」
「いや、俺としては確実に厄介ごとに巻き込まれるお前の悪運に脱帽してるよ」
オレの呟きにクレイは感心したように答える。
「リ、リデルさん……」
メイエが恐怖で声が出せず、青ざめた顔でオレにしがみつく。
「大丈夫だから、安心して」
オレは落ち着かせるようにメイエの腕を軽く叩くと、馬上から盗賊たちを見下ろした。
周囲を囲まれたのに、一向に取り乱す様子も見せず、冷静なオレとクレイに訝しげな表情を見せる盗賊たちの中から、坊主頭でぎょろりとした目の男が一歩前に出る。
「おいお前ら、もう逃げられんぞ。大人しく武器を捨てて馬から下りろ」
「お頭、ぶっ殺して身ぐるみ剥いじまいましょうや」
「まあ待て、女も野郎も美形じゃねえか。殺しちまうのはもったいねぇ。特にそのガキなんて、めったにお目にかかれない上玉だぞ」
うわあ、典型的な雑魚キャラの台詞だ。
「少し、待っててね」
「え?」
オレは丸腰でゆっくり下馬すると、お頭と呼ばれた男の前に進んだ。
「おい、こいつは……」
「なんて綺麗なんだい」
「街の妓女だって、これほどの別嬪は見たことねえぜ」
「女じゃないのがもったいねぇな」
「いや、こんだけ可愛けりゃ、男だってかまやしねぇ」
オレの周りに誘蛾灯へ群がるように盗賊たちが寄ってくる。
おいおい、周囲の警戒がお留守になってるぜ。
ちらりと見ると、クレイがメイエの安全を確保しているのが見えた。
さすが、クレイ。何も言わなくても、ちゃんとして欲しいことがわかってる。
オレが目の前に立つと、お頭とやらは情欲を隠そうともせず、ニヤニヤと見下ろす。
「可愛い顔をして、おめえ度胸があるな。なんなら、売るのは止めにして俺の色子にしてやるぞ」
何の警戒もなくオレへと手を伸ばす野盗に、にっこり微笑んで言ってやる。
「あんた、油断し過ぎ」
次の瞬間、オレの右拳が奴の皮鎧の胸にめり込んだ。
「ぐはっ……」
そのままの勢いでバリケードに突っ込んでいく。
「おかし……」
……らと悲鳴を上げる前に、周囲にいた四人の盗賊たちもオレの神速の足技の前に地面へと倒れ伏した。
振り返るとメイエに向かった二人もクレイに叩きのめされている。
「え……?」
一瞬の出来事にメイエがぽかんとした表情でオレを見つめている。
何が起こったか理解できていないようだ。
「クレイ、縄を出してくれ。縛っておけば、後からジュバラクの護衛隊が来るだろう」
了解したと縄を用意するクレイを横目にメイエに近づく。
「ほら、少しも怖いことなかっただろ」
「リデルさん……」
安心するように笑顔で声をかけたら、顔を真っ赤にして口ごもる。
あれ、何だか様子がおかしい。
緊張しすぎて、体調でも悪いのだろうか?
「それにしても、リデルさんって強いんですね。私、びっくりしました」
「そ、そんなことないよ。あれくらい、どうってことないさ」
「そんなことありません。リデルさんはすごい人です」
熱っぽく語るメイエさんにオレはたじたじとなる。
あの……メイエさん、さっきから密着度が上がってますよ。
何かいろいろ当たって、ヤバイんですけど。
前のオレだったら、確実に鼻血出してたと思う。
併走するクレイを見ると、オレの困惑する様を見て、笑いを堪えるのが必死のようだ。
「クレイ、絶対お前、楽しんでるだろ」
「そ、そんな滅相もない。モテモテのリデルくんに感心してるだけさ……くくく」
こいつ、絶対楽しんでる。
後で必ず、報復してやるからな。
「それより、リデル。お前も感じただろう?」
「ああ、ちょっとな」
急に真顔になったクレイにオレも表情を改める。
「いくらなんでも、アレはないだろう」
「確かにな……」
確かに、クレイの言うとおり、さっきの盗賊団の襲撃はないと思う。
オレとクレイが規格外だったとしても、あの盗賊団の体たらくはあまりに酷過ぎる。
それなりに腕っぷしは強かったのだろうけど、襲い方が素人の域を出ていない。
元傭兵どころか、街のごろつきと同レベルだ。
仮にも男爵領の護衛隊の向こうを張って、街道を脅かすにはお粗末過ぎる。
複数の盗賊団がいて、たまたま外れを引いた可能性も捨て切れないけど、あの盗賊団と同程度なら、領主側が根拠地を探し出して護衛隊で殲滅するのも容易いように思えた。
翻って、護衛隊のレベルも低すぎる。
元傭兵を採用しているのかもしれないが、隊としての規律がなっていない。
そもそも、隊長の言動があれでは盗賊団とさして変わらないようにも思える。
確か、事前にクレイから聞いた話では、男爵の評判は悪くなく領地経営も安定していると聞いていたのに。
何だろう……とにかく、腑に落ちない思いが心に強く残った。
「リデルさん、見てください」
物思いにふけっていると、メイエが後ろからオレを揺さぶって前方を指差す。
目を向けると、ゆっくりとジュバラクの城門が近づいてくるのが見えた。




