可愛い子には旅を…… ④
「いい加減に機嫌直せよ、シンシア。オレだって知らなかったんだから」
「別に機嫌など悪くありません」
「でも、ずっと口きかなかったじゃないか」
「単に話す必要がなかっただけです」
あらら、取り付く島もない。
「シンシア、子供ではないのですから、拗ねるのはお止めなさい。殿下に対して失礼でしょう?」
シンシアの機嫌の悪さの元凶が、叱責の声を上げる。
「ソフィア姉さまはズルイです」
一言、そう言うとシンシアは悔しげに旅支度のソフィアを睨む。
そう、今回アリスリーゼに行くのはオレとクレイ、そしてソフィアなのだ。
オレも出発直前にクレイから聞かされたので、寝耳に水だったのだけれど、シンシアの落胆はその衝撃の度合いを物語っていた。
表面上は普段と変わらなかったけど、信じられないようなミスをしたり、全く口をきかなかったり、動揺は明らかだ。
クレイの弁によると、ソフィアにはオレ達より先行してもらって、情報を収集したり、一族の者とつなぎを付けたり、陰で支援してもらう手筈なのだとか。
ソフィアに打ってつけの仕事だし、それができる能力もある。
クレイの判断には間違いないけど、シンシアを憤慨させるには十分な仕打ちだ。
「シンシア、俺は適材を適所に配置しただけだ。他意があったわけじゃない。お前にはお前の役目があるんだ。わかってくれるよな……」
いつもならクレイの甘い囁き攻撃に、すぐに篭絡されるところを今日のシンシアは一味違った。
「お言葉ですが、クレイ様とリデル様は男女です。一緒にいられない局面もあるでしょう。そんな時に、この方がボロを出したり、問題を起こさないと思われますか?」
「う、それは……」
おい、クレイ。そこで図星を突かれた顔するなよ、まるでオレを一人にできないみたいじゃないか。
「もし、私がお傍にいれば、それを未然に防いだり、事が起きても上手くフォローできると思いませんか」
「確かに……」
な、納得するな。
「ソフィア姉さまほどではありませんが、情報収集なら私も得意です。それに私はリデル様の侍女になったのであって、皇女の侍女になったつもりはありません」
屁理屈だけど、自信満々に言い切ったよ。
「なるほど、シンシアの言い分はわかった」
「では、連れて行って……」
「駄目だ、お前は残れ」
クレイははっきりと断言した。
「何故です、納得できません。必ずお役に立てるのに……理由を教えてください」
「俺にそれを言わせたいのか……」
「ちょっと待て、二人とも!」
オレは二人の間に割って入った。
「リデル……」
「リデル様……」
二人が同時にオレを見る。
クレイが何を言おうとしたかオレにはわかってしまった。
前に一度だけ言ったクレイの決意。
いざという時はオレ以外のすべて切り捨てるって。
きっとそれは、シンシアもわかっている。
だから、クレイの口から絶対に言わせちゃ駄目なんだ。
「クレイ、ここはオレに任せてくれ。シンシア、少し向こうで話そう」
オレはシンシアを連れ、クレイ達から少し離れる。
「シンシア……いつも沈着冷静な君らしくないね」
「がっかりしましたか? 所詮、私はこの程度の女なのです」
「そんなこと言うなよ。オレ、シンシアのこと、ホントにすごい女性だって尊敬してるんだから」
「買い被りです」
「そう思うのは自分だけさ。意外と自分ではわからないものなんだ……それでさ、シンシア。付いてきたいっていう気持ちはすごく嬉しいんだけど、やっぱり君には残って欲しい」
「…………」
「君が役に立つのはわかっているし、オレの行動が不安なのも事実だ。でも、シンシアには帝都で待っていてもらいたい。それがオレの本心なんだ」
「リデル……様」
「これはオレの単なる我がままなんだと思う。けど、オレのせいで友達を危険な目に遭わせたくないんだ。ただ、それだけなんだ」
オレは知らず知らずの内にシンシアの手を握っていた。
「シンシア、オレの我がまま聞いてくれるかな?」
じっとオレを見つめ続けたシンシアは、急に肩の力を抜くとため息をついた。
「……わかりました。帝都でリデル様のお帰りをお待ちしましょう」
「ありがとう、シンシア。必ず、ここへ……シンシアのところへ帰ってくるから」
「約束ですよ」
「ああ、約束する」
「それじゃ、行ってくる。ユクもシンシアも元気でね」
クレイのところに戻ったオレはユクとシンシアをもう一度別れの挨拶を交わす。
ユクは目にいっぱい涙をため、シンシアは一生懸命にクールさを保とうとしてけど失敗していた。
二人に見送られながら、通用門をくぐる。
いよいよ、オレの新しい冒険の旅が始まるのだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
大変申し訳ないのですが、ストック不足のため、毎日更新ができなくなりました。
今後は不定期更新となりますので、ご理解いただけると幸いです。
次回からは、久しぶりの冒険編となります。よろしくお願いします。




