可愛い子には旅を…… ③
今日のパティオは一段と麗しく(相変わらず年齢不詳だ)、朗らかな笑顔でさっそく説明を始めた。
「道中にある神殿には、すでに大神官名で通知を送っております。もちろん、皇女殿下であることは伏せてありますが、私の親書を持って訪れた者に最大限の協力を惜しまぬように指示してあります。ですので、お困りの際は各地の神殿にお立ち寄りください。また、ケルヴィンが申した通り、路銀も拠点神殿にご用意してありますので、ご活用ください」
何気にケルヴィンのことは呼び捨てなんだな。
ケルヴィンも嫌な顔をしてるけど、咎める素振りは見せない。
競争相手以外に何か関係があるのだろうか。
ちょっと気になる。
「こちらが親書となりますので、お納めください。紛失に備えて3通ご用意いたしました」
パティオはオレに親書を見せた後、徐に懐から宝石箱のようなものを取り出す。
「それとこちらが、前にお話した『護りの紅玉』を埋め込んだフィビュラ(装身具の一種、留め具)でございます。もしも、最悪な状況になり、ご身分を明かさなければならなくなりましたら、拠点神殿に配置されているⅢ類神具の『神位具現鏡』をお使いになってください。ご身分が保証されます」
親書と一緒に手渡される際に、「こちらは、くれぐれも失くさないでください」と念を押される。
「神殿といたしましては、殿下のご決断は尊重いたしますが、今回の策あまりに危険と懸念しております。お考えに変わりはありませんか?」
「今さら、変更する気はないよ」
ここに至ってなお、申し出るってことはパティオの本心は反対なんだろう。
皇女が単騎で(護衛役はいるとしても)危険な敵地を旅するなど、正気の沙汰とは思えないのもわかる。
でも、オレの決心は翻らない。
「さようでございますか。出過ぎたことを申しました。お忘れください……殿下、殿下の旅程に神のご加護があらんことをお祈り申し上げます」
パティオは深く一礼すると後ろに下がった。
三人はそれぞれ辞去の言葉を残すと、部屋から立ち去っていく。
彼らが見送りすると目立ってしまうので、ここでお別れとなるのだ。
いよいよ出発の時が近づいてくる。
◇◆◇◆◇
旅支度を済ませたオレ達は宮殿の通用門近くにいた。
見送りにユクとシンシアが来ている。
「それじゃ、ユク。悪いけど、オーリエとノルティ、それにアレイラにもオレがアリスリーゼに出掛けたこと伝えておいてくれ」
「わかりました。折を見て伝えます。でも、行く前に知らせてくれなかったことを恨まれそうです……それとアレイラにも知らせていいんですね?」
「うん、いいよ。ただ、みんなにはオレの命に関わることだから内緒にしてねって言っといてくれる」
「ええ、それは構いませんけど」
ユクが危惧するのもわかる。
アレイラはオレをライバル視しているし、大貴族の娘で自分の家である侯爵家を優先するところがあるので、オレの情報を実家に知らせるのでないかと心配なのだろう。
確かにその可能性を完全には否定できない。
でもオレはそれでもいいと思っている。
オレはアレイラのことを仲間だと信じた。
その上で、裏切られたとしても、それはそれで仕方がないことだと思う。
彼女には彼女の事情があるのだ。
こちらが一方的に信じているのであって、相手に強制はできないもの。
甘ちゃんだと馬鹿にされるかもしれないけど、疑って話さないより、信じて裏切られた方がオレの性に合ってる。
「それと、不本意かもしれないけど、トルペンと長く一緒にいることになるんで、その……仲良くな」
もう一つ気になっていた件をユクに確かめる。
「ええ、そうなりますね」
対するユクの返答は固い。
「前に会えないから話ができないって言ってたけど、せっかくの機会だから、よく話し合ってみたらどうかな。今まで離れていた分の隙間を埋めたり、共通の話題を探したりしてさ。それで親娘の絆とか深まるといいんだけど……」
「リデルの顔をしたあの人と、どう親娘の絆を深めたらいいか……あたしにはわかりませんけど」
「あ、ごめん。そうだよね」
オレが俯いて反省すると、ユクはくすりと笑って表情を緩める。
「リデル、前にあたしが言ったこと覚えています?」
「え?」
「リデルのために役に立ちたいって」
「ああ、パティオと神殿で話し合った時のことか」
「ええ、そうです。リデルの役に立つなら、あの力を使ってもいい、そう話しました」
「うん、覚えてる」
「今回のこと、あたしのできることを最大限に頑張りたいと思っています。だから、あの人と一緒にいることぐらい平気です」
「お、おう」
トルペン、お前と一緒にいることは、決意表明しないといけないレベルみたいだぞ。
お前の愛が報われるのは、まだまだ遠そうだな。
「まあ、無理しないでくれ。ユクが倒れても、すぐ助けに来られないから」
「はい、そうします」
にっこり答えてるけど、けっこう心配なんだけどなぁ。
ユクは放っておくと、頑張り過ぎるとこがあるから。
オレは内心の不安を笑顔に隠して、先ほどから一言も口をきかないもう一人に顔を向けた。




