ユクの決心 ②
◇◆◇◆
『前から気になっていたんだけど、ユクちゃんはこの力を嫌ってるの?』
パティオ様は不思議そうにあたしへ聞いてくる。
当たり前じゃないですか。
相手の心が勝手に読めちゃうんですよ。
他の人に知られたら気持ち悪く思われるに決まってます。
『そうなんだ……せっかく力があるのにもったいないと思わないの』
全然、思いません。
無くなればいいのに、といつも思ってるくらいです。
『ふうん、そんな風に考えているんだ』
パティオ様は違うんですか?
『私はこの力、気に入っているんだ』
え、そうなんですか。
『そう、神が私だけに与えてくれた特別な力だと思っていたのよ……残念ながら私だけではなかったけれど』
あたしも、こんな力があるのは自分だけだと思ってました。
『私はこの力が使えて、本当に良かったと思ってるの。そのおかげで助けてあげられた人もいたし、こうして大神殿に奉職することもできた。確かに、公言することはできない能力だけど、決して忌み嫌ってはいないわね』
それって、この力を利用して出世できたからですか?
『そうね、そういうつもりはなかったけど、否定はできないかな』
他人の心を読んで偉くなるのって、何だか間違ってる気がします。
『間違いかどうかは人それぞれだと思うけど……どうも、貴女とは考え方の出発点に大きな相違点があるみたいね』
相違点ですか?
『ええ、そうよ。……ユクちゃん、この力を行使することは悪いことだと思ってるでしょ』
当然です。人の心を無断で覗くのは犯罪ですから。
『私は“必要悪”だと考えているわ。今、ここに助けられる命があるなら、使えるものは何でも使えばいい。使わないで後悔したいとは思わないもの』
それは、そうかもしれませんけど……。
『そもそも、私がこの力を使うようになったのは弟の世話をするためだったし、彼が健やかに生活することは本人と同時に母親も幸せにしてあげることができたの。だから、私はこの力を人を幸せにするために役立てようと決心したわ。神殿に入るのは当然の帰結だったと言えるわね』
人の幸せのため……。
『そう、貴女は力を忌み嫌って封印したけれど、私は人のために使った……貴女は否定的に私は肯定的に“力”を捉えていたという違いね』
あたしの力が人の役に立つ?
『もちろんよ。自分の私利私欲のためばかりに使っていたら、後ろめたい気持ちになるでしょうけど、他人のために使うと思えば前向きになれるでしょ』
前向きな気持ちに……。
『神から与えられたこの力を有効に使うのは“使命”だと私は信じているわ。だから、神のために……信者のために私はこの力を使い続けるつもりよ』
あたしは、どうなんだろう?
何のために、この力はあたしに与えられたのか。
深く考えたことなんてなかった。
帝都に来て、この力を使うことを厭わなかったのはイクス様のためだったからだ。
罪悪感が希薄だったのも、お役に立てるのが嬉しかったせいかもしれない。
それなら、今のあたしが“この力”を使う理由といったら…………。
『でね、という訳で貴女には大神殿に所属してもらいたいの……』
……リデルのために使いたい! 否、使うべきなのだ。
『最初は助神官からだけど、ゆくゆくは私の跡を継いで……えっ、皇女殿下のため?』
はい、“この力”を使うのなら、リデルのために使いたいと思います。
『…………それは立派な考えだと思うけど』
ありがとうございます、パティオ様。
今まで、もやもやしていたのが、すっきりしました。
自分のこと、前向きに考えられそうです。
『ええ……よ、良かったわね。助けになれて幸いだわ』
ど、どうかされましたか?
何だか、落ち込んでいるように見えますけど……あ、力は使ってないですよ。
『え、ああ、それは心配してないから。とにかく貴女とお話できて私も嬉しかったわ』
はい、あたしもです。
『皇女殿下には、よろしく伝えてね』
◇◆◇◆
「パティオ様とは、そんな感じのお話をしました。それで、今まで『あの力』のこと、あたしはずっと嫌いだったんですけど、パティオ様のおかげで少しだけ前向きになれそうな気がしたんです」
なるほど。
パティオはユクを大神殿の手駒にするために洗脳……もとい、説得しようとして失敗したというわけだ。
オレの大事なユクにそんな策謀を働かせるなんて、お仕置きものの話だけど、結果的に良い方向に進んだから大目に見てやろう。
「そりゃ、良かったじゃないか」
オレはユクの決心を曇らせないように肯定する。
「たださ……気持ちは嬉しいけど無理はしないでくれよ」
ユクは真面目な努力家の上に内罰的なところがあるから、無理に頑張ったせいで、後になって落ち込む可能性が大いにあった。
ただでさえ、自己否定感が強く自分をいらない子に思いがちだし、『あの力』のせいで精神的に不安定にもなりやすい。
オレのために役立とうとしてくれるのは嬉しいけど、ユクがそのために苦しむ結果になるのは避けたい。
「ユク、それと一つ約束して欲しいことがあるんだ」
「何ですか?」
「友達や知り合いの心は、なるべく読まないようにして欲しいんだ」
そうしないと、きっとそれはユクの心を病ませる原因となるだろう。
知らないなら知らなくて良いことは、親しい間柄にこそあるのかもしれない。
「はい……そうしますね」
少し考え込んだユクは、すぐに得心がいったのか笑顔で答えた。




