皇女様とオレ 中編
「わたくしも帝都に残る予定ですわ」
今度はアレイラが口を開く。
「へえ、領地に戻るのかと思ったよ。元々、お父さんが溺愛していて屋敷の外へ出したくなかったんじゃなかったっけ」
「状況が変ったのです。仕方がありませんわ」
アレイラは面白くなさそうに続ける。
「貴女が公子のどちらかと結婚したら、お父様はわたくしをその結婚できなかった公子と娶わせるつもりのようですわね」
ああ、なるほど。
侯爵様ともなると、いろいろ考えるねぇ。
「それで帝都に残って虎視眈々と機会を窺う訳か」
別段、嫌味のつもりで言ったわけじゃなかったんだけど、アレイラはそう受け取らなかった。
「冗談じゃありませんわ!」
「え……」
「何故、このわたくしが貴女の選ばなかった残り物の男なんかで手を打たねばならないのです。馬鹿にするにも程がありますわ」
言ったら余計に怒らせそうだけど、顔を真っ赤にして憤慨するアレイラは、何か可愛い。
怒っても下品にならないところに育ちの良さを感じる。
「でも……でも侯爵家のために自分を犠牲にするんじゃなかったの?」
前にアレイラが言ってたことを思い出して、疑問に思って聞いてみる。
「わたくしは、侯爵家を守るためなら政略結婚も辞さない覚悟があると言ったまでです」
お説ご尤もだけど……それじゃ大人しく結婚すればいいんじゃないの?
オレの訝しげな目に、アレイラは挑むように視線を返す。
「貴女の風下に立つなんて、わたくしの矜持が許しませんの」
出たよ、本音が。
その真っ直ぐすぎる気性、オレは正直嫌いじゃない。
むしろ、好感さえ感じる。
「なら、アレイラはどうしたいんだ?」
ちょっと面白くなって、さらに質問してみる。
「わたくしは……帝国初の女性宰相になります……」
帝国初の女性宰相……。
大それた野望だけど、不思議と笑う気分にはなれなかった。
アレイラはああ見えて、けっこう真面目で努力家だ。
目的のために努力は惜しまないタイプと言っていい。
意外に良い宰相になるかもしれない。
「そうか……頑張ってくれ。応援するよ」
「言っておきますが、皇妃は所詮、皇帝の添え物であり、お飾りに過ぎないのです。わたくしが宰相になったら、帝室もどんどん改革していくつもりですから、覚悟しておくことですわ」
アレイラは、オレがいずれ皇帝に即位するつもりであることを知らない。
オレが皇帝になったら、アレイラどんな顔するかな。
真っ先に叛旗を翻すかもしれない。
ふと、その様子を想像して、つい笑みがこぼれた。
「リデル、今笑いましたね。そんなの無理だと馬鹿にしたでしょう」
「いや、そんなことしないよ。素直に感心してるだけさ」
オレの偽るざる気持ちだったけど、アレイラは信じてくれなかった。
「せいぜい、今のうちに笑っておくことですわ。わたくし、現在ケルヴィン局長の元で帝国行政について学んでいるところです。必ず有能な宰相になって見返してごらんにいれます」
「……うん、わかった。楽しみにしてるよ」
ケルヴィンも貧乏くじをひいたな。
けど、たぶんケルヴィンの方も侯爵家の後ろ盾が得たくてアレイラに取り入っているのだろう。
抜け目のない男だ。
心の中でケルヴィンの労をねぎらいながら、ノルティに顔を向けた。
「ノルティは……まあ、いいや」
オレの視線に目をキラキラさせて待ち構えるノルティに言葉をかける気力が失せる。
「な、何なんですか、その投げやりな態度は」
「いやだって、ノルティの実家、帝都だから、聞かなくたってどうせここにいるんだろ……(めんどくさいし)」
「もちろんですとも! 師匠のお手伝いに毎日、研究室へ通うつもりです」
「そういや、トルペンの弟子になったんだもんな。頑張るのはいいけど、無理はするなよ」
「はい、そうします。そちらは無理しませんが、ライフワークの『いつまでも可愛くしちゃうぞ!リデル夢日記』は毎日更新頑張ります!」
「ちょっと待ていっ! 何だその夢日記って?」
「ボクの愛して止まないリデルたんのリアルな日常をボクの願望と妄想をブレンドして毎日お送りする秘密のLOVE日記です」
いろいろツッコミどころが多すぎて一言では言えないけど……。
「即刻、止めろ!」
大体、ノルティの願望と妄想を混ぜた日記だなんて、想像するだけで恐ろしい。
「いくらリデルの頼みでも、それだけは聞けません。真理の頂を目指す学徒は、どんな逆境であっても志を折ったりしません。その偉業は後世の歴史家が判断してくれるはずです」
ノルティにしては珍しくなめらかな口調だけど、言ってることが残念すぎる。
オレが脱力感に襲われていると、オーリエが不意に爆弾発言をした。
「そういや、ノルティ。最近、彼氏できたんだって?」




