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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
〇〇なんて今さらオレが言えるかよ!
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彼の想いとオレ 中編

「わかった……けど、そんなことして、あんたは大丈夫なのか?」


(…………ユクをここに連れてきたのは私のわがままだ。責任は私にある)


「ちょっ……待てよ。答えになってないぞ」


「逆さ鱗は竜の急所と聞いた事があります」


 横からヒューが補足する。

 オレの台詞だけで、よくわかるな。


 でも、ヒューの言う通りなら……。


「あんた、自分を犠牲にするつもりなんだな」


(知らなかったとはいえ、私はあの娘に親らしいことは何一つしてやれていない。せめて、父親として、ユクを助けたいのだ。幸い、あの娘は私を憎んでいる。私がいなくなっても、悲しむことはないだろう)


 いや、それは違う。


 ユクは心根の優しい娘だ。


 口では赦さないって言ってたけど、心のどこかで父親を慕っているのは間違いない。


「トルペン! そんなこと言うなよ。あんたが死んだら、ユクはきっと悲しむ。他に方法ないのか?」


(残念ながら、私は知らないし、時間もあまりない。手遅れになる前に決断してくれ)


 オレは途方にくれ、クレイとヒューの顔を見る。

 二人とも状況を飲み込めていたようで思案げな顔付きだ。


「リデルの考えに従います。私には選べそうにありません。けれど、貴女がどんな選択をしても、私は貴女を支持します」


 ヒューはそう言うとユクの苦しげな顔に視線を落とした。

 まるで、瀕死の妹を看取る兄のようだった。


「クレイ……」


 オレは自分の決断力の無さを呪いながら、上目遣いでクレイを見つめた。

 クレイは、ほんの一瞬、寂しげな笑みを浮かべたけど、大きく頷いてくれる。


「わかりました。では、私の意見を述べさせてもらいます」


 ちょっと待て、オレ。

 ホントにクレイに決断を委ねていいのか。


 奴に責任を押し付けようとしてないか。

 後で悔やんで眠れない時、クレイのせいにすることはないのか。


 目の前のことから逃げて、自分だけ傷つかないようにしているだけじゃないのか。


 オレは自分の浅ましい考えに眩暈がした。


「私が思うに、ユクを……」


「クレイ、待ってくれ。その先は言うな」


 オレはクレイの言葉を遮った。


「やっぱり、オレが自分で決める」


 オレはテリオネシスの剣を構えると、トルペンに向き直った。


「トルペン、あんたの願い、オレが叶えてやるよ」




 戦場だったら、瀕死のユクと無傷のトルペン……考えるまでもなくユクの命を諦めるのが普通だ。


 戦いの場において、死は平等に訪れる。

 どんな英雄豪傑であろうと、どんなに大切な人でも運命の公平さから誰も逃れられない。


 だから、オレ達傭兵はその結果を素直に受け入れる。

 仲間が死んでも、運が悪かったとか、こうしておけば良かったとか考えない。

 そういうもんだと割り切り、自分がそうならないように気をつけるのだ。


 そして、毎日を懸命に生き、後悔しないように心がける。

 オレが傭兵になって最初に学んだのは、そういう精神だった。


 もちろん、そうは言っても相棒だったクレイに万が一のことがあったら、とても平常心ではいられなかっただろう。

 あいにく、そういう心配をあまりしなくて良かったのは幸いだったけど。


 また、相手の命を殺めることにも全く抵抗が無かったとは言わないが、深く考えないようにするのが常だった。

 それが仕事なんだと思考を止めていたと言っていい。


 けど、今回は本人の要望とはいえ、見知った人間(竜)の命を奪おうとしているのだ。


 葛藤は無論ある。


 でも、オレは何に変えてもユクを助けたかった。


 トルペンの申し出を受けるのは、ユクを助けたいオレが自分を納得させるための方便に過ぎない。

 それもわかった上で、オレはトルペンに宣言した。


 オレの『叶えてやるよ』の言葉にトルペンは竜の姿で満足そうに頷く。


(姫ならそう言ってくれると信じていた。それでは、早速お願いしよう。ただ、鱗を取られた私が暴れる可能性があるので、少しこの場所から離れたい)


 そう言ってトルペンはオレを連れ、ユク達から離れて少し開けた場所に移動する。


 そして、オレの方に頭を向け、件の鱗に手が届くように頭を下げた。


(姫よ)


 緊張した面持ちで剣を構えるオレにトルペンが声をかける。


(私を倒すことで思い悩まないで欲しい。悪い竜が人に討たれるのは伝説でもよく聞く話ではないか。先人がたくさんいるのだから、自信を持って倒してくれ。もっとも伝説で竜を倒すのは姫ではなく勇者の役目なのだが」


 この期に及んでも、オレの緊張を解こうと軽口を叩く。


 全く笑えないよ、トルペン。


 オレはテリオネシスの剣を握り締めるとトルペンに向って駆け出す。


(最後になるが、リデル……今までありがとう。貴女に出会えて本当に良かった。ユクのこと、よろしく頼む……)


 念話を頭の中で聞きながら、オレは剣を鱗と鱗の間に突き立てる。


(トルペン、ごめん……)


 そして、勢いのまま逆鱗を引き剥がすと小脇に抱え、トルペンから飛んで離れて、地面へと転がった。


 すぐそばを竜の尾が通り過ぎる。


 逆鱗を剥ぎ取られたトルペン……竜は苦しみのあまり、先ほどまでオレがいた場所でのた打ち回っていた。

 オレは目に映るその姿を振り切って立ち上がると、すぐさまユクの元へ戻る。


 横たわるユクに屈みこんで、手にした鱗を見ると中心から放射状に微かな青い光が漏れていた。


 オレは剣を逆手に持ち変えると地面に置いた鱗の真ん中を剣で思いきり突き抜く。

 そのとたん、それを中心として放射状に細かいひびが無数に入り、やがて光を放って砕け散った。


 破片の中に青い光を放ち続けるほんの小さな球体が見える。


 慎重に指でつまみ上げ、クレイとヒューに見せた。


「これ……竜の再生能力の源?」


「はい、たぶんそうです。すぐ、ユクに飲ませましょう」


 ヒューが差し出した水筒を受け取り、球体をユクの口に含ませると、少量の水と一緒に流し込む。


 上手く嚥下できなくて咳き込むが、何とか飲み込んでくれた。


 オレ達は本当に効くんだろうかと不安を覚えながら、効果がでるのを固唾を呑んで待った。


 竜の力は劇的だった。


 ユクは一度大きく痙攣した後、身体全体が突然青白い光に包まれる。


 次の瞬間、黒く変色していた傷口が見る見るうちに元通りになり、あれほど悪かった顔色も生気を取り戻していた。


 ヒューが脈拍等を確かめると安心したように言う。


「どうやら、再生能力が覚醒したようです。もう大丈夫ですね」


 ヒューが安堵した様子でそう話している間に、ユクが目を開いた。


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