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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
〇〇なんて今さらオレが言えるかよ!
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大切な約束とオレ 中編

「エリナ?……」


 トルペンがその問いに答えようとした時、不意にケルヴィンが話に割り込んでくる。


「宰相補、詳しい話は場所を変えましょう。ここでは人目がありすぎる」


 気がつけば、遠巻きに闘いの帰趨を見ていた元候補生や兵士がオレ達の周りに集まり始めていた。


「リデル……いやアリシア姫も異存ありませんね」


「う……ん、かまわないけど」


 オレに向き直り恭しい態度を見せるケルヴィンに白々しさを感じて、多少ムカついたけど、鷹揚に頷いてみせる。

 ユクの件は他人に聞かせていい内容の話じゃないし、場所を移すのは確かに悪くない提案だ。


 オレ達はすぐさま、急遽用意された皇女の間(と言っても廃城の中で比較的程度の良い部屋を手入れしたに過ぎないが)に移動した。


 部屋に集まったのは、トルペンとオレは当然として、責任者であるケルヴィンと護衛隊長のデイブレイク、オレの付き添いにクレイ、関係者であるユクとその護衛としてヒューの7人だ。


 ソフィアはオーリエ達の元へ、シリアトールは兵士や元候補生にこれまでの経緯と今後について説明を行っている。


 最初、ユクが同席するのをケルヴィンが難色を示したが、オレのたっての希望で無理矢理、押し通した。


 さすがのケルヴィン局長も皇女の意思を無下にはできないようだ。

 こういう時に権力って便利だと思うけど、反面怖いなとも感じる。

 オレとしては、あんまり近づきたくない代物だ。


 部屋の扉を閉めると、ケルヴィンはいきなり捲くし立てた。


「アリシア姫、今後の予定ですが、すぐに帝都に戻られ、お二人の公子に経緯を説明し……」


「ちょ……ちょっと、待ってくれ」


「アリシア姫?」


「ケルヴィン、悪いけどオレはまだリデルだ。アリシアと決まったわけじゃない」


「竜の試練を乗り越えたのに?」


「それはオレの力が型破りなだけで、ロニーナ皇妃の血を引いている証にはならないさ」


 ケルヴィンが信じられないものを見たような顔付きになる。


 ま、そりゃそうだ。


 誰もがなりたがっているその地位と名声を自分から否定するような愚か者がいるとは思わなかったのだろう。


「それに、今はそんなことより、ユクの話の方が大事なんだ」


「そ、そんなこと……?」


 呆れ果てるケルヴィンを横目に、オレはユクにもう一度トルペンに先ほどの質問を繰り返すように促した。


 ユクはオレに頭を下げてから、トルペンの前に立つと強張った表情で口を開く。


「トルペン様……では、もう一度お尋ねします。エリナ・エヴィーナという女性に聞き覚えはありませんか?」


「エリナ……よく知ってます。とても素晴らしい女性でしたネ」


 トルペンは悪びれもせず懐かしげに、そして嬉しそうに答えた。


「ここで彼女の名前を耳にするとは思いませんでしたヨ。ユクさんのお知り合いデスカ?」


 その問いに答えずに質問を続けるユクの声に冷たさが混じる。


「どういう間柄だったのでしょうか」


「エリナにはとても世話になりましタ。人間の街に来て間もない頃で、一緒に生活して、いろいろなことを教えてもらいましたヨ」


「それは恋人関係にあったと考えてよろしいですか?」


「ええ、そうですネ。その当時はわかりませんでしたが、今から思えばそういう仲だったとも言えるでしょうネ」


 ぎゅっと握ったユクの手に力がこめられるのがわかる。


「では何故、その人を捨てたのですか、お腹にあなたの赤ちゃんがいたのに……」


「捨てタ?……赤ちゃん!?」


 薄々感づいていたけど、トルペンはエリナさんのお腹にユクが宿っていたことを知らなかったに違いない。

 それどころか、ユクの母親を捨てたという認識もなかったようだ。


「どうゆうことデスカ? 詳しく話してくだサイ」


 珍しく動揺を見せるトルペンに冷たい声でユクが切り出す。


「あたしは……あなたが捨てたエリナの娘のユク・エヴィーネです、お父さん」


 部屋の中に沈黙が訪れた。




 事情を知っていたオレ以外のみんなは、話の意外な成り行きに言葉を失っていたのだ。


「そんな……エリナは一言も子どもが出来たなんて言ってなかった……別れる時も笑顔だったのニ……」


 トルペンは信じられないという顔でユクを見つめた。


「母があなたにそのことを告げようとした日、あなたは血相を変えて家に戻ってくるなり叫んだそうですね」


『あの方が呼んでいる、すぐに旅立たなければ!』


「母が仔細を尋ねると、あなたはあるじとの馴れ初めを話しましたよね。そして、すぐに帝都に向わなければならない、これは主命なんだと言った。母は思ったそうです」


 もうユクの目には、明らかにトルペンを非難する色が滲んでいた。


「『この人には行くべき道がある。もう私の助力は必要としない。私にはこの子がいればいい。今こそ、村に戻って逃げ出した過ちを正すべき』だと……」


「ユクさん……」


「そう、あなたは何も知らなかっただけ。母の悲しみもあたしの苦しみも……。だから、あなたは悪くないのかもしれない。いえ、きっと悪くないのだと思う。でも、あたしはあなたを決して赦さない。父親だなんて認めない。あたしはそれを…………それだけを言うために、ずっとあなたを捜してきたんです」


 堪えきれず涙を浮かべながら、ユクはトルペンをなじった。


 ユクの弾劾の言葉だけが部屋に響き、誰もが沈黙を保つ。


 やがて、トルペンが搾り出すように声を漏らした。


「そ、そんな……我輩、いや僕は、エリナにいつも迷惑ばかりかけてまシタ。最初に会った頃は毎日、彼女に怒られてばかりでシタ。『それは違うわ、トルペン』『止めなさい、トルペン』『こうするのよ、トルペン』それが彼女の口癖。彼女にとって僕は出来の悪い弟のような存在だと思っていまシタ。ほっとけなくて、仕方なく付き合ってくれているんだト」


 ユクは沈黙を貫き、トルペンの述懐が続く。


「だから、別れを切り出した時、彼女が優しく笑ってくれたのを、僕から解放されて肩の荷を下ろしたんだと勝手に思っていまシタ。『頑張んなさいよ』と送り出してくれた彼女の本心に気付くことが出来なかっタ……気付こうともしなかった。何て僕は浅はかで愚か者だったんダ……」


 もし、ロニーナ皇妃がトルペンを呼び寄せたことがユクの母を不幸にしたというのなら、お腹にいた皇女――アリシア姫が遠因と言っていい。


 そう考えると、ユクにとってオレ(アリシア姫と認めたわけじゃないけど)は立場上、仇も同然の存在になる。

 オレが内心、とまどっているとトルペンが押し殺したような声で問いかける。


「ユクさん……エリナはどうして亡くなったのですカ?」


 唇を噛み締めるユクの代わりにオレが答えた。


「村に流行り病が蔓延してさ。薬を作ってそれを救ったんだけれど、自身はその病で亡くなったんだ」


「そうですカ……エリナらしいですネ。彼女は自分の事より他人の心配ばかりしているようなところがありましたカラ」


「それなんだけど……」


 オレは不思議に感じていたことをトルペンに聞いた。


 村にいたエリナさんは自己中心的でお世辞にも他人のことを気にかけるような性格ではなかった筈だ。

 それが再び村に戻ってきたエリナさんは、他人を思いやる優しい性格に変っていた。


 その変化の理由が何だったのか、ずっと疑問に思っていたのだ。


「エリナさんは最初から、あんたの面倒を買って出たのか?」


「いや、たぶんエリナは僕を貴族の子弟か何かと思って保護したんだと思いマス。身なりも良かったし、金品や装飾品も持っていましたからネ」


 なるほど、最初はお金になると踏んだんだな。


「でも僕は、主との約束で悪さをするのを止めたんで、お金を稼ぐ手段がありませんデシタ。だから、すぐに生活が困窮したのデス。それが分かった時の彼女は、そりゃ凄かったデス。『出て行け』だの『ムダ飯喰らい』『嘘吐き』だの、散々罵倒されまシタ。けど、僕は他に行く当てがないから、そのまま居座ったのデス。そのうち、諦めて何にも言わなくなりましたケド」


 て、典型的なヒモ男のパターンだ。


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