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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
〇〇なんて今さらオレが言えるかよ!
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社会見学とオレ 後編

 四年前に出会ってから、オレとクレイはいつも一緒だった。


 戦場でも私生活でも常に行動を共にしていたと言っていい。

 特に親父が亡くなってからは、友人と言うより兄弟と言った方が近い存在だった。

 そのクレイと一緒にいるのが苦しくなる日が来るなんて……。


「リデル、大丈夫ですか? また顔色、良くないです」


 黙り込んだオレを、手を引いていたユクが心配そうに覗き込む。


「ああ、何とかね」


 ホントはあまり大丈夫じゃない。


 さっきも、クレイの手前、元気になったと答えたけど、本心は真逆だ。

 頭痛はひどいし、何だか腰も痛くなってきた。

 気だるい感じがして、ホントは動くのも億劫な気分だ。


 先日のトルペン発言を聞いてから、今ひとつ体調が思わしくなくて困る。


 自分で計画しといて言うのも何だけど、今回の帝都見学の日程をずらせばよかったと真剣に後悔していた。

 今は最悪な体調だけど、たぶん直に良くなるはずだ。


 それと言うのも、こういう状態になるのは今に始まったことじゃないからだ。

 傭兵時代から、時折こんな風に体調が悪くなることがあり、ひどい時は寝込むこともあった。

 オレの傭兵としての評価がそれほど高くないのは、これが理由の一つだと思う。


 曰く、腕は立つけど健康状態に難ありってことで。


 戦場に立つと、幸運なことに決まって大きな手柄を立てたからクビにはならなかったけど、雇い主としては信頼性に欠ける傭兵だったのだろう。


 クレイとコンビを組んでいたことも幸いしたとも言える。

 

 ここだけの話、すごく感謝している一方で、悔しい気持ちもあった。

 クレイとは、対等なパートナーでいたかったからだ。


 オレが聖石に頼ったのは、鍛錬や努力でなんともならないこの身体を変えたかったというのも理由の一つだと思う。


 ここしばらく、精神的に落ち込むことはあったけど、体調がここまで悪くなることはなかったんで安心してたのに……。

 結局、聖石の効果もそこまでは及ばなかったようだ。


「もう、大丈夫だよ」


 心配げなユクに笑って見せる。

 疑わしそうなユクの前で元気さをアピールしていると、いきなり後ろから抱きつかれる。


「リデル……元気ない」


「ノ、ノルティ?」


 背中に感じるノルティの体温が温かくて、冷えた身体に心地良かった。


「リデル……みんなと一緒、楽しくない?」


「そんなことないよ!」


 思いもかけない言葉に、ノルティにひしと抱きつかれたまま、オレは驚いて否定した。


「ちょっと体調が悪かっただけで、楽しくないなんてないよ」


「そうだったのか。良かった、私もそう感じていて心配してたんだ」


 いつの間にかノルティの後ろにオーリエが立っていた。


「あたしも、そう思ってました」


 目の前のユクも大きく頷く。


 気がつかなかったけど、どうやらみんなを心配させていたらしい。

 気兼ねして、あえて触れないようにしてくれていたようだ。


「みんな……ごめん」


 申し訳ないと思いつつも、みんなの気持ちがすごく嬉しかった。


「気にするな、リデル」


「そうですよ、謝ることないです」


「ボクのリデル……元気出せ」


 励ましの言葉に胸がほんのり温かくなる。

 今日ほど12班のみんなに出会えて良かったと思ったことはなかった。


「ありがとう、ホントにもう大丈夫だから」


 口先だけでなく、本当に体調が良くなってきたような気さえした。


 オレが心からの笑顔を向けると、オーリエはオレの頭を撫で、ノルティはぎゅっと抱きつき、ユクは優しく微笑んだ。


 オーリエ……やっぱり、頼れるお姉さんって感じがする。


 ユク……笑顔にオレはいつも癒されてるよ。


 ノルティ……どさくさに紛れて胸をもむのは止めてくれ。


 オレが感激していると、つまらなそうにオレ達を眺めるアレイラが目に入った。


「ごめん、アレイラ。オレ、自分のことばかりで盛り上がって……」


「謝ることはなくてよ。別に貴女がどうしようと、わたくしには関係ないことですもの……それに」


 オレ達をゆっくりと見回すと更に続けた。


「力の無い生き物ほど、群れたがるというのは本当のことのようね」


 オーリエはむっとした顔になったけど、オレは全然気にならなかった。

 傾向のよく似た誰かさんと常に一緒にいるせいで耐性ができたみたいだ。


「別に群れたいわけじゃないけど、同じ班なんだから仲良くしようよ」


 オレの提案にアレイラは露骨に見下す態度を見せる。


「同じ班だからですって? 馬鹿も休み休み言いなさい。無理矢理に同じ班にされただけで、何故仲良くしなければいけませんの」


「そうかもしれないけど、アレイラ……独りは寂しいよ?」


「わ、わたくしは孤高が好きなのです」


「でも……」


「もう止めておけ、リデル」


 横合いからオーリエがやんわりと遮る。


「リデルの気持ちはわかる。でも、人はそれぞれ考え方が違うんだ。アレイラの考えも尊重しないとな」


 オーリエはちらりとアレイラを見た後、苦笑して言う。


「もっとも、確実に私とは違う考え方のようだけどね」


 確かに、貴族様と傭兵風情のオレとじゃ物の考え方が違うのは当たり前だ。

 でも、せっかく同じ時間と空間を共有しているんだから、少しでも仲良くなりたかった。


 もちろん、アレイラが望まないことを無理強いするつもりはないけど……。

 納得できない気持ちが表情に表れていたのだろうか?


 オーリエはオレとアレイラの顔を見比べると、急にユクやノルティに声をかけた。


「さあ、リデルも元気になったことだし、市場見学を再開しよう。それでいいですよね、『班長』?」


 オーリエは副班長としてアレイラに確認する。


「お好きになさい……」


 それだけ言うと、アレイラは会話の輪から離れた。


 結局、オレ達は市場での授業(?)を大いに楽しんだ。


 アレイラのことは、ずっと気にかけていたけど、どうやらオレ達の集団から付かず離れず行動しているようだ。


 それなりに楽しんでくれていると良いのだけど……。




「リデル、これ食べてみろよ」


 オーリエが肉団子みたいなものをオレに差し出した。


 何の疑いもなく口に入れる。


 何だか、むにょむにょして変った食感だった。

 味も微妙だ。


「オーリエ、何なのこれは?」


「カルガンオー(有袋動物の一種)のキン〇マ」


 思わず、吐き出しそうになる。


 それより、オーリエの口からそんな単語が出たことに衝撃を覚えた。


「どうだ、美味しいか?」


「お、美味し……くはない」


「そうか、しきりにディノンが勧めるんで食べようかと思ったけど……食べなくて正解だったな」


 おい!

 オレは毒見か。


 って言うか元凶はディノンの奴か。

 後でお仕置き決定だな。


「リデル……これ、食べて……」


 今度はノルティがスープを勧めてくる。


「ごめん、ノルティ。悪いけど、オレはここの食材については、もう誰も信じないことに決めたから」


「……オーリエのは食べたのに……」


 ジト目でオレを見ながら、スープを一口すする。


「こんなにおいしいのに……」


 あからさまに、がっくりとうなだれる。


「あ――――っ! わかった、わかった。食べるよ、食べるってば」


 ノルティも食べてるし、怪しいものではないだろ。


 容器を受け取って、一口食べてみる。


 っ………………辛っ……し、舌が痛い!


 何なんだ、この辛さは!

 あまりの辛さに絶句する。


 見た目が済んだ青なのにこの辛さは反則だ。


 ノルティめ!

 文句を言おうとノルティを見ると、本当に美味しそうにパクパク食べている。


「リデル……美味しいね」


 味覚音痴なのか、味覚障害なのか……どちらにせよ、ノルティの舌が当てにならないことが確定した。


 けど、楽しそうなノルティに、オレは怒るより和んだ。



「リデル、大変です!」


 ユクがオレの服の裾を引っ張る。


「ん、どうかした?」


 まさか、ユクもオレに何か食べろって言うんじゃないだろな。


 今は舌が痺れて、何を食べてもわからないけど。


「あれを見てください」


 ユクの指し示す方向を見て、オレは目を丸くした。


 オレ達のすぐ近くで護衛していた筈のヒューとクレイが少し離れた場所で、たくさんの女性に囲まれていた。


 若い女からおばさんまで様々なタイプの女性が二人に秋波を送っている。


「白銀の騎士様ですよね」


「やっぱり素敵!」


「あら、隣の男もかっこいいわ」


「きっと名のある騎士様かも」


「何言ってるの、あの感じはきっと凄腕の傭兵よ」


 言いたいことを言って、まとわり付いている。


 まぁ、二人とも目立つからね。


 馴れているのか涼しげなヒューと、困りきったクレイを見比べていると、笑いがこみ上げてくる。


 クレイって、ああ見えて結構、初心ウブだから。


「お~い! ここにもいい男がいるんですけどぉ」


 ディノンがその女性の輪に無理矢理、身体を割り込ませる。


「何するの!」


「きゃっ、わたしの身体に触らないでよ!」


「変態よ――!」


 女性達が悲鳴を上げ、ディノンをボコボコにする。


 ディノンの奴、散々だな。


 その騒ぎに乗じてクレイとヒューがその囲みを破って逃げ出す。


「悪い、リデル。武具屋で落ち合おう!」


「すみません、リデル」


 そう言いながら、二人は市場の雑踏にまぎれる。


 全く……護衛の仕事になってないぞ。


 まぁ、ノルティの護衛もいるし、そもそもオレに護衛なんて必要ないけど……。


「あのさ、傷心のとこ悪いけど、そろそろ次の目的地に行かないか?」


 変態呼ばわりされて、地面に手を付いてへこんでいるディノンに優しく声をかける。


「うわ~んっ!」


 涙目になりながら、オレに抱きつこうとしたディノンにオーリエのパンチが炸裂した。





 ファヴィリス総合武具商店は帝都でも有数の品揃えで知られていた。


 店に着くやいなや、オーリエは店頭に飾られた武具に目を奪われている。

 意外にもノルティも興味津々だった。


「極められた物には品格があり……美しい」


 興味対象があると、やはり饒舌になるノルティ。


 ユクは店主であろう筋骨逞しいおじさんと話し込んでいる。


「武器の種類って、こんなにたくさんあるんですねぇ?」


「まあな、ここで揃えられない武具なんて、ありゃしないからな」


「すごいんですね~」


 ユクに感心されて、店主はご機嫌だ。


 やっぱり、ユクにはおじさまキラーの素質があると思う。


「なあ、リデル。あの長剣、素晴らしいと思わないか?」


 オーリエがしきりに店先の剣を褒める。


 どうやら、気に入ったようだ。


「……いいんじゃないか」


 オレは曖昧に口を濁す。


 テリオネシスの剣を手に入れてから、どうも他の剣に魅力を感じなくなって困る。

 オーリエの気に入った剣も素晴らしい逸品だとわかったけど、昔のように心が躍らない。


 自慢げに聞こえて嫌味な話だが、いい物を持ちすぎた弊害と言えた。


 なにしろ、オレはあれ以上の剣を今まで見たことがない。

 これからもあるかどうかは疑問だ。


 本当は万が一に備えて予備の剣を用意しておくべきなのだけど、そんな気になれなかった。


 オレは一途なんだ。


 で、くだんの剣はと言うと、さすがに制服の上に剣帯をつける訳にもいかないので、今日も手元にない。

 けど、前回の乱闘で得物がなくて正直懲りたんで、クレイに預けて持って来てもらっている。


「そう言えば、リデルの剣って凄く綺麗でしたよね」


 ユクがオレに話を振ると、店主は小馬鹿にしたように言う。


「お嬢ちゃんの護身用の剣じゃ、ここにある剣とは比べ物にはならないね」


「……まぁ、そんなとこかな」


 無用の争いを避けるため、オレは笑って店主の自慢話を流した。


「こいつの剣なら、ここにあるぞ」


 ぬっとオレの後ろから剣を突き出したのは、クレイだった。


「クレイ……」


「遅れて悪い、間に合ったようだな」


「別にオレ達だけでも大丈夫だったのに」


 まあ、そう言うなと言いながら、店主に話を続ける。


「これが、こいつの護身用の剣さ。もちろん、この店にある剣とじゃ比べ物にならないがね」


 片目を瞑って笑いを堪えながら、鞘から抜いて日の光にかざした。


 馬鹿にしていた店主の目の色が変る。


「そ、それはもしかして……」


「ただの古い剣さ」


 音を立てて鞘に収めると、オレに投げてよこす。


 オレが片手で受け止めると、店主は一瞬ぎょっとした顔になるが、オレへとにじり寄った。


「その剣はあんたの物なんだな」


「えっ、まぁ……」


 一応そうことになるのかな?

 あの時、クレイはあの防具つきメイド服を着て闘技大会に出たらくれるって言ったし……。


「そうだけど……」


「頼む、売ってくれ!君の言い値で買おう!……それはテリオネシスの手による剣なんだろ?」


 掴みかからんばかりの勢いでオレに迫る。


 言い値で買うなんて台詞、ホントに言う奴いるんだ。


「何か条件があるなら、言ってくれ。出来る限りのことはしよう」


 そうまでして手に入れたいのか。


 でも、オレは……。


「悪いけど、売る気はないよ」


 自分の分身を手放せる訳がない。


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