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いつまでも可愛くしてると思うなよ!  作者: みまり
〇〇なんて今さらオレが言えるかよ!
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似た者師弟とオレ 後編

「それじゃ、その本はノルティに読ませてくれるんだよね」


 意気投合している師弟を現実に戻すため、トルペンに呼びかけて確認する。


「ええ、それハもちろん。それどころか、弟子の証として進呈しますョ」


「先生、感激です。ありがとうございます」


「うむ、造作もないことデス」


 やっぱり、この二人……よく似てる。


「トルペン……先生、ノルティの用事は終わったようだから、今度はオレの質問に答えてくれるかな?」


「ああ、そうでした。何か我輩に聞きたいことがあるんでしたネ」


「『聖石秘事伝承録』なんて本を書くぐらいだから、あんた聖石に詳しいんだろ? 帝国が持っていた聖石って、今どこにあるんだ」


 オレは単刀直入に聞いた。


 トルペンには回りくどい言い方をするより、率直に聞いた方が正解だって学んだからだ。


「聖石…………どの聖石ですか?」


「えっ……どのって、帝国は聖石をいくつも持ってるのか?」


「はい。帝国は聖石を3つ持っていましたョ」


「……3つ」


「そもそも、伝承録にも書きましたが、世界創生から現在まで不確かな伝承も含めて二十数個の聖石があったと伝えられていマス。その内、現存が確認されているのは全部で9個。帝国はその中の3個を保有していましたデス」


「そ、それじゃ帝国以外の聖石はいったいどこに?」


「ディストラル帝国、フォルムス帝国、アルセム王国、エントランド連合王国、イオラ・ナウル教皇領に各一個あると言われています。残り一個については不明デス」


 たった、それだけしかないんだ……。


 不明の一個がオレの使った聖石だったとしたら、残りは各国の国宝級の代物だ。

 探して簡単に見つかるわけなかった。


「じゃ、帝国の3つの行方は?」


 へこたれそうな心を叱咤してトルペンに聞く。


「2つはすでに使命を終え、奇跡の力を宿していませン。そうそう、皇女候補を探すために、その内1つは砕いて使いましたョ。リデルさんも受けた神託の時の『聖石の欠片』ですネ。そして、力を宿す残りの1つは内戦のどさくさで行方知れずになっていマス」


「行方知れず……」


 オレは今度こそ心が折れ、がっくりとうなだれた。


 ここまで来て、全く手がかりが無くなるなんて……。


「カイロニア・ライノニア両陣営も必死に探しているようですが、未だ見つかったという情報は入っていまセン」


「そりゃそうだ。もし、手に入れていたなら、すぐにでも帝国を再統一してる筈だもんな」


 オレは自嘲気味に笑って答える。


「そうと……ばかりは言えないかも」


 弟子入りを果たし興奮から醒めたのか、学究モードから日常モードに移行したノルティが、また元のように、たどたどしい口調で口を挟む。


「えっ、どうして?」


「他国も聖石を……持ってるから」


? 言ってる意味がわからない。


「さすが、我輩の弟子だけあるデシ!」


 一瞬、妙な空気が流れた。


 トルペンが期待した目で、こっちを見てるってことは、今笑うとこ?

 笑わなきゃいけないとこ? 無理無理! 絶対笑えないって。

 笑うどころか心が空しくなったよ。


「ノルティ、どういう意味?」


 聞こえなかったフリをして、ノルティに尋ねた。


 落胆するトルペンが視界の端っこに見えたけど、あえて無視する。


「聖石の奇跡の力があれば……他国へ干渉できる……」


「そうか、確かに奇跡が自由に起こせれば、他国の王様を亡き者にしたり、戦争に勝ったりできるってわけか」


「でも、お互い聖石を持ってたら……」


「……迂闊には手が出せない。何故なら、仕掛けた奇跡を邪魔されたり、逆に報復されたりするから」


「たぶん……」


「なるほど。だから、再統一より先に聖石の確保が急務ってわけか」


「その通りデス」


 オレが感心していると、先のことがなかったかのようにトルペンが話に加わる。


「我輩の長年の研究によると、聖石には概ね1回から5回の祈願できる回数が設定されているようデス」


 どうやら、今度は真面目に話すつもりのようだ。


「しかし、聖石の存在自体や残りの祈願数などは各国の上層部の一部……皇帝や国王に近い者しか知りえず、その国の最高機密に属していマス」


 聖石の能力を考えれば、それは当たり前かもしれない。


「また、その使途も過去の伝承によれば、国家の存続ためと言うより、皇帝家や王家の維持に使われる傾向が強いようデス」


 つまり、国ではなく王個人の持ち物ってわけか。


 さすがトルペン、本を著すだけあって詳しいな。


「それと、一夜王の伝承等が独り歩きしているせいで誤解されがちですが、聖石は決して万能でもなければ無限の力があるわけでありまセン」


 意外な言葉にオレはトルペンを見つめた。


「聖石にも質の違いがあって、個人レベルの限定的な奇跡しか起こせないものから、天変地異のような大きな奇跡を起こせるものまで、起こせる奇跡に限度があるのデス」


 じゃ、世界最強なんて奇跡を起こせたあの聖石はかなりのものだったわけだ。


「聖石の分相応に合わない願いをした場合にはどうなるんだ?」


「もちろん、その祈願は履行されませン。けれど、祈願が成立したかどうかは実際にその効果が表れるかどうかでしか判断できないため、奇跡を信じて悲劇となった例が伝承に数多く報告されていマス」


 つまり、オレも世界最強になったと信じて大会へ出たはいいが、実際は奇跡が起こっていなくて、散々な目に陥る可能性もあったわけだ。


 もっとも、オレの場合は外観で奇跡が起こったかどうか一目瞭然だけど。


「まぁ、世界全体を巻き込むような奇跡を起こすのは難しいと思った方が無難でしょゥ。個人に特定して祈願するのが通例のようデス」


「個人に特定?」


「例えば、ある皇帝の病気を治癒してくれとか、末の皇女を美しくしてくれとか……」


「あの世継ぎを……亡き者にしてくれとか……」


 ノルティがボソリと言う。


 ノ、ノルティさん、何気に怖いことを言わないでください。

 けれど、トルペンはノルティの発言に大きく頷いた。


「そうした事例が過去にあったかどうか実態はわかりまセン。各国の聖石がどのように使われたかも、聖石の質や祈願数なども先ほど述べた通り、極秘事項となっていマス」


 ん? さっき、トルペン……帝国にあった3つの聖石がすでに失われているって、いとも簡単に言ったけど……それって?


「なぁ、トルペン?」


「トルペン先生デス」


 若干、イラッとしたけど下手に出て聞いてみる。


「トルペン先生は、さっき帝国に聖石は一つも残っていないって言ったけど、それってもしかして、この国の極秘事項なんじゃ……」


「その通りデス!当たり前じゃないですカ……先ほどから何を聞いていたんデス?」


 出来の悪い生徒をたしなめる目付きのトルペンを真剣、ぶち殴りたくなる。


「……そ、そうなんだ」


 かろうじて、怒りを押さえ込むと引きつった笑顔でそれだけ言う。


「ハイ、ですから、他の人には内緒ですヨ」


 悪びれもせず軽い口調で話すトルペン。


 ホント、ここに補佐官がいなくて良かった。

 いたら、きっと卒倒してる。


 どこの世界に国家機密を一般人(?)に嬉しそうにしゃべる宰相補がいるっていうのか……。


 や、ここにいるけどさ。


「あ、それともう一つ忘れてはいけない特性が聖石にありまシタ」


 まだ、あるのか……。


 もう正直、聞くのにうんざりしてきたけど、オレの男としての人生がかかっているから、泣き言を言ってもいられない。


「それはですネ……我輩も調査し始めたところで、不明な点も多いのですが、どうやら『奇跡は上書きできない』らしいのデス」


 何だって……今、何て言った?


「そもそも伝承において、複数回願いの残った聖石が出てくることが稀のため、かけた願いに追加する例はそう多くありまセン。もっとも古いラールス王子の伝承では、かけた奇跡に追加しようとして失敗する話が伝わっていマス」


 オレはトルペンの話を聞いていなかった……否、聞いてる状態になかった。


「そのせいか、その後の他の複数回を残す聖石の伝承では、予め『奇跡は一度きりで、やり直しはきかない』ことが約束事になっていマス。詳細は今後の研究に期待するところですが、奇跡が上書きできないのは、紛れもない事実のようデス」


 奇跡が上書きできない…………つまり、オレは男に戻れない……一生、女のままなのか!


 目の前が真っ暗になり、眩暈を覚えたオレは床に座り込んだ。


(リデル!……)


 耳も遠くなってきて、ノルティがオレを一生懸命呼んでいるのが、かすかに聞こえたけど、顔を上げる気力はなかった。


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