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第三十四回 強襲 四

 雲長さんが突撃すると、戦場は一変。どちらが劣勢か分かりません。雲長さんは自分が鍛えた兵士たちが頑張っているところを見つけては、そこに加勢していくので、五百の兵が千、二千と増えて行き、大きくなっていきます。

 さらに陳到さんを見つけると、陳到さんは多くの文官さんや城民を守っていたので肩を叩いて誉めました。


 え? どうしてそんなに雲長さんが強いなら落城してしまったかですって?


 それは雲長さんの強さだけではどうにもなりません。広い城壁は雲長さん一人では守りきれずに、一点突破されてしまったのでしょう。

 こうなると雲長さんは兄者さんを守ることを第一優先とし、張遼の突撃を追い返すだけになってしまっていたのです。


 ですが今は自由に用兵が出来ます。小沛を取り戻すために兵士たちを操り始めました。


「好き勝手やってくれるではないか、関羽!」


 雲長さんはそちらに顔を向けますと、歯ぎしりしている張遼がおります。


「張遼。城は返して貰うぞ」

「何を! 拙者と槍を交えられるか!?」


「よかろう。お相手いたそう」


 さあこうなると両軍、戦なんてしておれません。互いに手を止めて歓声を上げ、大将の勝敗の行方を見守ります。


 一合、二合、三合。互いに武器を合わせ、弾き、どちらも傷を負わせられません。


「張遼、なかなかやるな?」

「そっちこそ。我が主君呂将軍以外に、これ程強い男に会ったことはない」


「ふっ。我が義弟はもっと強いぞ?」

「確か、張飛とか言ったか?」


「そうだ。そなた益徳を見なかったか?」

「僅かな兵で山から突撃してくる将がいたが、弓で応戦すると兵士を守って山に引っ込んでいくのを何度か続けた。あれが張飛ではないか?」


「む。では生きておるな?」

「知らぬ。こちらは警戒しておったから、諦めてここ数日は攻めて来なかったからな」


「あやつ何をしておる。生きておればさっさと加勢すればよいものを」

「はっ! お前より強いのに加勢されたらたまらんよ」


「ふっ。張遼。お前は面白いやつだな。どうだ。呂布になどくっついておらんで、我が主君に仕えんか?」

「馬鹿も休み休み言え。だったらお前が呂将軍に仕えたらよい」


「それだけは遠慮させてくれ」

「ならば互いに信じる主君のために刃を交えるだけだ!」


「その通り!」


 雲長さんは、小競り合いを止め、勝負を決しようと頭上で偃月刀を振り回して勢いをつけて張遼を叩き付けます。それを張遼は自身の槍で受けました。まだまだ決着がつきません。




 そうなってくると、様子を見ていた夏侯惇さまが、何やら張遼たちが劣勢になってきたと気付きました。

 すぐに偵察を出すと、張遼と雲長さんが互いに一騎討ちをしており、張遼側が崩れ始めていると聞き、さあここが攻め時だと太鼓を鳴らさせます。


 于禁を始めとする配下に兵を率いさせ、自分もその後から駒を進めました。

 そして高順を見つけると、襲い掛かり、高順も抵抗するものの次第に敗走に変わって行きます。


「そら、高順が逃げるぞ! 追え!」


 と兵に叫ぶと、兵たちは「わっ!」と叫んでそれを追い始めます。

 しかしその刹那、背後からドサリと馬から何かが落ちる音が聞こえて、みんなそちらに振り向くと、夏侯惇さまが落馬しておりました。しかも、片眼に矢が突き刺さっております。


 どこから矢は飛んできたのでしょう。大将が傷を負っていて見ぬふりはできません。配下たちは急いで夏侯惇さまを助け、陣に帰って行きました。

 そして矢の飛んできた遥か遠くの丘の上には一丈もある武将が弓を下ろしておりました。




 その時、夏侯惇さまの副将である于禁はまだそれに気付いておりません。そのまま張遼軍を攻め始めます。驚いたのは張遼軍で、後から横から攻められ崩れて行きます。それに気付いた張遼、もはや一騎討ちどころではなくなりました。

 雲長さんとの戦いから身を翻して、睨み付けながら叫びます。


「関羽! こちらは兵を立て直さなくてはならん! 勝負なしだ!」

「よかろう! こちらも兵をまとめなくてはならんからな!」


 お互いにそう言って、別の方向に向き合います。張遼は城外に。雲長さんは城内に留まり、城を取り戻したのでした。




 その頃、曹操さまは郭嘉さんを侍らせ、小沛の城の近くに陣を築かせており、偵察部隊から状況を確認しておりました。


「むむ。城は落ちて、劉備は敗走したのか」

「はい。ですが夏侯惇さまの陣に駆け込み無事です」


「よし、無事ならばよい。だが作戦は練り直しだな」


 次に別の報告が上がります。


「関羽が兵を率いて城内に入り、張遼と争って、こちらが優勢であります!」

「なに、関羽が張遼とだと? そして優勢か。さすが関羽だ。あのものは当代きっての英雄だな」


「それを見て夏侯惇さまが出撃し、高順を追い払いました」

「ふむ、さすが夏侯惇だ。関羽が張遼を、夏侯惇が高順を。これなら我らが一押しすれば、呂布軍は瓦解するぞ!」


 そう言って郭嘉さんを見ると、郭嘉さんは大きく頷きました。


「誠に以て。さあ動くこと雷霆(らいてい)の如しです。今の機を逸してはなりません!」


 曹操さまはその通りだと手を打つと、別の報告が入りました。


「ご報告! ご報告!」

「よし、申せ!」


「夏侯惇さまが矢で目を撃ち抜かれ重症であります。兵を于禁さまに任せ、ご自身は陣に戻りました」

「な、なに!? 夏侯惇が重症だと!?」


「は、はい」

「こうしてはおれん。余はすぐに夏侯惇の陣に参る。後は郭嘉、お前に任せるぞ」


 そう言うと、曹操さまは馬車に向かおうとしますが、その時。曹操さまの後ろに立っていた兵士が倒れ、曹操さまへとのしかかりました。


 何事かと曹操さまは、のしかかってきた兵士を見ると背中に矢を受けすでに絶命しております。


「何事か!!」

「閣下、危ない!」


 そう言って、今度は郭嘉さんが曹操さまへと覆い被さります。その郭嘉さんの袖には矢が二本刺さっております。

 郭嘉さんはすぐに命じました。


「盾を!」

「は、はい!」


 兵士たちが盾を構えて、訳も分からずに郭嘉さんと、曹操さまを守るように盾でぐるりと覆います。

 しかし、一つの盾に三本の矢が突き刺さり割れてしまいました。さらにそれを持っていた兵士は矢を五本受けて倒れ込みます。


「閣下を守れ!」

「は、はい!」


 盾で曹操さまを守ろうと兵士たちが大勢やってきますが、次々に倒れて行きます。それは曹操さまへと直線上に立ったものばかり。郭嘉さんは急いで身を低くしながら曹操さまを物陰へと導きました。

 曹操さまも先ほどの矢が飛んできたほうを物陰に隠れながら見ると、遥か半里ほど先に、一丈ほどの武将が馬上にいるようです。兵士は三千ほどでした。


「あ、あれは!?」

「閣下! 呂布の旗です!」


「りょ、呂布だと!?」

「呂布は弓の名手で羿(げい)の極意という技を会得しております。あれに狙われたら一巻の終わりです!」


 羿(げい)とは弓の得意な神様の名前です。呂布はそれと同じように百発百中だということでしょう。


 呂布はいつの間にか、この戦場に来ておりました。策士の陳宮は、曹操さまが軍を動かしたことをしり、それならば小沛の救援に向かうだろうと予測を立て、呂布をこちらに向かわせたのでした。

 呂布は策に従い、大将の曹操さまを奇襲し狙い撃ちにしてきたのです。たしかに曹操さまが討たれればこの戦は呂布の勝ちになってしまいます。

 呂布は弓が役に立たないと悟ると、僅かな手勢で突撃をしてきました。


「迎え撃て! 閣下を守れ!」


 郭嘉さんは兵士に命令を出しますが、呂布が相手と怖がって逃げ腰です。

 そのうちに兵士の一人が、呂布ではないほうを指差しました。


「あ、あれは!!」


 見ると別方向から砂煙を上げて一部隊がこちらに駆けてくるようです。


「敵か!? 味方か!? 旗にはなんと書いてある!?」


 郭嘉さんが叫ぶと、兵士は答えました。


「旗には『張』と書いてあります!」

「なに!? 張遼か!?」


「たしかにあれは張遼の旗です!!」


 なんと言うことでしょう。挟撃するつもりが、これでは逆に挟撃されてしまいます。 一体どうなりますの?

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