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第二十八回 山賊討伐 三

 さて韓暹の兵を引き入れ、一気に千五百から四千以上に膨れ上がった益徳さんと雲長さんの軍勢。

 今は、元韓暹の山塞で降伏した兵たちと仲良く食事をしておりました。蓄えも充分にあり、これなら収穫の秋まで、みんな飢えることはなさそうです。


 しかし、今回の目的はそれだけではありません。烈山に拠点を置く山賊、楊奉まで討伐することが目標でしたね!

 雲長さんは、山塞の韓暹の部下だったものでも上役のものを呼んで聞きました。


「韓暹と楊奉は連携体制を組んでいたな。救援を知らせるのろしを上げられるか?」

「もちろんでさァ。あっしはのろしの係もやってましたから。救援の知らせは任せてください!」


「それはありがたい。そなたには、山塞が攻められたので援軍に来て欲しいとののろしを上げて貰いたい」

「お安いご用でさァ」


 雲長さんは益徳さんを呼びました。作戦を伝えるようです。


「益徳。今度は楊奉を討つぞ!」

「おう!」


「お前は山塞から出て、前のように二千の兵で伏兵をして欲しい。そうさなぁ、山裾(やますそ)のほうがいいだろう。楊奉の軍は援軍だと思っているからこの山を駆け登ってくる。それの半ばが過ぎたら兵の列を分断せよ」

「分かった!」


「儂は半分の兵を用いて、この塞と模擬戦(もぎせん)を行う」

「ふぅん?」


「ははは。分からないという顔をしているな。山塞でワァワァやってると、楊奉は『こりゃいけない。すでに合戦が始まって山塞が襲われてる』と急いで来るだろう。楊奉は山塞と自分の軍で挟撃すると思っているが逆だ。楊奉が来たら、儂らはクルリと振り向いて槍や弓を向ける。山裾からは益徳が攻める。あっという間に戦意を失って投降するぞ!」

「な~るほどなァ」


「それじゃ、作戦開始だ。伏兵のほうは頼んだぞ!」

「うん!」


 益徳さんは歩兵二千を連れて、山裾まで参ります。そこで山道の両側に、前例に習って兵を伏せました。益徳さんも同じです。


 その頃合いを見計らって雲長さんは、楊奉に向けてのろしを上げさせました。

 楊奉のほうでは、韓暹の山塞が襲われると兵を整列させます。


「よいか! 韓暹のいる相山が何者かに襲われているようだ。救援に向かう。我に続け!」


 兵士たちは、『えいえいおうおう!』と呼応すると、山塞から飛び出して楊奉の後を追います。


 楊奉が相山までくると、先に雲長さんと韓暹が一戦した後があります。しかも山のほうからは合戦している声が聞こえるのです。さぁこれは一大事。しかし、足跡を見る限り敵の数は多くなさそうだと油断します。


「おい野郎ども! 敵の数は少ないぞ。韓暹はどうやら山塞で籠城(ろうじょう)しているようだ。急いで敵の背後を突こう。そうすれば敵の被害は甚大なものとなろう!」

「「「おう! おう!」」」


 楊奉の予想に、部下の兵士たちは『全くだ!』と士気を高め、山を登り始めます。益徳さんはそれをやり過ごしました。


 楊奉は、雲長さんのいる山塞までやって来て、敵は少ないと侮り余裕で叫びます!


「ええい! 敵兵よ! 大人しく降参せよ! お前たちは退路を断たれたぞ!」


 と言ったところで、雲長さんの軍勢は一気に楊奉のほうを向きます。楊奉はまだ自分が雲長さんを追い詰めたと思っているので不敵な笑みを浮かべたまま。

 しかし、雲長さんは号令します。


「追い詰められたのはお前だ、楊奉! すでに山塞は我らのものだ! かかれ!」


 すると山塞の門が開き、騎兵五百が飛び出してきました。楊奉の軍勢は五千ですが、余りにも不意を突かれたから体勢が整わない。


「え、ええい! かかれ! 迎え撃て!」


 と号令しますが、雲長さんの統率力とは天と地ほどのさがあります。

 雲長さんは、絶えず楊奉の兵士たちに『降れば殺さぬ』と叫ぶので、士気が落ちた彼らは武器を捨てて投降し始めたのです。

 それでもまだ戦う気になっていた兵士たちは多かったのですが、雲長さんの用兵に押されていきます。


 そこに後方から一騎の武者が楊奉へ、急ぎの報告を持ってきたのです。楊奉へと何かを伝えようとしておりますが、戦場の怒号でその声が掻き消されてしまいます。


「なんだ! 報告なら大きい声で致せ!」


 との楊奉の言葉に騎馬武者は声を張り上げました。


「後方から! 伏兵が! 道を塞ぎ! 攻めて参ります! 我らは! 挟撃されております!」


 その声が全軍に聞こえてしまったから大変です。せっかくまだ戦うつもりだった残りの兵士も戦意喪失となり、逃げ腰となってしまいました。これでは戦になりません。

 楊奉は馬の向きを変え、山裾を目指します。


「こうなってしまっては仕方ない。烈山に退け! 後方の敵を破り血路を開け!」


 と号令しながら、我先に山を下ります。続いてまだ降伏しきれない兵士達がそれに続きました。

 でもこれはアレですよね。ホラー映画で言うところのヤバいパターンですわよね。

 だって逃げた先には益徳さんがいるんですもの。


 楊奉は武勇に自信があるのか、小競り合いをしているところに駆け込みました。


「ええい! どけ、どけェ! 死にたいのか!」


 と益徳さんの兵士を大喝! ですが士気の高い益徳さんの兵士は、却って馬の上の楊奉へと槍を向けます。


 その時です! 主役の登場です! 敵の騎兵を横蹴りにして落馬させ、自分がその馬に跨がります。人というものは動きのあるほうに目が行くもので、楊奉もそちらに目をやりました。

 そこには身の丈八尺の益徳さんがいるのですから、馬の上で驚いて身を引いてしまいます。

 益徳さんは余裕で口上を述べました。


「我こそは、劉備の元にその人ありと言われた張飛でィ! 楊奉! いざ尋常に勝負せよ!」


 楊奉のほうでも、益徳さんの長身には驚いたものの、格好からたかが歩兵が馬に乗っただけだと侮っております。


「なにを猪口才な! 我が槍の錆としてくれん!」


 と一触即発! ですが、そこに割って入った人物がいました。


「待て、待て、待て、待て!」


 山の上から駆け降りてきた人は、まさに雲長さんです。雲長さんは、益徳さんの横に来たかと思うと、その前に立ち楊奉のほうを向きました。

 あまりに急いできたのでしょう。息()き切って額の汗を拭って衣服を整えてから言ったのです。


「楊奉よ。我こそは劉備陣営にその人ありと言われた関羽、字を雲長である! 潔く勝負を決せん!」


 と名乗りを上げます。しかし益徳さんは雲長さんが一騎討ちの横取りだと口を尖らせて抗議しました。


「なんでィ、義兄(アニキ)! これは楊奉とオイラの勝負でィ。邪魔をするねィ!」

「いやさ益徳。そなたは伏兵で疲れておる。儂が代わろう、な」


「疲れてなんていねェやな。横入りはいけねェ」

「益徳、控えよ。そなたは韓暹を討ったではないか。今度は儂に譲れィ!」


「そんな狡ィや、狡ィや!」

「なっ……! 狡いとは人聞きの悪い! 義弟(おとうと)ならば兄に譲らんか!」


 なんということでしょう。義兄弟して楊奉と一騎討ちする争いです。

 この頃になると兵士はすでに戦を止め、この大事な一騎討ちを見ようと集まって来ておりました。今で言うスポーツ観戦ですわね。

 そんな回りの様子など気にせず、二人は見苦しく一歩も譲りません。


「益徳! 貴様、大人しく従え!」

「ハンッ! 人の獲物を奪おうなんざ、義兄が聞いて呆れらァ!」


「馬鹿者! 儂は黙って韓暹を譲ってやった。そしたら貴様は黙って楊奉を譲るのが道理であろう!」

「何が譲っただい! 後から言うねィ!」


「かー! 貴様、五倫(ごりん)を知らんのか、長幼の序を知らんのか! 年少の者は年長の者を敬い、譲らなければならない。黙って引き下がれ!」

「なんだそりゃ! 面倒臭ェや!」


 バチバチと馬を前に出し合い、とうとう楊奉の目の前に来てしまいました。楊奉もたじたじとなってましたが、目の前の二人に叫びます。


「ええい! どちらでもよい! かかって来い!」

「「うるさい!!!!」」


 瞬時に義兄弟二人は楊奉に叫びました。すると楊奉は驚いて飛び上がります。何しろ目の前で火花を噴かん勢いでおっかない顔が二つこちらを向いたのですから。

 楊奉はそのまま体勢を崩して落馬してしまいました。しかし、落ちたところが悪かったのです。地面から大きな石が覗いており、そこに頭から落ちたわけですから、打ちどころが悪かったようです。


 義兄弟二人は、馬から飛び降りて楊奉を揺すったり、気付けを行ったのですが、グニャリとして息を吹き返しませんでした。

 二人は一騎討ちが出来ずにガッカリして大きくため息をつきましたが、回りからは大歓声!


「勝った! 勝った!」

「関将軍! 張将軍!」


 と大盛り上がりです。ですが二人はあんまり嬉しくなかったようですね。山塞に帰る間中、ずっと馬を並べて肩をぶつけ合っておりました。

 まったく。子供の争いですわ。




 その後、兵士数は一気に一万に膨れ上がり、物資もたくさん手に入れました。さらにこの時、陳到(ちんとう)という有能な武官を配下に加えました。後に趙雲(ちょううん)さんと並び称されるかたですよ。

 こうして、益徳さんと雲長さんは小沛の城へと凱旋していったのでした。

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