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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
80/224

80 急に決まる出発

 シャーレに拒絶されたクルウンはどうしてなのかわからず呆然としていたが、警備の男に誘われてその場から離れていく。周囲の人間は励ますのだろうと判断して、彼らも散っていく。

 クルウンたちは路地を通って、人の少ない喫茶店に入る。それを物陰から見ていた庶民風の男が、その場から静かに離れていくことに二人は気付かなかった。

 喫茶店の片隅に座って、警備の男は店主に二人分の飲み物と食べ物を注文した。


「少年、元気を出せよ」

「元気なんてでないよ。好きな子に嫌われたんだぞ」


 はあーっと大きく溜息を吐くクルウン。


「本当に嫌われたのかね? 俺には自分に近づけさせないようにわざと拒絶したように見えたぞ。近づいたら危ないからってな」

「……え?」


 そうなのかと不思議そうにクルウンは警備の男を見る。


「そんなんじゃ、あの少女は助けられないぞ」

「助ける?」

「お前が言っていただろう。無理矢理奴隷にしたのだと」


 ここからは秘密の話だがなとクルウンを手招きして小声で話し始める。


「あの子は本当に無理矢理奴隷にされているんだよ。行動も主である男に制限されている。だから俺たち警備が国からの指示を受けてあの男を見張っていたんだ」

「なんだって!? やっぱり無理矢理奴隷にさせられていたのか!」


 テーブルを叩いて立ち上がり、大声でクルウンは言う。怒りの表情が浮かんでおり、やはり自分が助けなければという思いが心に満ちる。

 そのクルウンの頭を警備の男がスパンと叩く。


「馬鹿っ。秘密と言っただろう。座れ、そして静かに聞け」

「ご、ごめんなさい。つい興奮して。親にもお前は直情すぎると言われるんです」

「まっすぐなのは美点でもあるんだろうが、その感情のまま動かれてはこっちが困る。証拠が掴めなくなるからな」

「わかりました。それであの子は解放されるんでしょうか」

「される。いつになるかはわからんが。本当なら奴隷印が変色して証拠になるんだが、どうやったかあの子の主は印の色を変えない技術を持っているようで、そこから逮捕はできないんだ」

「長引くのは可哀想です。もっと早く解放できないんでしょうか」


 真摯にシャーレのことを思いクルウンは提案し、警備の男は深々と頷く。


「可能ではある。だが君に少しばかり動いてもらう必要がある。君をここに連れてきたのは誘うためだったんだ。真剣に彼女のことを思っている君なら受けてくれるだろうとね」

「やります! あの子の助けになるならなんだって!」


 シャーレの助けになるのならと興奮し大声で宣言する。そしてまた警備の男にスパンと叩かれた。


「だから静かにしろ」

「ごめんなさい。それで俺はなにをすればいいんですか」


 やる気に満ちた視線を警備の男に向ける。


「まっすぐすぎて、ちょいと心配になってきたんだが。お前が馬鹿をやると助けられるものも助けられないってことを覚えておけよ。助けるどころか、俺たちが動いていることを気づかれて、死ぬまで解放されないなんてことにしたくないだろう」


 シャーレの暗い未来を思い、クルウンは真剣な表情で頷いた。親にいつも直せと言われている短慮を、今ほど制御しようと考えたことはないだろう。 


「わかりゃいいんだ。んでやってもらいたいことは、適度にあいつらに絡むことだ」

「会いに行っていいの? 見張りとかだと思ったんだけど」

「素人に見張りを任せるかよ。あいつらはただでさえ鋭い。自分たちが悪事をやっている自覚があるから、少しの変化も見逃さないようにしているんだ。その注意をお前にはそらしてもらう。最初に派手にやったお前なら、またかと流すだろうし。その接触の中で、隙を見つけ奴らを捕まえるのは俺たちの役割だ」

「わかった」

「でもやりすぎは駄目だぞ。近づいたことを反省したふりでもいいから、少しだけ声をかけて離れるといった感じでいけ。できるな?」

「やる。それがあの子を助けることに繋がるんだろう?」


 ああと頷いた警備の男にクルウンはやる気をみなぎらせて頷いた。

 その意気だと警備の男も笑いかける。

 話がひと段落ついたと見た店主が注文の品を運んできた。

 警備の男は多めに代金を支払う。会話が聞こえていたことを考えての口止め料だ。店主はその意図を察して小さく頷いて下がっていく。

 料理を食べて、警備の男とクルウンは店を出る。

 シャーレとの来ることのない未来を夢想したクルウンは明るい表情で家の手伝いのため走って帰っていく。それを見送って警備の男も歩き出す。


「単純馬鹿は操りやすくで楽だな。これであいつが囮になって、情報収集が進む。ある程度役立ってくれれば、始末して町の外に捨てればいい。それまで叶わない夢でも見ていい気分でいるかと思うと笑えてくるな。この笑いでおごった分くらいは元手がとれそうだ」


 警備の男は笑いをこらえながら、大通りに出る。

 その背を物陰に潜んでいたコートの男たちが見ていて、警備の男を追う者が一人。コートの男はクルウンたちが使っていた喫茶店へと向かう。


 ◇


 昨日に続いて今日も狩りだ。少年と出会う可能性を考えたシャーレが町中での仕事を嫌がったのだ。

 今日も耳長ウサギを餌に、フクロウの魔物やリザリガを狩ることになった。

 リザリガとの一対一の戦闘を今日もやるということなので、気合を入れないとな。油断しなければ十分以上に渡り合えるってわかったから、余裕も持てる。

 でも空は曇りで、もしかしたら雨かもしれないとダイオンとイリーナ予測している。だから早めに切り上げることもありえる。

 歩いて移動し、シャーレが耳長ウサギを狩っていく。矢だけを回収して、耳長ウサギはそのままにしてその場から離れる。

 三匹目を放置して、一匹目のところに戻るとフクロウの魔物たちがいて、シャーレが矢で攻撃し、機動力が落ちたそれらをダイオンとイリーナが倒していく。

 俺はここまでなにもしていない。手持ちの魔法で倒すと素材の価値が落ちるということで、フクロウの魔物には手が出せないのだ。氷系の魔法だと大丈夫そうなんだけど、たぶん当たらないんだよな。なのでついていくというだけになっている。

 楽なんだけど、手持無沙汰でもある。早くリザリガでてこないかな。

 そんな感じであちこち歩いて、リザリガと再戦して今度は勝ったところで、帰ることになった。雲が分厚くなってきたのだ。

 俺でも「あ、これは一雨くるな」とわかるくらいに雲の黒さが増している。いつでも雨避けの風を吹かせられるようにしながら町へと戻る。

 狩ったものを売って宿に戻る途中で、嫌な感じが増す。


「主様?」


 足を止めて発生源を探すと、昨日の少年がこちらへと小走りで近づいていた。

 俺の視線の先を見たシャーレが顔を顰める。そのシャーレを背後に隠せる位置に移動する。

 俺を見てなにかを言おうとした少年より前に、俺が問いかける。


「少年、なにがあった?」


 問われたことに少年はきょとんとする。


「昨日の今日でここまで変化するもんか?」

「リョウジ、もしかして嫌な感じが増したのか?」

「そうだよ。警戒した方がいいところまで増している。今日中にこの町を出たいくらいだ。この少年はシャーレにとって悪影響しか及ぼさないよ」

「なにを言ってんだ! お前の方がその子をっ」


 なにか言おうとした少年は、はっとして口をつぐむ。


「とにかく! 見かけたから挨拶しようと思っただけだ。邪魔するなよ」

「邪魔もするさ。さっきも言ったが、お前とは言葉を交わすこともさせられない。急で悪いけど、町を出る準備をしよう」


 後半はダイオンとイリーナに向けて言うと、頷きが返ってくる。

 

「じゃあな、少年。二度と会うことはないだろ。ちょっとした助言だが、今のままだと危ないかもしれないぞ」


 なにがどう危ないのかはわからない。でもいっきに増した嫌な感じからして、なにかしらの悪影響を受けていそうだ。それに付き合えば、少年の未来は決して明るいとはいえない。


「いい加減なこと言って逃げようとしても無駄だぞ! 絶対無駄だからな!」


 そう言って焦った表情の少年は走り去る。あの様子だと助言は聞き入れないだろうな。曖昧な助言しかできてないから、俺としても従えとは言えないけどさ。

 少年の背を見ていると、シャーレが俺の袖を引っ張る。


「買い物に行きましょう? 出発するなら食材を買わないと」

「そうだな」


 気にしてもどうにもならないし、さっさと忘れよう。

 ぽつりと手に水滴が落ちた。それを合図にぽつぽつと水滴が地面を濡らしていく。

 すぐに魔法を使って、風で雨を弾いていく。


「雨か。出発するにはあまりいい状況とはいえないけど、どうする?」


 イリーナが聞いてくる。


「嫌な感じがなくならないから予定は変えない。嫌な感じがしても一日くらい余裕あるだろうと思ったら兵に捕まって牢屋に入れられたし」


 それを知っているシャーレとダイオンも今日出るということに異論はない様子だ。

 そうなんだとイリーナは頷いて、渋る様子なくダイオンの隣を歩き、捕まったときのことを聞いている。

 補充品はたくさん買わずにすませる。近くの村で追加補充すればいいのだ。二日分くらいを買って宿に戻り俺はフロントへ、シャーレたちは部屋で出発準備を整える。

 買い物になんだかんだ時間はかかって時間的に今は夕方だ。今からのチェックアウトに首を傾げられつつ手続きしてもらう。

 荷物を持ったシャーレたちがフロントにやってくる。

 シャーレたちと一緒に宿を出る。雨は本格的に降り出していて、通りを歩く人の姿が減っていた。

 そんな中、町の入口に向かい、十人以上の警備が立ちはだかり止められる。外壁の側にある警備詰所に少年の姿もあった。

 警備たちも少年も同じように嫌な感じがしている。


「そこをどいてもらいたいのだが?」


 ダイオンが警備たちに声をかける。


「それはできない相談だ。早いがもう入り口を閉じることにしたのだよ」

「まだ閉じてないから出られるだろうに。外にもこちらを見て戸惑っている人たちがいるしな。閉じる理由を聞きたいが?」

「お前たちに話すことではない。どうしてそんなに外に出たがる? 怪しいな、ちょっと詰所に来てもらおうか」


 俺たちを捕まえるためかじりじりと距離を詰めてくる。また捕まって事態が動くのを待つことになるかな? そうなる前に情報を伝えておこう。

 こうしている間に木製の大きな扉がゆっくり閉じられていく。


「ダイオン、言っておくね。あの少年と警備たちも同じ。嫌な感じだよ」

「……そうか、抵抗するぞ。できるだけ大怪我はさせない方向で」


 少しだけなにかを考えてダイオンは剣を抜く。イリーナは少し戸惑ったようにしつつも剣を抜いた。

 以前牢屋に入れられたときはわりと素直に捕まったのに、今回は抵抗するのか、なにか考えがあるんだろうか?

 抵抗の意思を見せたせいか、警備たちは笛を吹きならす。別の場所にいる警備に異常を知らせたんだろう。


「リョウジはシャーレと一緒に火の魔法だけだ。棒での手加減できないだろうし、ほかの魔法も手加減難しいだろうしな」

「りょーかい」


 火魔法なら加護はないし、雨で威力が落ちるから自動的に手加減になるだろうしな。

 ダイオンとイリーナが突っ込んでいき、剣や槍といった武器を持った警備も戦闘態勢に入る。

 二人は自身へと迫る武器を弾き、それぞれの剣の腹で警備をぶっ叩いていく。

 警備との戦闘に戸惑っていたイリーナも、戦いということですぐに意識を切り替えて、容赦なく警備を叩き伏せていった。

 警備たちは一般人よりも強かったが、大きな大会の上位陣である二人には敵わず、一合で倒されていく。

 思った以上の強敵だと警備たちは俺とシャーレに向かうよりもダイオンたちに注意を向けた。

 そういった隙だらけの警備へとシャーレと二人で炎の魔法を飛ばす。

 あっという間に警備はその数を減らしたけど、残った警備が俺らを逃がさないためか完全に門を閉ざした。

 ついでに警笛を聞きつけた警備が集まってくる。警備だけではなく、住民も騒ぎを聞きつけて家や軒下から遠巻きにこちらを見てきている。

感想ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 姉さん、こんなロリコン共やっちゃってください、社会の敵ですぜ。
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