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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
45/224

45 森の調査

「突然大量発生したか、どこかの村が襲われてそこで分裂したものが流れてきたか、縄張り争いに負けて流れてきたかだな」


 去っていく男から視線を外しダイオンが言う。


「村人も知らないような遺跡とか洞窟から偶然出てきた可能性はないかな」


 ゲームでありそうな展開を思いつき、聞いてみた。


「あるっちゃある。でも可能性としては低いと思うよ。いやそんな勘がしているのか?」

「いやいや、なんとなく思いついただけで勘ですらない」

「そっか」


 近くに魔物がいないか警戒しながら待っていると、ラジィさんが台車を引いて戻ってくる。

 ラジィさんを手伝って、木箱を台車に移動させる。


「ホプランが戻ってきてないですけど、移動しちゃって大丈夫ですか」

「ホプランはしばらく使いものにならないと思う」

「なにかありました?」

「会うのを楽しみにしていた娘さんが魔物にさらわれたらしくて落ち込んでいるんだ。だから先に宿に向かわせた」


 そりゃ落ち込むわな。会うのを楽しみにしていたのは朝の様子からわかるし。

 荷物を支えながら台車を動かして、ラジィさんの知り合いに渡す。こんなことになって、物資に困った人がいるようで、喜ばれていた。

 台車も返し、宿に向かう。この後の予定はアッツェンに十日ほど滞在して仕入れを行い、カラックットに帰るというものだったが、ホプランの様子次第では仕入れは中止らしい。

 宿に入ると旅装姿のホプランが出てくるところだった。真剣というには気負いすぎた表情だ。


「どうしたホプラン」

「ロローを探しに行くっ」

「いやお前じゃ無理だろう!? 特に鍛えてなどいないお前が魔物の多い森に入って助け出すなど無茶もいいところだ!」

「だとしてもこのまま待っていることなんて!」

「ロローさんを探しに行って大怪我したら、ロローさんだけじゃなくて向こうの家族にも負い目を感じさせることになりかねんぞ」

「……だったら!」


 ホプランが俺たちを見る。


「依頼です! 俺を無傷でロローのところまで連れて行ってくれ」


 それに対して俺たちが無茶だと言う前に、ラジィさんがホプランを殴った。

 よろけたホプランが鼻血を出しつつラジィさんを睨む。


「なにするんだよ!」


 それに答えずラジィさんはまず俺たちに頭を下げた。


「息子が馬鹿を言った、申し訳ない。今の依頼ともいえないものは忘れてほしい」

「馬鹿ってなんだよ! 傭兵に依頼するのはおかしいことじゃないだろう!」

「ロローさんがどこにいて、どんな魔物にさらわれて、その魔物がどれだけいて、どれくらいの強さで、森がどういったところか。そういった情報をお前は知っているのか」


 ラジィさんの問いかけに、ホプランはスライムが北の方にさらっていったとだけ答え、あとはなにも言えなかった。


「情報不足で三人を巻き込んで、なんの成果もなければさらに三人に無茶を強要する気だろう」

「そんなことは!」

「今のお前ならやる。感情任せの暴走なんて、よほど信用信頼がなければ付き合えるもんじゃない。お前の依頼なんぞ断られるだけだがな」


 うん、断るね。申し訳ないけど、今のホプランには付き合えない。大事な人が今にも死ぬかもしれないってことで焦るのはわかるけど、ラジィさんの言うようにそれに付き合えるほど親しいわけじゃない。ある程度の友好的な交流はしてきたけど、無茶を強要されると反発するだろうな。

 でもラジィさんが止めるのはちょっと予想外だったな。ホプランを押さえながら、助力を願うと思っていた。


「息子に変わって依頼をしたい。ロローさんたちさらわれた人がいるかもしれない北の様子を探ってもらえないだろうか。危険があったらすぐに引き返していいし、救出を強要するものではない。あくまで様子見だ。今すぐ行く必要もない。森の情報を調べる時間も必要だろうしね」


 あ、依頼はしてくるんだな。なんだかんだラジィさんもロローさんとやらを心配はしているっぽいね。

 冷静に条件を提示してくれるのは助かる。その条件ならと思えた。

 ダイオンがどうすると聞いてくる。


「ラジィさんの条件ならと思えたけど、ダイオンから見てどう?」

「そうだな……任せてくれるなら条件をこっちで詰めるが」

「お願い」


 頷いたダイオンがラジィさんと話し始める。こういったことはダイオンに任せた方が安心だ。

 シャーレが俺の袖を引っ張ってくる。


「私も行きます」


 置いて行かれると思ったのか。わしわしと頭を撫でる。

 今回は最初から連れていく気だった。感知はシャーレの方が優れているのだから、なにかを探すときは任せられるのだ。

 置いていかれないとわかって、シャーレはほっとしたように袖を放した。

 というか森の危険度次第ではシャーレだけじゃなくて、俺も置いて行かれる可能性もあるんだよな。

 五分ほどで交渉が終わる。ホプランがついてきたいと言っていたけど、ラジィさんとダイオンから足手まといと切って捨てられた。

 宿にラジィさんとホプランを置いて、森について調べることになる。

 とりあえず村の偉い人に聞けばいいだろうと村長の家に向かう。

 突然の来訪に驚いたようだが、ダイオンがラジィさんから依頼を受けたことなど落ち着いて用件を伝えたことで、納得してもらえた。ホプランとロローの仲は村長も把握していて、依頼を出すことに納得したらしい。

 家に入れてもらい、村長とリビングで向かい合うように椅子に座る。


「聞きたいことは森の様子でしたな」

「ええ。入るにあたって危険なところなどあるか、注意すべき魔物はいるか。そういったことですね」


 ダイオンの返答にわかりましたと頷いて続ける。


「危険という意味ではよその森とそう変わりないと思います。視界の悪さ、濡れた地面で滑る、毒を持った虫や草花、森に住む魔物。こういったものでしょう。沼があったり、毒を吹き出す穴があったということはないですね」


 北の森にある毒草や毒を持った虫の種類について話してくれる。どれも猛毒ではなく、村の薬師のところで解毒剤を手に入れられるそうだ。


「魔物についてはどうでしょうか」

「これまでは狼や猪といった獣、獣型の魔物、虫型の魔物。それらが見かけられました。大型猿の魔物が厄介といえばやっかいでしたが、それでも雇った傭兵で対処は可能でしたね。ある程度痛めつけてやれば、ここは安全ではないと理解してすぐに離れていきます」

「スライムは初めて見たと聞いていましたが、そうなのですか?」

「はい。これまで見たことありませんでした。狩人がまれにはぐれをみかけたことがあるとは言っていたそうです。小型のスライムで、数日かけて周辺を調べて隠れるような場所はなく、ほかに見かけなかったこと、その後姿を見なかったことから流れてきただけと判断していました」

「それはいつの話?」


 村長は視線を天井に向けて思い出すしぐさを見せて、またダイオンに視線を戻す。


「五年前らしいですね。それより前は二十年近く前だとか」

「ここらにスライムが隠れられそうな洞窟とか深い隙間とか亀裂とかあります?」

「洞窟はないですな。村外れに貯蔵のための地下蔵がありますが、そこに隠れていたらすぐにわかるでしょうし。隙間や亀裂は把握できていません。村の中にはないと言い切れますが、外までは」

「なるほど。ありがとうございました」


 必要分は聞かせてもらったということでダイオンが頭を下げ、俺たちも一緒に下げる。


「今回の件でなにかわかったら私どもにも報告をいただきたいのですが」

「もちろんです。とりあえず今日は日暮れまでに行って帰ってこれるところを探る予定なので、戻ってきたら報告にきます」

「ありがとうございます」


 村長の家を出て、ダイオンが森に入る際の注意点を俺たちに話す。

 話すってことは俺とシャーレが行っても大丈夫と判断したんだろうな。


「すでに救出隊が派遣されているから、森の魔物が刺激されて興奮している可能性がある。木や藪といった視線が通らないところからの奇襲に要注意だ」

「わかったよ」


 俺が頷くのと一緒にシャーレも頷く。

 ほかに俺たちの役割についても話してくる。気配などの感知はシャーレの役割で、俺の役割は感知では捉えきれないなにかを探ることらしい。具体的にはレイレーンを探したときのような感じだ。

 宿に戻る前に薬師のところによって森で役立つ薬を買う。これは経費として落ちるようにラジィさんと交渉済みらしい。

 宿に戻り、ダイオンからラジィさんに今日の予定を話す。

 ひとまずまっすぐ進んで、日暮れくらいに戻ってくる。その予定だと言うダイオンに、ホプランは不満そうだったが、ラジィさんは了承した。地元で通いなれた森ならばともかく、初めて入る森で用心することに不満などないということだった。

 その了承にダイオンはありがたそうにして、俺たちに出発の準備を整えるよう言ってくる。

 すぐに準備を終えて、宿を出て、村も出る。


 森は村のすぐ近くにあり、徒歩で十分もかからない。村人が入口近くで伐採しているようで、切り株や植樹があちこちに見られた。

 そういったところを通り過ぎて、本格的に森の風景が広がるところに足を踏み入れる。

 ダイオンが警戒するように声をかけてきて、俺たちは周囲を見ながら獣道でもない場所を進む。

 たまに魔物が襲いかかってくることがあったが、ダイオンが剣と魔法でどうにかして、俺とシャーレの出番などなかった。

 そろそろ森に入って二時間くらいかなといったところで、ダイオンが足を止めた。


「今日はここまでだな。これ以上は日が落ちて暗くなった森を歩くことになる」

「なにか収穫はあった?」


 聞くとシャーレが首を横に振った。


「私はなかったです」

「俺はたまになにかを引きずった跡を見つけた。だがそれがスライムの移動跡なのか、魔物が獲物を運んだ跡なのかまではわからなかった。リョウジは勘にひっかかるものはあったかい?」

「なかったね」


 答えながら周囲を見てみる。やはりなにも、いや北東にかすかになにか感じる。良いものか悪いものかはわからないけど。

 それを伝えると二人は北東を見る。


「少しくらいならまだ進んでもいい。確認するかしないか、どうする?」

「一応行ってみようか。これで救出が間に合うかもしれないし」


 ダイオンもシャーレも異論はないようで、北東へと歩を進める。

 近づくにつれて反応がはっきりとする。


「良い感じと悪い感じの両方」

「たしかになにかいるな。しかし両方か。悪い予感だけなら厄介なスライムがいるって推測の材料になったかもしれないが」


 ダイオンが慎重に進むぞと言い、ペースを落としできるだけ足音を立てずに移動する。

 目的の場所は少し開けたくぼんだところで、そこに大きなスライムが十体以上うごめいていた。スライムの大きさは人一人を余裕で飲み込めるほどで、その体内には服を溶かされ、髪や皮も溶かされかけているニールたちの姿があった。完全にスライムの体内に入ってしまっている者はぴくりとも動かないが、顔が出ている者は強張った表情でたまに手足をびくびくとさせている。

 木陰から見えるグロい光景に俺とシャーレが顔を顰めて、ダイオンは顔色を変えずに周囲を探る。


「俺たちのほかに隠れている誰かがいるな」

「救出隊かな?」

「かもしれん。接触してみようと思うが、可能性としてスライムを誘導して村を襲わせた謎の集団ってこともあるから、油断はしないように」


 俺とシャーレがこくりと頷き、ダイオンが先頭で静かに移動を始める。

 すると向こうも気づいたか、それとも気づいていたか、どちらかはわからないけど、こちらへと接近してくる。

 革鎧とマントをつけた三人組の二ールの男たちだ。鎧の胸の辺りに、焼き印でなにかの紋章が刻まれている。


「止まれ。こっちはアッツェンの騎士団だ。そちらは?」

「こっちは行商人に調査を頼まれた傭兵だ」

「傭兵?」


 シャーレを見て首を傾げた。まあ、恰好がメイドだし無理もない。


「調査とは?」

「あれが南にある村を襲ってな。行商人の知人がさらわれてスライムの行方などを探ってくれと頼まれた」

「ああ、なるほど」

「そっちの目的は聞いてもいいのか?」

「こちらもあのスライムがらみだ。別の村を襲い壊滅させたスライムがそこで繁殖してな。討伐したはいいが、いくつか逃げ出して追ってきたんだ」

「騎士団から逃げ出したのか」

「特殊な個体に変異していたスライムがいてな。地中に穴を開けて移動していた。そのせいだ。見分けはつかないが、ここにもいるぞ」


 村が襲われたのって、穴を掘った奴のせいでもあったんだろうな。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 村じゃ無くて同行者自身が厄介ごとだったか。 帰って来たら恋人と抱き合って再会を喜ぶ姿に 絶望するのか?ホプラン、、、、、。
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