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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
44/224

44 入国

 ローズリットの魔法から目が覚めて十日経過し、荷物をまとめて宿を出てラジィさんたちの家に向かう。

 おはようございますと玄関から声をかけるとホプランの妹のミューラが出てきた。すぐに家の奥へと声をかけて、俺たちの来訪を知らせてくれる。

 少しして旅装姿のホプランが出てきた。


「おはよう。荷物を馬車に入れたいからついてきてくれるか」

「わかった」


 ホプランはミューラに行ってきますと告げて、裏に置いてある台車を引っ張り、俺たちを先導する。

 倉庫街のようなところで、ホプランは管理人に声をかけて鍵をもらう。鍵には木製のプレートが紐づけされていて白くS4に相当する番号が刻まれていた。小さな倉庫の四番目ということらしい。

 扉に白でS4と書かれた倉庫をホプランが開けて、中にある木箱を台車に移す。それを手伝いながら中身を聞いてみる。


「これは生活雑貨だよ。古服とか調理器具とかが入っているんだ。俺たちの村が魔物に襲われたことは話したろ? そのときにこっちじゃない別のところに避難した人達の支援用なんだ。俺たちが行商するための資金を準備してくれたかわりに、品物を仕入れてきてくれって頼まれている。でもあっちも生活が安定してきているからそろそろ持っていかなくてもよくなりそうだ」


 そう言うホプランは少し残念そうだ。もっと恩返ししたかったのかな。

 倉庫にあった木箱をすべてを一度で台車に載せることはできず、馬車と倉庫を往復し、積み込みが終わる。

 ホプランが台車を家に戻しに行き、俺たちとラジィさんは目的地までの行程の最終確認をする。

 ここから目的の村までは片道七日。道中二日くらいは野営をすることになるそうだ。ほかの商人も使う道で、ここらの貴族が私兵を派遣して治安維持しているので魔物や盗賊などもほとんどでないらしい。


「確認も終わって、ホプランも戻ってきた。出発しよう。ホプランも我慢ができないだろうしな」

「早く行きたい理由でもあるんです?」


 俺が聞くとラジィさんがニヤリと笑う。


「向こうには惚れた相手がいるからな」

「ちょっと父さん!」


 からかいにホプランが少しだけ怒ったような反応を見せ、ラジィさんはすまんすまんと楽しげに笑っている。

 シャーレが少し興味あるといった顔でホプランを見ている。


「支援が終わるって話したとき少しだけ寂しげだったのは、その人に会えなくなるからか」

「リョウジもなにを言っているんだ!?」

「ほう、そんな感じだったのか」


 興が乗ったという雰囲気のラジィさんにこれ以上喋らせる気がないのか、ホプランが出発すると言って御者台に乗る。


「あー、少しからかいすぎたか」


 苦笑したラジィさんが謝りながら自分の馬車に乗る。


「俺たちも置いて行かれないように馬車に乗ろうか」


 ダイオンがそう言いながら御者台に乗る。

 俺とシャーレも馬車に乗り、いつでも出発できるとダイオンがホプランに声をかけると、二台の馬車が動き出す。

 俺とシャーレは本を読んで、一度目の休憩まで勉強だ。休憩したら次はシャーレが御者で、俺とダイオンはジョギングの予定になっている。

 鍛錬をやりつつの国境までの移動はほぼ順調にいった。途中で雨に降られたり、魔物と遭遇したりしたが、大きく足止めされることはなかったのだ。

 野営ではシャーレと協力して作ったと誤魔化した風呂も好評だった。わざわざ野営で風呂に入ろうとすることには呆れられたが。

 この移動の際にもローズリットは使っていたが、カバーをシャーレに作ってもらったこともあってか、ばれることはなかった。本そのものをラジィさんたちにあまり見せることはなかったし、そんなものが近くにあるとも思っていなかったからだろう。

 

 移動を始めて五日目。目の前にはきっちりと線を引かれたように生える木々と町がある。右を見ても左を見ても木がどこまでも続く。

 ここがパーレとアッツェンを繋ぐ関所ともいえる町だ。貿易の要所ともいえる町だからか、発展具合もかなりのものだ。

 ここの責任者は地位のない貴族というのか、境爵という一代限りの爵位を持つ者が両国から派遣されて治めていると管理者からもらった知識にあった。

 馬車を一度牧場に預ける。このまま通り抜けることはできず、役所で国境を越える書類を提出しなければならない。

 メインは依頼主のラジィさんたちで、俺たちは簡単に書類を埋めるだけでいいようだ。

 役所にはダイオンが行ってくれるということで、俺とシャーレは消耗品の購入に向かう。ついでにとラジィさんたちからも買い物を頼まれた。

 宿の前でダイオンたちと別れて買い物に向かう。


「主様、ニールの姿が多いですね」

「そうだね。国境だからか、一度にこんなに多くのニールを見たのは初めてだ」


 当たり前のように獣耳と尾を生やした者たちがそこらを歩いている。犬耳、猫耳、ウサギ耳、ピンと立った耳、垂れた耳などなど様々だ。獣耳のほかに、腕が翼の者や表皮の一部が鱗の者もいる。

 ほかに彼らに共通するのは寒そうにしていることだ。

 アッツェンは熱帯雨林らしいし、たまにヒヤリとした風も吹く秋のこちらは寒く感じるんだろうな。俺たちも向こうに行って帰ってきたら寒く感じるのかな。


「アッツェンに入ったら、夏物の服をまた出した方がいいのかもしれないな」

「そうですね。きちんと洗って片付けましたから、すぐに着ることができますよ。幸い収納場所も奥まっていませんし」


 そんなことを話しつつ買い物を進めていく。この町ではまだパーレのお金が使えるようだった。明日は忘れないように両替してもらわないとな。

 歩いていると家具の店が多いことに気づけた。アッツェンは木が豊富で、それを使った家具作りがとても盛んなのだそうだ。その影響で、アッツェンに接しているこの町も家具店が多いのだろう。

 買い物の途中でシャーレがアッツェンから入ってきた調味料を興味深そうに見ていた。


「試しに少し買ってみる? それくらいの余裕はあるぞ」

「では少しずつ買ってみようと思います」


 店員にどういった調理に使うのか聞きながら、シャーレは特に気になったものを四種類購入する。

 買ったものは、なんとなく俺の好みにあった調味料な気がする。順調に胃袋を掴まれているな。シャーレが好きなものを買ってもいいんだけどな。そう言うとちゃんと自身の好みのものも買っているようだ。

 必要分は買いそろえ、あとは自分の趣味のものなどになる。


「俺は本を探すつもりだけど、シャーレもなにか買いたいものがあれば行ってきていいぞ?」

「では下着がそろそろ替えどきなので買いたいのですが」

「りょーかい。これくらいで足りるかな?」


 自分の服などを買ったときに使ったお金から推測し、必要と思われる分を渡す。

 足りたようでシャーレは頷き、渡したお金を内ポケットに入れた。

 買い物が終わったら互いに宿に戻ることにして別れる。荷物をシャーレが全部持っていこうとしたので、それは大変だろうといくつか預かった。

 道行く人に本屋の所在を尋ねて、教えてもらったところに向かう。

 コーダーに頼まれた医療本と読んでみたい本を探す。魔法が載っている本に関してはローズリットがいるので今後本屋で積極的に探すことはないだろう。

 アッツェンのおとぎ話について書かれた本を購入し本屋から出る。医療本は店員に聞いてみたが、メモに載っているものしかなかった。

 宿に戻ると少し遅れてシャーレも帰ってくる。

 二人でボードゲームをしてのんびりしていると、一時間を少しすぎたくらいでダイオンも帰ってきた。


「おかえり。ラジィさんたちも帰ってきた?」

「うん、一緒に帰ってきたよ」

「じゃあ頼まれたものを持っていこう」


 ラジィさんたちの買い物が入った袋を持って、二人の部屋の扉をノックする。

 出てきたラジィさんに買い物袋を渡し、お金をもらう。

 少し話して、問題なく隣国に向かえると教えてもらう。ここらでは特に事件や事故がないこともわかり、治安も安定しているそうだ。残り二日の行程はこれまでと同じくトラブルなく進めそうだった。


 翌朝に両替を済ませて、国境を越えてすぐに変化がわかる。つい先ほどまでの空気と温度と湿度が違う。残暑が続いているといった感じだ。10℃とまでは言わないけど5℃以上は確実に気温が上がっている。

 すぐにシャーレが三人の夏服をタンスから取り出し、いつでも着替えられるように準備する。

 急な気温変化にマプルイが体調を壊さないように注意も必要だな。

 今日は途中の村で一泊し、翌日の昼過ぎに目的の村に到着予定ということだった。

 森の中にできた大きな道を少しだけペースを落とし、馬車は進む。今日宿泊予定の村に到着し、マプルイの様子を見てみたけど、特に調子を崩している様子はなかった。シャーレと一緒にマプルイが元気なことにほっとする。

 朝になって、朝食を食べているときからホプランがそわそわとしていた。目的地に早く着きたいというのが丸わかりの態度で、ラジィさんと一緒に俺たちも小さく笑う。シャーレにまで微笑ましそうにされたことで、ホプランは恥ずかしさからか頬を少し赤らめていた。

 俺が御者で村を出発する。少しばかり向かう先の方から嫌な感じがするのが気になる。大事ではないけど、なにかしらのトラブルでも起きているのかもしれない。大木でも倒れて道が通れなくなっているとか? 復旧が長いほどホプランが深く落ち込みそうだ。

 けれど道中特にトラブルなく進んでいく。これは目的地でなにか起きているのだろうか、そう思っていると前方に村が見えたと御者をしているシャーレが伝えてきた。


「ダイオン、村でなにか起きてるかもしれない」

「予感か?」

「うん。朝から少しだけ嫌な感じがしていたんだ。道が塞がっているのかなと思っていたんだけど、何事もなくここまで来ることができた。ということは村になにか起きていると考えた方がいいと思う」

「それはすごく嫌な感じではないんだよな?」

「そうだね」

「ちなみにローズリットのときは嫌な感じはしなかったよな」


 ダイオンが指摘してきて気づく。


「あ、たしかに。となると大きな事件が起きててもおかしくないのか」


 ローズリットのときでわかってたはずだけど、どうも感覚を自分中心に考えてしまう。


「リョウジにとっては小さなことかもしれないということが事前に知れるだけでも助かるんだけどな」


 普通はアクシデントなんて前情報なく起きるからね。

 シャーレにもなにかあるかもと伝えて、警戒してもらう。

 そして村に近づいて、なにかが起きたことがわかる。ざわついて人々が忙しそうにしていたのだ。

 馬車を村の外に留めて、ホプランが馬車を飛び出して忙しそうな村人を捕まえる。 

 ひとまず情報収集はホプランに任せて、こっちは馬車を安全に置けるところに移動させたい。

 ラジィさんがこっちに来たときに使っているという場所まで移動し、荷物を下ろす。


「ここで待っててくれるかい? 私は到着を知らせてくる」

「わかりました」


 ラジィさんが歩いていき、少しして村人が近づいてくる。狐型ニールの男だ。


「あんたたち行商人かい?」

「いえ、俺たちは行商人の手伝いですよ。荷物を運んできた人は到着を知らせに行きました」

「なんだか騒がしいんだが、なにが起きているんだ?」


 ダイオンが尋ねると男はなにが起きたのか話してくれた。


「昨夜というか夜明け前なんだけどね。北の森から魔物が襲撃してきたんだ。それで村の北東部分の家が被害を受けてね」


 嫌な感じはこれだな。村でトラブルが起きているから、少し嫌な感じがしたってところか?


「怪我人とかはいるのか? あとどういった魔物が襲いかかってきたんだ?」

「怪我人はいるよ。幸いにして死者はいない。ただ餌として連れ去られた人が何人かいるんだ」

「すでに救出には向かっているのか?」

「一応は。この村も大きいわけじゃないから、そこまで強い警備や傭兵はいなくてね。救出は無理だと判断したら撤退するだろうな」


 それは仕方ないよね。命あっての物種っていうし。村人も死んで来いとは言えないだろう。情報を持ち帰って強い傭兵に渡すことも立派な仕事だろう。


「この村では魔物への対策はしてないのか? 森に近いししてそうなんだが」

「しているよ。ただいつも来るものと違ったんだ。いつもは獣型なんだが、今回はスライムだった。スライムが襲撃してきたことは一度もなくて、いつもと勝手が違って皆油断したんだろうなぁ」

「なるほど。ちなみに数日前からスライムを見かけたとかそういった予兆はあったのか?」


 男は少し考えて首を横に振る。


「俺は知らないな。知り合いもそういったことは話してなかった」

「以前からスライムが近辺に住み着いていたわけではなさそうだな」

「ああ、スライムがいると聞いたことはない。どこか遠くから流れてきたんだろう。それで空腹から襲撃してきたか?」

「かもしれないな」


 男は村に戻るそうで、ダイオンは情報の礼を言う。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 実は最凶の魔物がスライムだったり? (最強とは限らないけど、最悪の結果をもたらす) 昔は凶悪なモンスターだったりもしたスライムが最弱のイメージに変わったのは、あのゲームが原因でしょうね。 …
[一言] むむ、スライムが人を攫うとは。 ココのスライムはある程度の知性が有るということか?
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