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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
18/224

18 新たな町

 歩きでいける範囲に村があったため、シャーレが疲れない程度のペースで歩き続けて、夜には村で宿泊し、町を目指す。

 子供の足に合わせたペースは遅かったが、急ぎの旅でもないので問題はない。ダイオンも霊熱病が解決していないときは時間の無駄をなくすように急いでいたらしいが、今は気にしなくてよくなったので、このペースを楽しんでいるということだ。

 今は森の中にできた道を歩いている。朝から森に入って、夕暮れ前には抜ける予定だ。今は昼過ぎなんで、あと二時間くらいで抜けるのかな。この森の向こうに町があるということで、そろそろ目的地に到着だ。

 森の中には魔物が多く、たまに道まで出てくるらしいが、今のところは戦闘にはなっていない。近づいてはきているらしい。でもダイオンが気づき、俺たちに教えるように指差すことで、向こうも気づかれたとわかって警戒し、そのまま去っていっているんだそうだ。よほど飢えているなら気づかれても襲ってくるらしいが、それほどでもなかったらしくおとなしく別の獲物を探しにいった。襲ってきてもここの魔物ならばダイオンが十分に対応できるということで、俺たちは緊張することもなく歩き続けている。

 町に着いたら、この森で狩りをして稼ごうかと話していると、何か大きな物音とそれに混ざって人の声が聞こえたような気がした。


「悲鳴、か?」


 ダイオンにも聞こえたようで、俺たちを見てくる。


「どうする?」

「確認に行ってみよう。困っているようなら、助けられる範囲で助けるってことで」


 ダイオンにシャーレのキャリーバッグを渡し、俺がシャーレを抱っこして走る。シャーレは申し訳なさそうだが、この方が速い。

 物音が発生している現場に近づくと、東から合流する道で馬車と人が倒れており、三人の護衛がごつい爪を持つ熊の魔物と戦っていた。護衛は劣勢なようで攻めよりも守りに回っている。熊は口から涎を垂らして、目が血走っていておそらく空腹状態のようだ。


「俺は接近戦で行こうと思う」

「じゃあ俺はここから隙を見て氷の槍を飛ばすよ。シャーレは俺のそばで待機」


 短く行動を決めて、行動を開始する。

 ダイオンが護衛たちに加勢すると声をかけながら熊の側面から斬りかかる。

 ダイオンの行動を見ながら俺は氷の槍をいつでも飛ばせるよう待機して、シャーレには周囲の警戒を頼む。あの熊以外にも魔物がいるかもしれないのだ。

 浅いながらも傷をつけてくるダイオンに標的を変えたのか熊が護衛たちを無視する。ダイオンは熊の真正面に立ち、その攻撃を冷静に避けて、攻撃していく。そうやって気をひきながら少しずつ馬車から熊を離していく。護衛たちは離れていく熊を警戒しつつ、ほっと一息入れていた。

 ダイオンは相変わらず戦い方が上手い。ただの傭兵というにはいろいろと知っていて、気を配ることもできる。詳しい生い立ちを聞いてないけど、傭兵になる前は一角の人物だったのかな。

 そんなことを考えていると十分に熊が馬車から離れて、ダイオンが大きく退いた。


「スー。氷なる槍飛べ!」


 まっすぐに飛んだ氷の槍が熊に迫る。熊は反応はできたが、避けることはできずその右肩を貫いた。だそれは致命傷にはならず、熊は倒れることなく怒りの雄たけびを上げる。ならばもう一度だ。


「スー。刺し貫け氷の刺!」


 新たに習得した魔法を使う。こちらを睨む熊に地面から何本もの氷の槍が飛び出て、その体を貫いていった。

 氷の槍が消えると熊はふらつき、肺か食道でも傷つけたのだろう。口から血を吐いて、苦しげな様子を見せる。

 そこにダイオンが剣に風をまとわせて接近し、剣の腹で胴を叩いて、熊を転ばせる。じたばたともがいていた熊はそのまま動きを緩慢にしていき、すぐに動かなくなった。

 ダイオンが警戒を解いたことで、俺とシャーレも戦闘終了と判断して気を抜いた。

 ダイオンに手招きされて近づく。


「この熊を冷やしてくれ。町に行って売ればそれなりの値段がつくはずだ」

「俺たちがもらっていいの?」

「熊にはたいしてダメージが与えられていなかった。それは向こうがまともに戦えてなかったということだ。そういった場合に助太刀に入った場合は、こっちがもらっていいんだよ」

「へー」


 じゃあ早速やってしまおうか。がっつりと熊を冷やして毛皮が白くなっていく。

 俺が魔法を使っていると、護衛の一人が近づいてきて、ダイオンに話しかける。


「助力をありがとう。あのままだと全滅もあり得た」

「どういたしましてだ。熊はこっちがもらうがいいよな?」

「ああ、かまわないよ。それで雇い主がお礼を言いたいらしい、馬車までいいかな」

「リョウジ、一緒に行くか?」

「いやいい。熊を冷やしとくよ」


 行ってくるとダイオンは護衛と一緒に馬車の方へ歩いていった。

 馬車の周辺では倒れていた者たちが介抱されていた。幸い怪我人はいても、死者はでなかったらしい。倒れたままの者も手を動かして、治療の際の質問に受け答えしている様子が見えた。

 馬車のそばに十五歳くらいの少女とメイド服の三十歳くらいの女性がいる。彼女たちと護衛がダイオンに頭を下げている。

 彼女たちからは良い感じと悪い感じがする。これは関わったらなにかしらの厄介ごとがあるけど、最終的に良いことがあるってところかな。

 ダイオンの方を見ながら魔法を使っていると熊は冷え切って、これ以上魔法を使わなくてよくなる。

 向こうの話はまだ続きそうだから、シャーレとのんびりしてよう。荷物からおやつのビスケットを取り出して、シャーレとわける。

 十分ほどでダイオンが戻ってきた。


「待たせた。熊を持って出発しようか。二人がかりなら問題なく運べるだろう」

「りょーかい」


 ダイオンが前で、俺が後ろ。二人で熊を肩に抱えて歩き出す。

 集団は馬車の修理をしてから出発するようで、俺たちを見送ってくれた。

 少しばかり時間をくったが、夕暮れ前には森を抜けて、遠目に見える町を目指す。

 そして日が暮れる前には町に到着することができた。熊を担いで、幼女メイドを連れているということで不思議そうな視線を向けられたけど、怪しまれることはなかった。

 ダイオンが警備兵に、襲われていた人たちのことを伝えると、四人の警備兵が馬に乗って森へと向かっていった。

 俺たちは町に入って、教えてもらった肉屋に熊丸ごとを渡して、お金をもらう。これ一頭で一家族が二週間くらい暮らせる稼ぎになった。強い魔物だったんだな。俺は魔法を使うだけだったから、どれくらい強いのかさっぱりだ。この稼ぎは全て生活費に入れることになった。

 自由に使えるお金にしなくていいのかとダイオンに聞いたが、これから稼ぐつもりなので、まずは生活費の心配がなくなる方がいいと返ってきた。

 肉屋の倉庫に熊を運び、そこから出て表通りに戻ろうしていると、南の方がなんだか少し騒がしい。なんだろうかとそちらを見る。二十歳くらいの可憐といった外見の女が駆けてきていて、その後ろからは「待て」といった男たちの声もしている。

 ちょうど俺たちがいる方向に来ていて、それを女も気づいたようで表情を明るくした。


「助けてくださいっ。暴漢に追われているんですっ」


 そう言ってダイオンに縋りつこうとした女を俺が蹴倒す。

 シャーレもダイオンも女も何が起こったのかという驚きの表情だった。

 女が地面に倒れて、その背中を俺が踏みつける。そして声に出さず思う。

 どうしようかこれ。女からすごい嫌な感じがして、思わず蹴倒したんだけど、どうするかまでは考えてなかった。

 俺がもがく女を踏みつけたままで、シャーレとダイオンが戸惑っている間に、追ってきているという暴漢が追いついてきた。

 女は暴漢と言ったけど、彼らからは嫌な感じがしない。

 女が俺に踏まれている光景を見て、彼らは戸惑いつつ話しかけてくる。


「その女を渡してもらいたいんだ。俺たちはこの町の警備の者だ」

「どうぞ」


 即答に向こうが驚いた。


「ありがたいんだけど、信じたのかい? 証拠なんて示してないのに」

「警備じゃなくても、これはさっさと渡したい。勘がこれは駄目な奴だって警告を発してるんで」

「いい勘をしている」


 男が二人で女を拘束し、俺は足を放す。女は先ほどまでの可憐さが嘘のように怒りの表情で俺を見ていた。逃げださないようしっかりと拘束されて、女は連れられて行った。すっごい迫力あったわ、あの怒り顔。

 その場に残った警備の男が頭を下げてくる。


「改めてありがとう。すでに述べたとおり俺たちは警備の者だ。なにか困ったことがあれば詰所に尋ねてきてほしい。力になる」

「そのときは世話になります。ところで彼女はなにをしたんです?」

「主に詐欺だ。あの見た目だろう? ころっと騙される奴が多くてね。騙された人の中には殺された人もいる。凶悪な奴だよ」

「うっわぁ。虫も殺さぬって外見だったのに」

「ああ、本当にね。演技力は抜群らしいから、演劇女優にでもなればよかったろうに」


 その道を選ぶ前に、詐欺師としての生き方を選んだのかな。

 警備の男と別れて、宿を求めて表通りに出る。

 ふうっとシャーレが息を吐き、俺を見てくる。


「いきなり蹴ったから驚きました」

「ああ、俺も彼女には騙されたからあの蹴りには驚いた」

「警備さんに言ったように、嫌な感じがしたんだ。これまで出会った人の中でも上位だよ、あの感じは」


 嫌な感じがしなければ、俺も完全に騙されて警備たちを追い返してただろうね。そうなったらこの町では犯罪者扱いだったかもしれない。


「逆に良い感じがした人はいるんですか?」

「上位はシャーレとダイオン。その次に水の大精霊かな。ラジィさんたちも良い感じだったね」

「私たちとの出会いを良いと思っているってことでいいんですか?」

「まあ、そうなるかな」


 素直に答えると二人は微笑む。

 嬉しそうだけど、良い感じはしても警戒してたってこと忘れてないよね?

 そんなアクシデントのあと、宿を三軒ほど回ってみたけど満室で、外壁そばにある宿なら空いているかもと紹介される。

 そこは空きがあったんだけど嫌な予感もする。それを二人に伝えると二人も困ったという反応を見せる。勘についてはほんの少し前に当たるところを見せた。だから信じないとは言えないようだ。かといってここ以外に宿を探して回るのも面倒なのだけど。

 一泊するだけなら大丈夫と信じて三人部屋を取り、荷物を置いて寛ぐ態勢になって、森で助けた人たちの情報を話すというので聞くことにする。


「この町の南東にあるここよりも小さな町から来たと言っていたね。そこの代官の娘で、ここの代官の息子とお見合いするために移動していたそうだよ。あの魔物の名前は豪爪熊という名前で、もっと森奥深くを縄張りにしているらしい。あの道まで出てくるのは相当に珍しいんだそうだ」

「うわあ、運が悪かったんだ」

「だといいんだけどね」

「なにか疑問でもある?」

「あの熊は興奮はしたけど、空腹といった様子ではなかったんだよ。餌目当てじゃないのに、縄張りから出てきたことがちょっと気になる。縄張りから追い出されでもしたのかな。明日役所に報告しとこうと思う」

「もっと強い魔物がいるかもしれないってことかな」

「かもしれない。あのさらに上となると騎士団派遣案件だろう」


 さらに上と言われてもいまいち想像ができないな。


「谷にいた魔獣になりかけと同じくらい?」

「さすがにそこまではいかない。あれより二段下くらいだろう。森に生息する魔物で該当しそうなのは、ダルンチーアかロッダーヴァイパーかオークの王種でも発生したか」


 教えてくれたのはいいけど、わからないんで説明してもらう。

 ダルンチーアは大きな蜘蛛の魔物だそうだ。巣を持たず縄張りを徘徊するタイプで、騎士を三十人くらい派遣して討伐するらしい。

 ロッダーヴァイパーは蛇の魔物。巨体に加えて、強力な溶解毒を持ち、専用装備で挑む必要があるらしい。もしくは強力な風の魔法使いに毒を防いでもらう。

 オークはゲームに出てくる豚の顔をもつ人型な奴で合っているみたいだ。群れを作って狩りで暮らしているようだけど、まれにリーダーの器を持つものが生まれて統率されることがあるらしい。統率されると格上の魔物でも狩ってしまうとのことだ。


「そうなると森での狩りは危険なのかな」

「はっきりとしたことがわかるまでは止めておいた方がいいだろうね」


 明日からどうしようかと話して、夕食の時間になり食堂に向かう。

 森の幸を使ったバーベキューが今日のメインで、美味いものだった。嫌な感じがしたから料理も期待できないと思っていたんだけど予想が外れた。部屋自体も清潔だったし、なにが原因で嫌な感じがしているんだろうか。

 肉を咀嚼しつつ首を傾げると、給仕が話しかけてくる。


「食事になにか問題あったかい?」

「いや、美味しいよ。どうしてそんなこと聞くんです?」

「お客さん食べながら首を傾げてましたからね。それでなにかあったかと」

「ああ、誤解させたね。考え事してて首を傾げたんだ」


 給仕と話しているとカウンター席から六十過ぎの老いた男が「わしの若い頃は本当苦労したんだぞ」と酒を飲みながら大声で言うのが聞こえてきた。

 それを見て給仕が笑う。


「爺さん酔い始めたなー」

「あの爺さん酔うと愚痴がでるのか」

「そうそう。五十年くらい前の代官は悪い奴で苦労したんだって、毎回愚痴りだす」

「へー」

「まあ、ほっといたらすぐに酔いつぶれて寝るから静かになるんだけどな」


 給仕は仕事に戻り、俺も食事に戻る。あ、シャーレ、パプリカを残すんじゃない。


「うー」


 眉を寄せてパプリカをフォークで突く。

 それを見てダイオンが笑う。


「しっかりしているようで、まだまだ子供っぽいところがあって和むな」

「たしかに安心するけど。しっかり食べないと大きくなれないぞ。ほらあーん」


 フォークでパプリカを刺して口元に持っていく。それを見てシャーレは口は閉じたままだが、迷った表情を見せる。あと一押しかな。


「半分食べてやるから」


 ナイフでパプリカを半分に切って、口に入れる。肉厚の身によく火が通っていて甘い。飲み込んでみせて、残った半分をもう一度シャーレの口へ差し出す。観念したか、小さく口を開いてパプリカを食べた。目を閉じて、急いで噛んで飲み込む。苦いと思って味わってないな、あれ。俺も小さい頃は似たようなもんだったなぁ。

 俺たちが食事を終える頃には、老人は酔って眠っていた。その老人が転げ落ちてしまわないよう、給仕が態勢を少し変えて眠りやすそうにしていた。

誤字報告ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 「14 山頂での出会い」までで購入し砂糖って如何したのでしょうか?
[一言] 綺麗で若い女性には気をつけろ、、、、。 こに回避能力は本当に羨ましい、、、、、、。
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