21話 ランタン祭り
ランタン祭り用のドレスは、既製品に手直しをしたものだけれど、自分の資金で用意した。
モカに話すと、「殿方は自分が贈ったドレスを着てもらう方が嬉しいものですよ?」と説得されたけれど、恥ずかしさを押し殺して、「グラン様の髪と瞳の色の服装にしたいの」と言うと満面の笑みで協力してくれた。
グランの髪は灰色で、瞳は青灰色だから、令嬢のドレスとしては地味になってしまう。
だからそこを工夫して、灰色のサテン地にたっぷりのレースで透かしを入れたドレスに、青灰色のカルセドニーをメインに持ってきた宝飾品で首と耳元を飾る。
ドレスは一見白いレースのものに見えるから、あまりあからさまではないし、これなら変な噂が立ってグランに迷惑をかけることもないだろう、などとアマレットは考えていた。
しかし当日のことである。グランはアマレットと全く同じことを考えていて、亜麻色のポケットチーフにはちみつ色のカフスボタンを使っていた。
これでは、「僕たち、結婚秒読みです!」と周囲に喧伝しているようなものだ。
王宮の馬車止めでは、互いに互いの装束をチラチラ見ては赤面し、そわそわモジモジと恥じらう二人組を、周囲が温かい目で見ていた。
「ア、アマレット、その今日のドレスもよく似合っている。特にその、カルセドニーだったか。俺からも同じ宝石の宝飾品を贈ってもいいか?」
「まあ、そ、それでしたら私にもそのカフスボタンと同じ琥珀の宝飾品を送らせていただきますわ」
互いに自分の瞳の色の宝飾品を贈りたがる、もはや恋人同士そのものなのだが、それにしては初々しい二人であった。
夜会に連れ立って参加した二人に、他貴族の面々が注目する。
「あれは水竜公の……」
「今まではずっと夜会に参加されなかったのに、最近はあのご令嬢と連れ立っているのですわ」
「バクラヴァの爵位を継いだという噂だが……嫁入りするのか婿入りするのか難しくないのか?」
「後見人だから問題ないのでしょう。囲い込みの手早いこと……」
ヒソヒソと囁かれる言葉は、関係を勘繰るものばかり。余計に物慣れない二人は赤くなってしまう。
一通りの挨拶を終えたら早々に退散し、予約いていたバルコニーの席へと向かう。
バルコニーにはソファーが据え置かれ、給仕が一人控えていた。
バルコニーからは王都の広場を一望することができ、夕闇の中に、気の早いものが照らしたランタンが輝いている。
「綺麗……」
「ああ、本当に綺麗だ」
アマレットはランタンの光を、グランは夕闇に照らされるアマレットに対して言った言葉だが、アマレットは対象の違いに気づかなかった。
「アマレット、俺からランタンを贈らせてくれ」
そう言ってグランが用意していたランタンは、赤かった。
それをアマレットは信じられない思いで見つめる。
「グラン様、これを本当に、私に?」
「ああ、アマレット。花嫁候補のこと、いずれはきちんとしなければと思っていたのだが、話すのが遅くなってすまない。血の呪いの危険はあるが、俺は絶対にアマレットを傷つけないと誓う。だから、俺と結婚してくれ」
「グラン様……嬉しい……」
ランタンを受け取ったアマレットの、はちみつ色の瞳が潤みながらランタンに照らされていた。
そうして、アマレットもまた用意していたランタンを差し出した。
「グラン様、これを、私から」
「アマレット、君も赤いランタンを用意してくれていたのか」
「はい、私も、私もグラン様と末長く共にありたいと思います」
例えグランがどんな困難を抱えていようとも、それはアマレットにとって支障にはならない。
行き場のないアマレットを受け入れてくれたグラン。
幸せそうな顔でアマレットの作ったお菓子を頬張り、居場所を与えてくれたグラン。
もし水竜の血がグランに牙を向くなら、アマレットはそんな時こそグランに寄り添いたいと思う。
それが愛というものだと、アマレットは知ったのだった。




