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俺が真面目だとみんなは言うけれど  作者: 虹色
第六章 失敗からも学びます。
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97 ◇ ドキドキしながら…次へ? ◇


(あれ? 電話?)


スマホの画面には……宇喜多さん?


名前を見ただけでドキドキしてきた。今日は宗屋さんと飲みに行くって言ってたのに。もう家に帰ったのかな? 時計はもうすぐ十一時。


「はい。蒼井です。」


ドキドキする胸をギュッと押さえたけれど、声が嬉しさに弾んでしまった。


『ごめんね、蒼井さん。まだ寝てなかった? 何か忙しかったりする?』

「はい、大丈夫です。テレビを見ていただけだから。」


いったいなんだろう? わざわざ電話をくれるなんて。今週は仕事に行っているから、夜に話す必要なんてないはずなのに。


『今ねえ、帰るところなんだ。』

「ああ、そうなんですか。ずいぶんごゆっくりですね。」


そして、ご機嫌みたい。きっと楽しかったんだ。


『うん。今日は元藤さんと北尾さんが一緒でね、すごく盛り上がっちゃって。』

「あ、そうだったんですか。そのメンバーだったら楽しかったのは当然ですね! いいなあ。」

『うん。蒼井さんも二十歳になったら一緒に行こうね。』

「はい!」


こんなふうに電話をくれるなんてとっても嬉しい。楽しい気分を分けてもらったみたいで。


『それでね、蒼井さん、宗屋から聞いたんだけど、』

「はい。」

『俺、白瀬さんとは何も無いからね?』

「ええっ?」


びっくりした。その話になるなんて。


『おとといの帰りに会ったんだって? そこで白瀬さんがどんな話をしたのか、宗屋に教えてもらったんだよ。それ、信じたりしてないよね?』

「あ、あの、信じるって言うか……」

『俺は白瀬さんを特別だと思ったことなんて無いからね。誓って。』


(もしかして、これを言ううために……?)


これを言うために電話をくれたの? 飲みに行ったあとにわざわざ?


『ねえ、聞いてる、蒼井さん? 俺は白瀬さんのことは何とも思ってないんだよ?』

「あ、はい。聞いてます。それに、」


たったそれだけの理由。なのに、胸が熱くなる。


「信じてはいませんでした。疑っていました。」

『疑ってた? それ、完璧には俺を信じてなかったってことだよね?』

「え? そんなこと……あるのかな?」

『あるよ。まったくもう、ひどいな。』


怒られているのに嬉しい。こんなことで宇喜多さんが怒っていることが。


『いい? 俺のことをほかの誰かから聞いても信じないで。俺は蒼井さんに対して誠実に向き合っているんだよ。だから、俺のことは蒼井さん自身が見て、判断して。わかった?』

「わかりましたけど……。」


宇喜多さん、よっぽど不愉快だったんだ。こんなにきっぱり言うなんて。でも。


「なんだかその言い方、結婚詐欺のひとみたいです。」

『え?』

「さっき、テレビでやっていました。何人もの女のひとから何億ドルも騙し取った結婚詐欺師。すごいんですよ、自分がいかに誠実かってことを女のひとに信じ込ませて。」

『蒼井さん……、そんなテレビは見ちゃダメだよ。』

「でも、勉強になりますよ? 自分が騙されないために。」


あれれ。黙ってしまった? 冗談のつもりだったけど、宇喜多さん、真面目だからなあ……。


『蒼井さん。』

「はい?」

『蒼井さんは俺だけを信じていればいいんだよ。俺以外は誰も信じなくていい。簡単でしょ?』

「え? ぷふっ」


(もしかして。)


宇喜多さん、酔っ払ってるのかも。楽しかったって言ってたし、たくさん飲んだのかも。


「わかりました。宇喜多さんのことは信じます。」

『そう。それで、俺以外は信じない。わかった?』


やっぱり酔っ払ってる。だって、話が極端すぎるもの。


「それは無理です。それでは仕事ができません。」

『仕事はいいことにする。それ以外で。』


まるで駄々をこねているみたい。面白い。


「宗屋さんは?」


たとえ冗談でも、宗屋さんを信じないなんて言うのはイヤ。


『まあ……、宗屋はいいよ。』

「はい。」

『でも、頼るのは俺が一番。』

「ふふっ、はい。」


前にも「相談窓口は俺一本に」と言ってくれた。あのときから変わらずにそう思ってくれてるのかな……。


(わたし、幸せ者だなあ……。)


『あとね、蒼井さん、占いできる?』

「え? 占い…ですか?」


なんだろう、唐突に。


「子どものころはやってみたこともあるけど、今は特に……。」

『あのね、占ってほしいんだけど。』

「ええと、宇喜多さんを、ですか?」

『そう。』

「ああ……、じゃあ、ネットの占いとかで……。」

『べつに詳しくなくていいんだよね。なんかほら、その辺に書いてあったりするよね?』

「雑誌とか……?」


それは「占う」とは言わない気がする。


『そうそう。その日の運勢とか、簡単なやつ。急がないから。』

「その日の……?」


朝のニュースとかで流れてるような占いでいい……ってこと? それ、わたしが見る必要があるのかな?


『あのね、誕生日は九月十六日。血液型はA型。わかった?』

「あ。」


(九月十六日。)


教えてくれた。こんなにあっけなく。


「え、ええと、九月十六日、A型、ですね? はい、わかりました。ええと、じゃあ……。」

『そのうち教えてくれればいいよ。よろしくね。』

「はい。」


やっぱり白瀬さんは特別じゃなかったんだ。宇喜多さんはお誕生日なんてどうでもいいんだ。……占いもどうでもいい、みたいな気がするけど。


「あ、あの、お誕生日、もうすぐなんですね。」


ああ、またドキドキしてきた。でも、このチャンスにプレゼントをあげてもいいか訊かなくちゃ。


『ん? ああ、そう言えばそうだね。まだ一か月近くあるけど。』

「あの、お祝いに何か」

『あ、そう? ホントに?』

「え、ええ。」


反応が素早かった気がする。喜んでくれてる証拠?


『水曜日なんだ。じゃあ、予定空けておくね。』


(え?)


プレゼントを……って思ったんだけど……。


『蒼井さんから誘ってくれるなんて嬉しいなあ。あ、でも、おごってもらうのは悪いから、ちゃんと割り勘にしよう? 一緒に食事してくれるだけで十分嬉しいから。』

「え、え、え……。」


わたしが誘ったことになっちゃった……?


『あ、良かったらお店も俺が探すよ。大丈夫、あんまり高い店にはしないから心配しないで。』

「あの、でも、それだと」

『どんな店がいいだろうね? 嬉しいなあ。誕生日に女の子と二人で食事するなんて初めてだよ。』

「そう、ですか。わたしもですけど……はい。」


(女の子と二人で……って言われてしまった……。)


宗屋さんを誘うつもりはないんだ。わたしと二人で行くつもりなんだ。


(いいの……?)


今までも、二人でファミレスに行ったことはある。もうすぐお弁当を持って遊びにも行く。だけどお誕生日は……。


「あの、本当に良いんでしょうか……?」

『え、何が?』

「お誕生日なのにわたしなんかと二人で……。」

『それはどういう意味?』


尋ねられてハッとした。


『遠慮はしない約束だよ? それは、蒼井さんが行きたくないってこと?』


ゆっくり、穏やかに尋ねる声。落ち着いて考えなさいと言うように。


「いえ、あの……。」


(行きたいよ。)


行きたいに決まってる。宴会のあとに送ってもらうだけじゃなくて、ゆっくりといろんなことを話して。


「あの、わたし……。」


(行きたい。でも、行ったらわたしの気持ちが。)


宇喜多さんからますます離れられなくなる。叶わない恋なのに、どんどん強くなってしまう。だけど……。


(わかってるんだから、いいじゃない。)


悲しいのはわたしだけだ。宇喜多さんは喜んでくれる。それに、一緒にいられる時間はわたしも嬉しくて幸せだ。それなら。


(そうだよ。)


「わたしでよろしければご一緒します。」


(言っちゃった……。)


もう前を向くしかない気がする。ふたりの関係は進まなくても、わたしは自分の気持ちに忠実に進むだけ。


『ホントに? ああ、良かった! 嬉しいよ、ありがとう。どんなお店がいい?』

「うーん……、よくわかりません。お手軽なお店しか行ったことがないから……。」

『じゃあさ、洋食? 和食? 中華? どれがいい?』

「あはは、宇喜多さんのお誕生日だから、宇喜多さんの好きなものにしないと。」

『そう? じゃあ、ちょっと調べてみようかな。』


(こんなに楽しそうに。)


宇喜多さんが喜んでくれることが嬉しい。


白瀬さんとは何も無いからって、わたしを好きなわけじゃない。それはちゃんとわかってる。白瀬さんの話を否定するために電話をくれたのだって、きっと、わたしからどこかに……例えば葵先輩に、話が伝わると困るからだ。


ちゃんとわかっているのだから……、お友だちとして楽しく過ごすのは悪いことじゃない、よね?







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