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幼馴染に嫌われたと勘違いして不登校になりかけたけど、実は両想いだった件  作者: 桜 偉村


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第15話 応えたい

 私が二回目を受け入れたことで、自信をつけたのだろう。

 それからも、(れい)は時々そういうことをお願いしてくるようになった。


 澪がむっつりなことなんて、前から知ってるもの——。

 あれはただの照れ隠しだったけど、存外間違ってはいなかったみたいだ。


 その日——(ゆう)先輩と神崎(かんざき)君の初デートの日も、澪はなんだかソワソワしていた。


「澪?」


 ジト目を向けてみせると、わかりやすく目を逸らした。


「今、変なことを考えていたでしょ」

「……うん、ごめん」


 案の定だった。わかりやすいのだ、私の彼氏は。


「まったく……その、おうちデートではあるかもしれないけど、今日の目的は勉強よ?」


 表情が緩むのを堪え、なじるように言う。

 けど、そういう反応をしてくれること自体は、全然嫌じゃなかった。


 むしろ、少しだけではあるけど、テンションが上がってしまう。

 だから、最近勉強を頑張ってる理由を聞かれたときも、照れながらも正直な思いを口にできた。


「……澪が言ったんでしょ。同じ大学行きたいって」

「っ……!」


 澪は息を詰めた。——次の瞬間には、抱きすくめられていた。


「ちょ、ちょっと澪……っ」


 驚いてはみたものの、拒む気持ちは一切なくて。

 唇が触れた瞬間、思わず目を閉じてしまう。


「ん、ふ……」


 何度も、何度も。

 その度に、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。


(……って、ダメよ。勉強しないと……っ)


 声を上げようとした、そのとき。


「ご、ごめん! また俺……っ」


 澪が、急に身を引いた。

 視線の先には、机の上に開かれたままの参考書。


(あっ……)


 私が言った「目的」が、ちゃんと澪の中に残ってたんだ。


「はぁ……まったくもう」


 小さく溜め息をつくけれど、胸の中は愛おしさでいっぱいだ。

 縮こまる澪に、微笑みかける。


「そんなに怯えなくていいわよ。今のは私にも原因があると思うから、特別に許してあげるわ。……こういうのも、嫌ってわけじゃないし」


 嫌どころか、もっと抱きしめてほしいと思った。

 だから、勉強に戻ろうとしてくれている澪に、囁きかけた。


「澪、そんな状態で集中できるの?」

「っ……!」


 澪の顔が、一瞬で真っ赤になった。


「ふふっ、変なとこばっかり素直なんだから。……それで、どうするの?」

「でも……いいのか?」


 伏し目がちに問いかけながらも、澪の目にはうっすらと期待の色が滲んでいて、その状態も実にわかりやすいものだった。

 まだまだヘタレだけれど、彼もしっかり男の子なのだ。


(それなのに、私の気持ちを優先してくれて……)


 そんなずるいところを見せられたら、こっちだって何かしてあげたくなってしまう。


「今回は特別よ。勉強に集中してもらいたいし……途中で手を出されても困るもの」

「そ、そんなことしねえよ」

「どうかしらね? 澪は時々、抑えが効かなくなるみたいだから」

「うっ……」


 ふふ、言ってやった。

 ついさっきの出来事なのだから、反論できるはずがない。


 さすがに家族で過ごすことの多いリビングでやろうとは思えなくて、澪を自室に連れて行った。


「痛かったら言いなさいよ」


 何度目だろうか。まだまだ恥ずかしいけど、澪の表情を見てリズムを変えられるくらいには慣れてきた。

 ——それなのに。


「その……く、口とか、だめかなって」

「っ……!」


 一瞬、思考が真っ白になった。

 顔が一気に熱を持ち、視線を逸らしてしまう。


「あくまで、勉強のためなのだけれど?」

「あっ、ごめん。そうだよな……」


 恥ずかしくて遠回しに拒否してしまったけど、シュンとする澪を見ていると、心が揺さぶられた。

 私だって、澪との関係を進めたい。


(それに、そもそも我慢させちゃってるし……)


 一度、断られているのだ。本番ではないとはいえ、澪から言い出すのは、相当な勇気が必要だったはず。

 そんなの、応えたくなるに決まってる。


「……今日このあと、みっちり教えてくれるなら」

「えっ? ほ、本当にいいのか?」

「別に、私はしなくてもいいけど?」


 乗り気だと思われたくなくて、かわいくない言い方をしてしまったけど、


「いや、お願いするよ。……ありがとな」


 澪は嬉しそうに表情をほころばせた。


(なんでそんな純粋な顔できるのよ……)


 思わず笑ってしまいそうになるけど、これからやることを考えると、途端に鼓動が早くなる。

 上手くできるか不安だけど、どこか浮き足立っている自分もいて。


「変に気を散らされても面倒ってだけよ」


 澪というより、己に言い聞かせるようにそう言って、私はそっと重心を落としていった。




◇ ◇ ◇




「じゃ、また明日」

「えぇ」


 澪がサッと手を振り、背を向ける。

 玄関の扉が閉まったあと、私はリビングの壁にもたれかかって、大きく息を吐いた。


(……はぁ)


 いろいろありすぎて、頭も体もぽーっとしてる。

 でも、そのわりに口元は緩んだままだった。


(ほんと、男の子って……しょうがないわね)


 思い出すのは、別れ際に私が「明日から、ああいうのは禁止よ」と言ったときの、澪のガーンという効果音に相応しい顔。

 自分を納得させようとはしていたけど、明らかにショックを受けていた。


「全部終わって、時間が余ったら、考えてあげてもいいけど」


 そう付け足したら、今度はパッと顔を明るくして……。


(単純すぎるんだから)


 呆れたふうに息を吐くけど、単純なのは私も同じだ。

 やることをちゃんとやれば、また触れ合える——。

 それがモチベーションになっているのは、澪だけじゃないのだから。


「……そんなの、頑張れるに決まってるじゃない」


 そうつぶやいて、顔を両手で覆う。


(あぁ、もう……なんなのよ、ほんと)


 最初は断ろうとしたけど、結局いつもと同じように、澪からの「お返し」を受け入れてしまった。

 断れたことなんて、これまで一回もない。


「でも、仕方ないじゃない」


 そもそも、こちらもそういう気分になっていなければ、奉仕なんてするはずがないのだから。

 だから、澪が自分も口ですると言い出したときだって、押し切られてしまった。


(口でしたのも、されるのも……初めてだったのに)


 恥ずかしい、怖い、でも嬉しい。そんな気持ちがごちゃまぜになって、ずっとドキドキしっぱなしだった。

 でも、澪は——すごく丁寧で、優しくて、ちゃんと気遣ってくれて。


 だから、最後まで怖くならずにいられたし、今だってこうして、ふわふわした気持ちになってしまってる。


(私、変な顔してなかったわよね……)


「……って、ダメよ。復習しないと」


 気持ちを切り替えるように、勢いよく立ち上がる。

 冷たい水で顔を洗い、勉強机に戻った。


(ちゃんと、やらなきゃ)


 これまでずっと、勉強を面倒くさがっていたのは、そんなことより澪と話していたかったからだ。

 でも——。


『そりゃ、どうせなら同じ大学行きたいだろ』


 その一言が、ずっと胸に残っている。

 私にとっては、目の前の恋だったのに。澪はもう、未来のことまでちゃんと考えてた。


 ——このままじゃ、置いていかれる。

 そう思うと、怖くなった。


 大学生になったら、一人暮らしだって選択肢に入る。

 もしかしたら、実家のことも考えずに、最難関に挑戦するかもしれない。


 そのとき、「私も行く」って笑って言えるように——。


(……浮かれてる場合じゃない)


 机の上にノートを広げた。

 ところどころに書き込まれた澪の字を見ると、やる気が湧いてくる。


 澪はできたらちゃんと褒めてくれるし、どこが間違ってたかも優しく教えてくれる。

 そういうのが地味に、だけどすごく励みになっていた。


 ……もちろん、そんなことは絶対に澪には言わないけど。


 机から、写真立てを取り出す。

 そこに入っているのは、ピクニックに行ったときの密着して撮ったツーショット。


「絶対、一緒のところに行くんだから」


 写真に向かってそう口に出すと、いくらでも頑張れた。

 ——そんなことも、絶対に澪には言えないけど。

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