『勇者』夫妻の行方は分からない。
「ネノフィラーとレオニードの居場所が分からない! あいつら、何処にいるんだ?」
「テディ、突然大きな声をあげないでくれ」
俺の言葉にドゥラが呆れたように言う。
俺が大きな声を上げたからか、控えていた侍女と執事にも驚かれた。
俺がこういう言葉をあげているのには、理由がある。それはネノフィラーとレオニードの行方が分からないからである。あれだけ強い二人の身に何かがあるとは思えない。ならば、何処にいるのか?
普通宿をやるのならば、人が多い場所でやるものだろう。ただしあの二人に関しては普通の常識が通じない。
ならば誰もいない所で宿をやっているのだろうか。
……まぁ、そのうちあの二人なら噂になるだろう。なるよな? ならなかったら、もう二度と友人に会えないってことになって俺は嫌だ。
「ジュデオンとボリスもネノフィラーに会いたがっているんだがな」
「二人ともネノフィラー様の事を慕ってるからな。テディの言葉を聞いても実際に見ないと信じられないって言ってたから」
「それはそうだな。レオニードの強さは見てみないと分からないだろう。あれだけの男が誰にも知られることなく村にいたなんて信じられないが」
普通、あれだけの力があればもっと外に知られるものである。だけれどもレオニードは、今まで村の外に出ることなどほぼなく、その力は知られてなかった。そもそもネノフィラーも、『勇者』になるまでは知られてなかったわけだが。
そう考えると、俺より強い奴など世の中には沢山いるのかもしれない。俺は『魔王』討伐にも参加していて、強さでいえば強い方だと思う。それでも俺より強い奴はいるっていうのを、ネノフィラーとレオニードは体現していた。
「姉上も俺だけレオニードと会ったのをうらやましいと言われたしな。本当に皆ネノフィラーのことを好いているから」
ネノフィラーは、『勇者』であり、英雄である。そしてあの性格や見た目も相まって人気者である。ネノフィラーに会いたいと皆思っているのだ。
俺とドゥラだけがネノフィラーに会っていたから、うらやましがられているのだ。
「それはそうだろう。レオニードさんはこの国に来たら人気になりそうだよな」
「そうだな。あのネノフィラーの夫だし、それにレオニードはどんな相手が前でもあの調子だろう。平民としてわきまえてはいるけれど、引かない部分は引かないだろうし」
レオニードは、平民としてわきまえていてネノフィラーのように誰にでも同じようなため口な対応はしない。だけどネノフィラーを奪う相手がいれば躊躇いはしないだろう。
というか、ネノフィラーを敵に回せばレオニードも敵になるだろうし、レオニードを敵に回せばネノフィラーが敵に回るだろう。そう考えると俺は個人としても国としても彼らを敵に回すべきではない。
敵に回ったら確実に大変なことになるだろうから。
「それはそうだろう。ところで、テディは結婚相手はどうする気だ?」
「なんだよ、急に!」
「いや、ネノフィラー様と結婚するならそれはそれで相応しいと思っていたけれど、ネノフィラー様にはレオニードさんがいるから」
「……とはいっても、俺に相応しい奴と結婚したいからな」
「そんな選り好みしていたら一生独身かもしないぞ」
「……それはドゥラもだろう!」
「最悪、親が決めた相手と結婚するさ」
俺は自分が決めた相手と、自分の意思で結婚したいと思っているが、ドゥラは親が決めた相手でもいいかと思っているらしい。まぁ、俺も周りに決めてもらっていいと割り切るなら楽なんだろうけれど……。
「俺は出来れば俺に相応しい相手を探して結婚したい!」
「じゃあ嫁探しも進めよう。それでちゃんと陛下たちが納得する相手が見つけられるといいな」
俺も王族なので、周りに反対されすぎる相手とはそういう仲になる気はない。少しぐらいの反対なら説得しようとするけれど……。流石に国を揺るがすような事態にはしたくないし。
「あれだなぁ。ネノフィラーと友人になるような相手ならきっといい子だと思う!」
「それはそうだろうけれど、ネノフィラー様はレオニードさん以外どうでもよさそうじゃないか?」
そんな風に言われて、それはその通りだと思った。
ネノフィラーはあまり周りに対する関心がない。だからこそネノフィラーにとっての友人と呼べる存在は少ないだろう。でもそういう相手だからこそいいのではと思う。
ネノフィラーに友人が出来たら教えてくれるように言っておこうか? いや、ネノフィラーはわざわざ連絡してこないだろう。言うならレオニードにか。
そうやってネノフィラーとレオニード、それにメルにも会いたくなった。
「ドゥラ。ネノフィラーたちが見つかったらすぐに報告してくれ。すぐに向かう!」
「いや、王族が簡単に出かけようとするな。ネノフィラー様達が何処にいるか分かったら報告はするけれど、ちゃんと根回ししてからにしてくれよ」
「わかってるよ!」
前に根回しせずに向かって滅茶苦茶姉上に怒られたからな! 同じことはしないぞ!
それにしても本当になるべくはやくネノフィラーたちに会いたいなぁ。
どこにいるんだろうか。




