フェニックス ①
「じゃあ行こう」
「ああ」
「フェニックスって美味しいのかな?」
ネノの言葉に俺とメルが答える。
というか、食べちゃダメだろう。何を美味しいんだろうかと気にしているんだろうか。
バーナンドさんたちに聞こえていないようで良かった。
「メル、間違ってもバーナンドさんたちに聞こえるようにそれは言うなよ?」
「分かってるよー。でもフェニックスってうまれ変わるんだよね? だったら前の――」
「いや、駄目だって」
「レオ様がそういうなら食べないけど……。でも今度美味しいもの食べたいなぁ」
相変わらず食べたいといった言葉を口にするメル。魔物であるメルなので、美味しい魔物を食べたいというのは当然だろうし。でもとりあえず、メルのことは止めないと。俺たちが止めたら食べないだろうけれど。
メルは食欲旺盛なドラゴンだから、今度珍しいものを食べさせてみようかなどとも考えた。
俺も珍しいものを幾らでも食べたいとはおもうから、色んな所で色んなものを食べていきたいな。
「フェニックス、見るの初めて」
「『勇者』として旅をしていた時も見なかったのか?」
「うん」
俺とネノは、ずっと一緒に過ごしてきた。
ネノが見てきたものは、ほとんど俺が見てきたものだ。だけれども、『勇者』に選ばれて、『勇者』としてネノが旅をしていた時に見てきたものは俺には分からない。
『勇者』として『魔王』を倒す旅に出ていたネノ。その間にネノは村で過ごしていた俺よりも魔物を沢山見ていただろう。ネノはそこまで自分のことを語らない方なので、こういうタイミングでちょくちょく聞かないと実際にどうだったかは分からなものだ。
ちなみに今、バーナンドさんたちの案内の元、フェニックスの巣へと向かっている。
結構な山の上である。
すたすたと歩いていくバーナンドさんたちについていきながら、俺たちは会話を交わす。
「結構上の方」
「そうだな。思ったよりも上だ。この山に店を置いてから探索していないエリアにフェニックスがいるなんて思わなかったな」
「この山の事、全部知れたら楽しそうだよね!」
この山に宿を置いてから、俺たちは山の探索を行っている。ある程度、宿を置いている場所の近くは大体把握しているけれど、山も広いから中々全部を把握する事は難しい。
そう考えるとこの山の中で生きて、この山の事を誰よりも把握しているバーナンドさんたちは凄いと思う。
バーナンドさんたちのような少数で街から離れた場所で過ごしている人も世の中にはきっと多くいるだろう。そういう人たちはそれぞれの文化を持っていて、それぞれの考え方を持っている。そういう人たちの考え方を知っていけたらきっと楽しいだろう。
旅の事をまとめた本とかもこの世界では発表されているし、将来的にそういう本を出してみても楽しいのかもしれない。
徐々にフェニックスの巣へとのぼっていくにつれて、熱気が溢れてくる。
火山口が近くにあるのだろう。フェニックスは、火の鳥と呼ばれるものだから、そういう熱い場所に生息しているのだろう。
しばらく歩いていると、何かの鳴き声が聞こえてきた。聞いていて不快な気持ちにはならない、不思議な何かの声。
「これが……フェニックスの声です」
「これがフェニックスの?」
バーナンドさんたちの言葉にネノが小さく目を輝かせた。
他の人には分からない程度の、嬉しそうな表情だ。ネノは、その鳴き声に興奮しているのだろう。やっぱり俺のお嫁さんは、いつでも可愛い。
「誰かが近づいてきている気配に警戒しているのでしょう」
「バーナンドさんたちも、警戒されてる?」
「いえ、フェニックスは頭の良い神様です。俺たちのことはありがたいことに仲間として認識してくれてます。今回は、俺たち以外の気配――『勇者』様たちがいるので警戒の声を上げたのだと思います」
バーナンドさんはそう言ったかと思えば、首からかけていた小さな笛を吹いた。
その笛の音色が聞こえたのか、フェニックスもまた鳴き声をあげた。
「何で笛を吹いたの?」
「俺たちの先祖は、この笛でフェニックスと意志疎通をする術を生み出したのです。そして俺たちはそれを代々引き継いでいます」
魔物と人の関係は、地域やその人にとって異なる。俺とネノがメルと親しくして契約した関係もあれば、バーナンドさんたちのように魔物を神と崇める関係もある。
魔物に人を殺されたような人は、魔物は全て殺してしまう必要があると行動を起こしていたりもする。
こういうバーナンドさんたちと、フェニックスの関係は不思議で面白いものだ。
「笛でやり取りかぁ。フェニックスってその辺の魔物と違って頭いいんだね」
メルもそんなことをいって関心していた。
「此処です」
そうしてそんな会話を交わしている間に、フェニックスの巣へとたどり着いた。
火山口近くに巣が組まれていた。
――大きな卵と、真っ赤な鳥。
それがそこにいた。




