これからのことと旅立ち 3
今日はついに、港町から旅立つ日である。
《空間魔法》で宿ごと持ち運びができ、特に荷造りなどといった準備をしなくて良いというのもあり、昨日まで宿も開店していた。
最終日の今日は何をするかと言えば、旅立ちの前に折角なので広場で料理を振る舞うことにした。元々この街の人々が、俺たちが旅立ちをするからとお別れのパーティーのようなものをやりたいと言ってくれたのだ。
旅立つ俺達で料理を振る舞うことになったのは、この街には良くしてもらっていたのでお礼も込めて振る舞いたいと思ったからだ。
周りからは旅立つ俺達に作らせるなんて……と言う人も多かったけれど、料理を振る舞いたいという俺にネノもメルも同意してくれたので料理を振る舞う。
外で立食しながら食べるというのもあり、食べやすい串焼きをふるまっている。基本的にこのあたりで採れた魚介類がメインだが、お肉もある。あとは味付けとして色んなソースを使っているのだ。甘辛いものや、ハーブの香りがするものなど、色んな調味料である。これらは宿のレストランで出している料理に使っているものも多い。あとは街で興味本位で買ったこの街独特のものだったり。そういうものを使ったりした串焼き。
「美味しい」
「こっちのタレの方が僕好きかも」
「私はこっち!!」
港街の外からも人が来ていて、一緒にこの場で混ざっていたりする。《空間魔法》で大量に保管していた材料を放出しているので、材料がなくなるということもない。
冒険者ギルドのギルドマスターがそのことを知って、「どれだけ入るんだ」と愕然としていた。特に冒険者だと《空間魔法》の使い手に会ったことがそれなりにあるみたいで、余計に驚いていた。俺が《空間魔法》の使い手であることや、宿をそのまま持ち運べたりすることは知っていても、それでもやっぱり収納量に驚いているようだ。
その様子を見て、「私のレオ、凄い」とネノがにこやかに笑っていて、俺を自慢するようにはにかむネノは本当に可愛かった。俺の嫁は本当に可愛い。
ネノもメルも多くの人たちにパーティーに参加してもらえて楽しいようだ。中にはただ騒ぎたいだけで此処に集まっている人もいるけれど、何だか小さな祭りみたいで、俺も楽しい。
「メル君がいなくなるなんて寂しい……。うちの子にならない?」
「ならないよ!! 酔ってるの? 酒くさいよ!!」
メルは昼間から酒を飲んでいる女性に絡まれていた。その後、そんな発言をしていた女性は友人らしい人達に引き取られていた。あとは子供達に寂しいとひっつかれたりして、メルはちょっとだけ困った表情だった。
俺やネノの元にも沢山の人たちが来た。
俺達が居なくなることが寂しくなるというもの、美味しい料理が食べらなくなるのが残念だとか、そんな風に言いながら皆が別れを惜しんでくれる。
『勇者』として旅をしていたネノはともかく、俺は村を出て初めての長期滞在した街が此処で良かったと思う。この場所で宿を開店したからこそ得られたものや、得られた経験があったと思う。
ネノが『勇者』だからというのもあるけれど、この港街の人々とは随分仲良くなれて、絆を結ぶことも出来た。またこの街にもう一度訪れたいと、そう思える場所がこの街だ。
そう思えることが一種の奇跡で、良いことだと思える。
「レオ、また此処来よう」
「うん」
ネノも俺と同じように思っているのだろう。
俺は小さく笑うネノに向かって、頷きを返す。
そして、楽しい時間はあっという間に終わる。
昼前から開催された俺たちのお別れパーティーは、終わりの時間を迎える。……終わりの時間というか、俺達が旅立つと決めた時間が来たというべきか。俺達が去った後も街の人々はそのままどんちゃん騒ぎする予定らしい。
こういう事にかこつけて、お酒を昼間から飲むのが楽しいといって飲みまくろうとしている酒好き性質も多くいるし、今日はそういうこの街にとって特別な日として認識されているらしい。
夜まで残ることも選択出来たが、俺達は元々旅立とうと決めていた時間に街を出ることにした。その直前に店や家といった必要なものを《空間魔法》でしまうのを見て、周りは盛り上がっていた。
「じゃあさようなら」
「ん。また来るから」
「バイバーイ!!」
俺、ネノ、メルがそれぞれお別れの言葉を口にする。
それに対し、「またね」「また来てね」「さようなら」「元気でな!!」などと多くの人々の声が帰ってくるのだった。
そして俺とネノとメルは歩き出す。
「この街、楽しかった」
「ああ。楽しかったな。店も開店出来たし」
「楽しかった!!」
「でもきっと火山も楽しいぞ」
「うん。楽しみ」
「美味しいものあるかなー」
俺達は次の目的地に対する思いをはせる。
――きっと、この先も可愛い嫁と共に楽しい事が待っているだろう。それを思うと、俺は楽しみでならなかった。
第二章 開店と港街の暮らし 完




