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港街の日常 3

 その日、俺はネノと共に港街から少し離れた森の中にいる。今は、昼食の時間が終わって、夕食までの時間帯に、二人で森に向かうことにしたのである。何故、森にやってきたかと言えば、ただ単に「森に行こうか」とネノが気分で言ったからである。

 メルに宿は任せて、森に顔を出したわけだ。

 緑に囲まれた場所――というのはなんとも落ち着くものである。俺とネノの生まれ育った村というのは、いまいる街とは、くらべものにならないぐらいの田舎だった。

 村にいるものたちは皆顔見知りで、自然豊かな場所。

 目を閉じて、自然の香りを感じるとネノと過ごしていた生まれ育った村の事が思い出された。

「レオ、なんだか落ち着くね」

「ああ」

 二人で草むらの上に座り込んで、空を見上げると気分が良くなる。まぁ、ネノがいればどんな場所に居ようとも俺は楽しいわけだけど。

 ネノがいればどこにいようとも幸せになれる。

「レオ、港町も楽しい。レオとメルと一緒に、宿をやるのも楽しい。わいわいするのも、楽しい」

「ああ。色んな人に話しかけられて、村とはなんか違う感覚だよな」

「うん。村だと、知っている方しかいない。でも港町は、多くの人が行き来する。だから、知らない人とも沢山出会える」

「沢山の人と出会えるのも楽しいよな」

「うん。今までそういう出会いなかった。私は、レオがいれば満足。レオがいれば幸せ。でもこうして宿をやるの、楽しい」

 ネノは俺の隣で小さく笑って、俺の方を見る。

 ネノは周りから見ると、表情が分かりにくいとよく言われている。クールなところがかっこいいとか、そんな風な噂があったりする。それでもやっぱり俺の前にいるネノは、やっぱり俺にとっては可愛い一人の女の子なのだ。

 村とは違う日々。

 新たな出会いが沢山ある――そんな街での暮らし。

 そんな暮らしは俺やネノには良い刺激になっている。今までと違う暮らしは色んな刺激があって、色んな楽しみがあって楽しい。

 だけれども時々こうして二人きりで、のんびり過ごす時間がきっとネノも欲しくなったのだと思う。

 まるで俺達しかこの場にいないような、そんな感覚に陥るような穏やかで、静かな時間。

「でも、こういう時間も好き」

「ああ。俺も。ネノとならどんな時間も好きだけど、ネノとのんびりするのもいい」

「ふふ、だよね」

「ああ」

 二人でそんな会話をしながら笑いあう。

 本当にこれだけでも幸せな気持ちになる。ネノが笑っている。ネノがただそこにいるというだけで俺も笑みを溢してしまう。


 さて、そんな風にのんびりと過ごしていたが、近寄ってくる気配がして俺達は立ち上がる。




「なんか多くないか?」

「うん。多い」

 俺とネノの感じた気配は、魔物の気配である。その魔物の気配が思ったよりも多くて、俺とネノは少しだけ驚く。

 何故ならこの森は港街からも近い森だ。そんな場所でこれだけの魔物が集まってきているというのはちょっとした問題である。

「倒すか」

「うん。運動する」

 ネノは軽い調子で運動するなどという。ネノにとってみれば、いま、近づいてきている大勢の魔物たちなんて塵芥でしかない。

 ネノという少女はそれだけ強大な力を持つ少女だ。

「ああ。ちょっと暴れるか」

「私、レオと思いっきり暴れるのも好き」

「俺も」

「レオの戦い方、かっこいい」

「ネノの戦い方もな」

 そういう会話をしながら俺達は魔物のいる方向へと向かっていった。

 その場所へと向かっていくと、大勢の魔物がそこに溢れていた。数は数十匹にものぼるだろうか。50は超えている。

 狼型のもの、鳥型のもの、猿型のもの――などといったそういう何種類もの魔物が溢れている。

「ネノ、右側。俺左やる」

「了解」

 そんな言葉と共に、俺達は行動を返しした。

「《勇者の剣》」

 ネノの言葉と共に出現するのは、一振りの長剣。女神から与えられた『勇者』としての力を持つ、特別な剣。それは『勇者』であるネノの意思に応じて、自由自在に出現する。すべてをも切り裂く聖なる剣。

 その剣を手に持つネノは美しくて、かっこいいなぁと見惚れそうになる。

 俺は『勇者』として行動したネノと一緒に旅をしていたわけではないから、こうして《勇者の剣》を使うネノを見ると何だか心が躍る。俺もネノに負けないように、ネノの横にいて当然だと示すためにも――とそんな気持ちで俺も《空間魔法》を使って収納している魔法を飛び出させたり、あとは剣を使って魔物を叩き切っていった。

 《空間魔法》は便利だけど、それだけを磨いていたらネノにおいていかれてしまう。

「終わった」

「うん。お疲れ」

 《勇者の剣》を使って魔物を殲滅したネノ、《空間魔法》と剣を使って魔物を倒した俺。二人で動き回って、魔物を倒しつくした。

「宿の料理の材料にするか」

「うん」

「あと街で報告もするか?」

「うん。それがいい。何か原因あって、魔物集まったはず」

 おそらく魔物が何十匹も集まっていたのは何かしらの理由があるはずである。港街に近い場所でそれだけ魔物が集まっているというのは問題なので、街に戻ってから報告することにした。



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