祭り 4
「メル、帰るぞ。子供なのに、何を酒を飲んでいるんだ」
『うー? レオ様、帰るってー? 僕もっと、バシャバシャしたいぃい』
帰るぞと口にしたが、メルはもっと水遊びをしたいと口にして実際にバシャバシャと水の中を動く。それと同時に、海水が飛んでくる。メルは俺と水遊びをしているつもりらしく、俺に向かって海水をかけようとしているのだ。
巨体のドラゴンの水遊びというだけでも、普通の人にとっては死活問題である。俺に向かって飛んできている海水の量はそれはもう多い。俺はその飛んできた海水を全部《時空魔法》でしまった。
それにしても酒に酔っていないメルならば、俺が帰るぞと言ったらすぐに水からあがるだろうに今日のメルは聞き訳が悪い。というか、酔いやすいタイプだったのだなぁ……とちょっと驚く。
俺もネノもお酒は成人してからそれなりに飲んではいるが、こんな風に酔わないしな。
「メル。遊びたいなら遊んでやる」
このままドラゴンの姿のまま、宿まで連れて帰るのも大変なので思いっきり疲れさせて人型に変化させようと考えた。
さて、そのようにしてもこんなに街に近い位置でそういうことをやるわけにはいかない。酒に酔っているメルがどんなふうに街に被害を与えるか分からないしな。
そんなわけでまずは魔力を使った力業でメルの巨体を浮かせて、陸地から離れた場所まで移動させる。俺も魔力で足場を作っていき、そちらへと飛び移っていく。
『あれえええ、水は?』
空中でバタバタで体を動かしているメルは、水がないことにご不満なようだ。酔いをさまさせるためにも、俺はそのままメルを浮かしていた魔力を消して、メルを落下させる。
『ん?』
急に浮遊感に襲われたらしいメルは、不思議そうな顔をする。平常時のメルであるならば、このまま翼を広げて飛び上がるだろうが、今のメルは酔っぱらいである。そのままバッシャーンと大きな音を立てて海へと落下した。
『しょっぱい!!』
海水を大量に口に含んでしまったらしいメルが苦しそうな声をあげる。メルは甘い物が好きだし、海水のしょっぱさはお気に召さなかったんだろう。
だけど、結構な酒を飲んだのか、それともメルがよっぽど酔いやすい体質なのか、まだ酔っ払ったままのようだ。
「メル、遊ぶぞ」
『んー? 遊び?』
不思議そうなメルに向かって、《時空魔法》でしまっていた魔法を解放する。それは自分の魔法やネノの魔法が多い。俺は《時空魔法》以外はネノほど簡単には使えないので、時間をかけて練り上げた魔法をいつでも使えるように《時空魔法》で収納しているのだ。
収納していた魔法を次々とメルに向かって、解放していけば、メルははっとなったように反応を示す。
メルは何だかんだいって上位種のドラゴンなので、このくらいの魔法では死ぬことはない。
『まほー!! よけるー』
自らの危機を感じ取ったメルは舌ったらずな言葉でそう言って、体を素早く動かしてさけていく。メルはなんというか、巨体でも素早くて、その素早さにはびっくりする。まぁ、俺もメルを疲れさせることが目的で本気で狙いにいっているわけでもないからというのもあるだろうけど、よくもまぁ酔った状態で器用にこれだけ避けれるものだと思う。
こんなことに魔法のストックを使うとは思わなかったけれど、仕方がない。そう割り切って、どんどん魔法を解放していけば、流石のメルも動きが鈍くなってくる。
あと少しずつ正気に戻ってきたのか、『あれ、何これっ』って声をあげていた。そろそろ声をかければ、大丈夫だろうかとそのタイミングでメルに声をかける。
「メル、酔いはさめたか?」
『へ? 酔い? あれ、僕、何してるの??』
「酒を飲んで酔って、海にいた。とりあえず人型になれ。連れて帰るから」
『そうなのぉ?』
と口にしながら、酒に酔い、海で暴れ、疲れたのかすっかり眠たそうなメルである。
俺の声をちゃんと理解したのか、メルは次の瞬間人型になる。って、このまま海で人型のまま寝たらメルは溺死する気がする。慌てて、メルを引き上げて、メルを抱えて、宿へと戻ることにした。
海の上で色々やらかしていたのもあり、海岸には沢山の見物人たちが集まっていた。寧ろ事情を知らない人には催しのように思われているようだ。拍手をされても、ただメルを連れて帰ろうとしただけなのだが……。というか、海の上で魔法を打ち合う催しは別の日なのだが……。とりあえずさっさとネノの元へ戻ろうと、俺は素早く宿に向かうのであった。
宿に戻れば、ネノがメルがすやすやと眠って俺に抱えられてきたことに驚いていた。事情を説明すれば、「メルに、お酒駄目。覚えた」と口にしていた。
目が覚めたら何で酒を飲んでしまったのか、メルに話を聞かないと……。




