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王子と騎士 4

 テディとドゥラさんはこの『レアノシア』に泊ることになった。というのも、一泊だけして宿を後にした宿泊客が運よくいたからである。

 テディは俺とネノのやっている宿に泊まれることに対して、それはもう嬉しそうな顔をしていた。キラキラした目をして、それはもう子供のようにはしゃいでいた。

 テディって本当に王族なのかって疑うぐらい顔に出ている。ドゥラさんに聞いたら第二王子だからこそこれが許されているようだ。

 もし第一王子でこの国を継ぐ立場だったら徹底的に教育を施されたであろうって言っていた。やはり王族だと大変なのだろう。テディがこれだけ自由に過ごせるのは『勇者』と共に旅をした実績があるのと、第二王子だからであろう。

「おいしいな」

 朝からテディは朝食を頬張って満足気な様子をしていた。ここまで美味しそうな顔をされると嬉しい気持ちになる。

 やっぱり俺は自分の料理で、食べた人が満足してくれることが嬉しいのだ。

「レオニード様はテディに勝てるだけの強さを持ち合わせていて、なおかつこれだけ美味しいものを作れるなんてすばらしいですね」

「私の、レオは凄いでしょ?」

「はい。凄い方ですね。今まで噂にもならなかったのが不思議です」

「私も、『勇者』にならなきゃレオと一緒だった」

 一心にご飯を食べているテディの隣に座っているドゥラさんが、接客をしているネノと話している。朝食の、宿泊客しかいない時間帯だからこそこうしてゆっくりできるのだ。

 昼食や夕食は宿泊客以外にもいるからこんなにゆっくりはできないし。まぁ、開店してすぐだから混んでるだけな可能性もあるからそのうち落ち着くかもしれないけど。

 ネノの言葉を聞きながらそうだよなーと思う。ネノが『勇者』に選ばれることがなければ、俺とネノは一緒に村の外に飛び出して、一緒に噂になっていくはずだったんだよな。ネノが『勇者』に選ばれなかったら――今と違った形になっていただろうか? 少なくとも無名なところからのスタートになっただろうから店をやるにしてもこんなに盛況にはならなかっただろう。でも、もしそうだったとしても俺とネノがやることなんて今と変わらないだろうけど。

「うまいな!! レオニードよ、もっとくれ!! レオニードのお勧めをくれ」

「まだ、食べるのか?」

「ああ!! うまいからな!!」

 テディは見た目はどこからどうみても王子様って感じで、黙っていれば気品あふれる雰囲気なのだが、しゃべるとなんだかイメージが崩れる。でもそういう所もテディらしいと思う。

「テディは昔から結構食べるんです。そして太らないから女性陣にはうらやましがられてる」

「ああ……セレゴーヌ姫もうらやましいって言ってた。私も太らない体質だから……いいなって、言ってた」

「……セレゴーヌ姫は、その、気を抜くとすぐに体に出るのでな」

「そうなの?」

「そうです。幼いころのセレゴーヌ姫は、一時期甘やかされてお菓子ばかり食べていたので……、ふくよかでした」

「へぇ……」

 セレゴーヌ姫……、ネノと仲良くしてくれているのもあるし、一度ぐらいあってみたいなとは思う。とはいえ、王女様なんてものにほいほい会えるわけはないけど。……王子のテディがホイホイこちらにやってきているから王族ってすぐ会えるのかなどと勘違いしそうになるけど、そういうことはありえないし。

 それにしてもセレゴーヌ姫って、美姫だって噂だけど、昔はそうだったのか。努力して綺麗になったんだろうし、そういう人間は好感が持てる。

 テディが朝から沢山食べたがっていたのでどんどん出した。何品か出したら満足したようで、「うまかった」とテディは笑った。




 昼食までの間もテディは俺たちと話したいらしく、食堂の椅子に座っていた。なんだろう、テディは俺やネノと話すのが楽しいようだ。

 ドゥラさんは「食堂の掃除手伝いましょうか?」と言ってくれたりしたが、お客にそんな風にしてもらうのはと遠慮してもらった。

 宿の仕事を進めながらしゃべりかけてくるテディに返事をする。時々適当に返事をしたりしていたが、テディはそれでも楽しそうだった。

 ドゥラさんがこそっと言っていたが、王子であり、なおかつ『魔王』討伐に行けるだけの強さを持っているテディは対等な人がそんなにいないらしい。それもあって自分よりも強い女性だったネノに花嫁になれと言っていたっぽい。……自分と対等になれる女性なら誰でもいいのだろうか。テディって恋とかしたことがないのかもしれない。

「それでだな――」

「すまん、テディ。もうすぐ昼食の時間が始まるから食事を取るならここにいてもいいが、そうじゃないなら部屋に戻るか、外に出るかしてもらっていいか? 客入れるから」

 いつまでも話を続けるテディにそう言えば、テディは「食べるぞ」と口にするのだった。



 

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