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魔女の娘と共に街を歩く ⑬

 そこは生活感の溢れる部屋である。

 真っ白な壁に、絵や時計が掛けられている。そして大きなベッドは愛らしい花柄の掛布団がたたんでおいてある。

 小さな小物も幾つか見られ、茶色の机がある。

「……失礼します」

 明らかに個人的な場所なので、ネノはそう口にしてから引き出しなどを開け始める。

 死んだ人の部屋を見て回るのってちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。何か見つけたら真っ先にレモニーフィアに見せるようにしよう。魔女だって、娘に見せるために残したものがるかもしれないし。

「魔女って、思ったより可愛いものとか好きだったのかな?」

「かもな」

 シンプルな部屋に一見すると見えるけれど、そうじゃないというのが分かる。引き出しの中に愛らしい小物が入っていたり……女性らしい一面というか、俺が想像していた魔女とあんまり一致しない部分はある。

 あとは子供が書いた落書きのようなものが大事に取ってあったり……。これってもしかしてレモニーフィアが描いたものだったりするんだろうか? 俺とネノにはまだ子供が居ないから実際に子供からこういう贈り物をされた時どんな感情を抱くかというのは分からない。でもきっと、魔女は嬉しかったんだろうなってただそう思う。

 魔女は人とは違うファンタズーアスという種族でもそうやって子供を大切にする気持ちはきっと変わらないのだろう。

 ……あくまで魔女は、という主語はつくだろうけれど。

 ファンタズーアスという種族のことを俺は詳しく知っているわけではないし、他の同種族はもっと子供のことを大切にしない人もいるのかも。

「こういうの、大切にしているの。いいね」

「うん、なんかいいよな。俺もネノとの子供が出来たらこういう思い出の品が沢山増えるんだろうなぁ」

 子供が出来るか出来ないかというのは、自分の意思でどうにか出来るわけではない。だから俺達が幾ら望んでいても子供がいないまま一生を終える可能性だってある。まぁ、その時はその時だとは思っている。

 貴族とか商会とか、跡取りが重要な家だとそういうので面倒なことを言い出す周りが居るらしい。そういう話は俺も聞いたことがある。俺達は平民だし、そういう問題はない。そもそも周りに何か言われたとしてもどうにでもすればいいし。誰も居ない場所でゆっくり過ごすのもありだし。

 でもネノとの子供欲しいなぁとは思うけれど。

「ん。レオとの子供欲しい。レモニーフィア見てたら、余計にそう思う」

 そんなこというネノに、可愛いなと毎回ときめく。

 長い間ずっと一緒にいるのにネノという女の子に俺は飽きる気配が全くない。付き合いが長ければ、まんねり化しないかとか、他の子を見たりしないのかとかそういうことを村でも言われたことはあるけれど全く持ってそんなことはないんだよな。

 逆にネノがそういう風に俺に飽きたらどうしようかとそのことだけはたまに心配にはなるけれど。そんなことにならないように出来る限りのことはするつもりだ。

 もし子供が出来たら、俺はネノに対して今よりも過保護にはなるんだろうなと思う。それに子供に対してもそうだろう。なんかもう、想像しただけで楽しいな。

 子供の頃のネノも凄く可愛くて、俺はあの頃のネノを思い出してもついつい顔がにやけそうになる。

「レオ、変な顔、してる」

 そうしていればネノにそんなことを言われる。

「ネノの子供時代思い出したら可愛かったなって、にやけそうになって」

「そうなの? 私も、子供の頃のレオ、可愛いって思う。でもレオのこと好きになるまで、ちゃんと見てなかった。今考えるともったいない」

 俺の言葉を聞いて、ネノはそんなことを口にする。

 最初は俺が追いかけてばかりだった。ただ俺がネノのことを好きで、ネノは俺のことなんて見てなくて。

 だからこそ幼い頃の記憶をちゃんと覚えていないことにネノ自身は色々と思う所があるらしい。残念そうなネノを見て思わず笑ってしまった。

「俺にとってツンツンしていたというか、俺に興味がなかった頃のネノも可愛かったけどな。それにネノが覚えてなくても俺が全部覚えているから」

「そっか」

「うん、そう」

 そんな会話を交わしながら俺とネノは魔女の部屋内を相変わらず見て回っている。そこまで広くない部屋だけれども物は多い。

 色々探していると、棚の一つに違和感のある個所を見つけた。

「ネノ、ここって」

「隠し場所?」

 良く見ると棚の壁が一つ取れるようになっていた。小さな見えない空間をあえて作っていたらしい。魔法を使わずにこんな空間を作っているなんて……余計に分かりにくい。

 魔女だとやっぱり魔法を使ってそうって勝手にそういう先入観持ちそうだし。

「手紙?」

 そしてそこには、一通の手紙が入っていた。

 封筒に入ったそれをその場で開けることは当然しない。というか、明らかにこれはレモニーフィア宛の物だと思うので、一旦彼女の元へ俺達は向かうことにした。



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