魔女の娘と共に街を歩く ①
「わぁ……」
レモニーフィアと出会ってから数日後、心構えが出来たという彼女を俺達は街へと連れ出した。
本来の姿ではなく、全く別の色彩の、大人の女性へと変化させている。変幻自在すぎて、本当に驚く。
数日の間、俺とネノで料理を作って食べさせた結果、すっかり食べることに関する関心は増しているようだ。
街でも食べることを楽しみだと、そんな風に言っていた。
さて、街へと戻ってくると魔女に関する噂はより一層過激化していた。
魔女はもう居ない。
それは娘であるレモニーフィアの証言からして確かである。それなのにもう存在しない魔女に悪いことを何もかも押し付けているのってなんだかなぁって気分になる。
初めて街にやってきて目を輝かせていたレモニーフィアは、事前に聞いていたとはいえ自分の母親のことをそんな風に言われて少し落ち込んだ顔をしている。
「レモニーフィア、あいつら、僕がぶっ飛ばそうか?」
「え」
「自分の母親をそう言われるなんて本当嫌だよね。僕ももし母様がそんな風に言われたら全員ぶちのめしたくなるもん」
なんだかメルが暴走しそうだったので、腕を掴んで止める。自分の母親が同じような噂をされたらと考えて、勝手に憤慨しているらしい。
「レオ様、なんで止めるのー?」
「まずはどうしてこういう噂が流れているかの原因を探るべきだろう。メルが怒る気持ちも分かるけれど……、逆にこの街でメルが暴れたら悪い風に利用されることもあるだろ?」
魔女の噂がこれだけ蔓延している状況で、魔女関連の騒動が起きたら面倒なことになる未来しか見えない。そもそも魔女を悪い存在という位置づけにしようとしているっぽいし、悪用される気がする。
「……そっか。じゃあ、今は我慢する」
「そうした方がいい。レモニーフィア、魔女の噂酷そうだから、一旦街を見て回るのやめるか?」
俺がそう声をかけると、レモニーフィアは一瞬考えるようなそぶりをした。
正直言って、少し森の方に言っている間に益々魔女の噂が酷いものになっているとは思っていなかった。初めての街がこういう状況だとレモニーフィアは大変だろうな。
このまま街を見て回るのをやめてもいいかと思ったのだけど、レモニーフィアは首を振った。
そして決意したような目をこちらに向ける。
「確かにお母さんのことをこんな風に言われているのはショックです。悪い噂が出回っているのは聞いていたけれど、こんな感じなんだなって。それに私はこんなに多くの人達が居る場所に来たのは初めてだから、ちょっと怖いなとも思います。……だけど」
少し不安そうにそう言った後、そのままレモニーフィアは続ける。
「私はそれでも折角来た初めての街だから、ちゃんと見て回りたいです。お母さんに対してそういう噂が出回るのはきっと何かしらの理由があるはずだから……、私はそれはどうにかしたいなと思います。私にとっては大好きで、優しいお母さんだった。そのお母さんが亡くなってしまってから、悪い風に言われるのは許せないです。とはいってもすぐにはどうにもできないと思うので、今は楽しもうと思います」
レモニーフィアは初対面の印象だと、弱々しく見えた。実際に親を亡くしたばかりの子供だから、仕方ないとは思う。
でもやっぱり魔女と呼ばれた女性の娘だけあって、精神的に強いのかもしれない。守られるだけの存在という感じではなく、ちゃんと自立しようとしている感はある。
「なら、いっぱい楽しむ。レモニーフィア、食べること以外も、やったことないでしょ? だからそれも楽しむ」
ネノは小さく笑って、そう告げる。
俺も生まれ育った村でずっと過ごしていて、旅を始めてから新しい経験が沢山だけれど、レモニーフィアはそれ以上に限られた行動しかしてこなかったから余計に全てが珍しいのだろうとは思った。
「他の楽しいこと……どんなことがあります?」
「なんでも、出来る。買い物とか。お金、持ってる?」
「……一応、お母さんが残してくれたものを持ってきました。でも使ったことはないです。単位とかは分かるけれど」
買い物の一つも本当にしたことがない様子で、レモニーフィアは少し不安そうだ。
「じゃあ、買い物してみよう。何、買いたい?」
ネノがそう口にすると、レモニーフィアは悩んだ様子を見せる。
なんだか初めてのおつかいかなんかを見守っているようなそういう気分になる。大人の女性の姿に変化しているから、なんだかちぐはぐな印象があって思わず笑ってしまった。
「……逆に街って何が買えます? お母さんは、服とか買ってきていた気がしますけど」
「何がって、この位の規模の街だと本当に何でも買える」
「なんでも……全然ぴんと来ない」
「じゃあ、色々見て回る」
レモニーフィアは初めての買い物と言われてもぴんときてないようだ。
そんなレモニーフィアをネノは色んな所に連れて行こうと思ったらしく、率先して歩き出す。俺達はその後ろをついていくのだった。




