街での宿経営と、ダンジョンの話 ①
「ダンジョン内の異変? 僕が潜って何か見つけたらレオ様とネノ様に報告しようか?」
パーティーの翌日、領主から聞いた話をメルにすると楽しそうにそんなことを言った。多分、メルはただ暴れたいだけであろう。ダンジョンの中でならば思う存分暴れても問題がないから。
元々メルはこうやって一緒に旅立つ前から、結構体を動かして好き勝手していたからな。俺たちと一緒にいるために人の姿に変化して大人しくしているが、たまに思いっきり体を動かしたくなるのだろう。
「じゃあ、そうして。でも行くならちゃんと調べもする」
「分かってるよー。僕は確かに暴れたいなって思ってダンジョンに行くことを申し出てはいるけどさー。でも、僕だってちゃんとネノ様が心配しないように調べ物もちゃんと出来るよ!」
「そう、なら頑張って。任せる」
「うん!」
メルはネノから任せると言われたことが嬉しくて仕方がないのか、にっこりと笑って頷く。
「メルならダンジョンをぶらついても基本的に問題はないと思うが、ダンジョン内で異変が起こっている状況だから本当に危険な時はすぐに離脱するようにな」
「レオ様は心配症だなぁ。僕、強いから大丈夫だよ!」
「メルが強いことは知っているけれど、絶対はないだろ? だから異変を感じたらちゃんと逃げろよ」
「はーい! 大丈夫だと思うけど、そうするね!!」
自分は強いから大丈夫などと言っていたメルであるが、俺が再度言うと素直に頷いていた。
そんな会話をした当日、お昼時の忙しい時間帯を終えた後にさっそくメルはダンジョンへと向かっていった。夕食時の食堂を開いている時間までには戻ってくると言っていた。
街で宿を開いてまだ間もなくのため、食事客も宿泊客もそれはもう数が多い。だから一人一人とゆっくりと会話を交わす時間もない。これだけ繁盛しているのは喜ばしいことだけど、常にそれだと大変だ。なので、もうしばらく街で開いたらまたダンジョン内で宿をする方向に変更する予定である。
街で宿を開いていると面倒な連中もそれなりにいるしなぁ。
「レオ、今日も忙しかった」
「そうだな。これだけ連日盛況なのは良いことだな」
「うん」
「ネノと話したそうにしている客も多かったな」
「うん。でも忙しい時、無理。これだけ混んでいると流石に対応、無理」
「そうだよなぁ。でもなんかこの街って、ネノのことを特別視している人たち多いからしばらくは客多そうだけど」
近隣の街からもこの宿の噂を聞いてやってきている客もいるし、連日満席である。《時空魔法》で保存はしてあるので、食材はまだまだ足りるけれど少なくなってきているものは補充しないとな。
「ん。でも次行く場所、もう少し落ち着いたところで宿やる」
「そうだなぁ。こういう大きい街だと面倒なこと多いよな」
「そう。忙しいのもいいこと。でもレオとゆっくりするのも、好き」
「俺も。そういえば、領主様たちが早速今日から吟遊詩人たちの取り締まりとか強化しているらしい」
「行動遅い。もっと早くすればよかったのに」
「まぁな。でも対策をしてくれているのは良いことだと思う」
「うん。私とレオ、仲良し。それを違うっていう人たち嫌」
「そういう決めつけしている連中って、結局ネノの言葉全然聞いていないってことだしな」
「そう。私のこと慕ってるとか言って、そうじゃない」
本当に慕っているならその言葉を否定したりしないと、ネノは言いたいのだと思う。
きっと『勇者』としてネノが過ごしていた時からそうやって決めつける人たちって多かったのだろうなと思う。
歴代の『勇者』は性別でいうと男が多かった。ネノのような少女の場合もあっただろうけれど、ここ最近では男ばかりだったはずだ。ネノのように可愛らしい少女が『勇者』であるということで周りは騒ぎ立てていただろうし、注目しただろう。
生まれ育った村だと田舎過ぎてそういう噂は中々流れてこなかったけれど、都会であればあるほど『勇者』であるネノは話のタネだったはずである。この街がそれだけ人の出入りが激しく、住んでいる人たちの数も多い栄えた街だからこそこういう状況なんだろうなと思う。
……王都とかにも後々行けたらとは思うけれど、王都行ったらさらに似たような感じになるのか?
「なぁ、ネノ。この街でこの状況だったら王都とかいったらもっと騒ぎかな」
「かも。王都、私の顔知っている人ばかり」
「『魔王』討伐に行く際にパレードみたいな感じだったんだっけ」
「なんか式典みたいなのさせられた。王都で宿やるなら、もっと混むかも」
「その時はもっと考えないとな。予約の仕組みとか」
「ん。それがいいかも」
今いる街の規模でこれだけ混んでいるのだから王都に行く際はもっと考えなければならないだろうとそんな風に思う。とりあえずこの街の後は、ネノの希望通りにもう少しゆったりできるところに行くとして――その後だな、考えなければならないのは。
そんな風にネノと会話を交わしながら、洗い物をしたり、食堂の掃除をしたりを進めた。




