初めての貴族のパーティー ⑥
王族なんかが参加するパーティーだと、参加する人数ももっと多いんだとか。あと料理などに関しても今、目の前に並んでいるものよりも豪華なものになるらしい。
正直、今参加しているパーティーでも凄いものだと思ってならないので、そういう規模のパーティーというのは想像がつかない。
「『勇者』様、こちらは私の息子ですわ。良かったら仲良くしてくださいませ」
それにしても夫である俺が隣にいる状況で、そのようなことを言ってくる夫人に関しては理解が出来ない。
ネノが大人しくしているから、そういう言い草をしても問題ないとでも勘違いしたのかもしれない。
「なんで?」
「な、なんでとは? 私の息子は美男子でしょう? 『勇者』様のことも――」
「不愉快。すぐ去って。私、浮気しない。好きなの、レオだけ」
「『勇者』であるのならば伴侶は幾らでも――」
「私の言葉、聞いてない? 目の前から消えて」
『勇者』であるのならば、伴侶を幾らでも持ってもいい。……確かに『勇者』なら伴侶を複数人持っていても特に周りから文句を言われたりはしないだろうけれど。
でもネノはそういう伴侶を沢山欲しいと思っているようなタイプじゃないしなぁ。
ネノが怒って、その夫人と男性が去った後、言葉に詰まっている人たちに関しては同じようなことでも言おうとしていたのだろうか? 吟遊詩人たちが広めている噂もあって、俺の立場に成り代われると思っている人でもいるのかもしれない。そんなことはあり得ないけど。
「『勇者』の旦那様は、本当に『勇者』様に愛されているのですね。羨ましい限りですわ」
「ん。私、レオ、大好き」
他の人に向けても全く躊躇せずに、俺のことを大好きなんていうネノが可愛い。
ネノは素直な性格をしていて、こうしてまっすぐに気持ちを伝えてくるタイプなのだ。
ネノの言葉を聞いた一部の夫人や令嬢たちは朗らかな表情でにこにこしている。他人の恋愛話が好きなのかもしれない。こういうのは平民だけじゃなくて貴族たちも共通なんだなと思った。
「『勇者』様は、旦那様といつ出会われたのですか?」
「子供の頃」
「まぁ、その時からの仲なのですか?」
「そう、昔からの仲」
「それは良いですね。テディ殿下たちではなく、旦那様の傍を選ぶということはそれだけ魅力的ということでしょう」
「ん。レオは最高。一番、かっこいい」
「まぁ……! 本当に旦那様のことが大好きでたまらないのですね。良い事ですわ」
一人の夫人はそう言って微笑んでいる。ネノはその言葉に、少し嬉しそうにしている。
その夫人が自分の家庭の話を、「私の旦那様は、素晴らしい事業を成功させているのです」とそれだけ語っていた。貴族は本音をあまり語らないものなのかもしれないけれど、それだけしか口にしていないのを見るに夫婦仲が良いというわけではないのかもしれない。
王族や貴族は誰かと結婚したいという気持ちで結婚するのではなく、色んな事情で政略結婚をする人が多いのだ。そういう結婚でも上手くいっている貴族もいるだろうけれど、上手くいってない貴族もいるのだろう。
ネノは俺の話を誰かにするのが好きだ。
普段は口数が少な目なのに、何処か楽しそうで、その様子を見ているだけで俺も表情が緩む。
ネノと貴族たちの会話を邪魔しないようになるべく黙っている状況だけど、話しかけられたら返事はしている。
そうやってネノが参加者たちと話す時間が終われば、ダンスの時間に突入する。
会場内に流れるのは、聞いたことのないおごそかな雰囲気の音楽。領主が呼んだであろう楽団たちが奏でるそれは、素晴らしいものである。平民と貴族の間で広まっている音楽に違いがあるのか、俺はその音楽を特に知らない。
「レオ、踊ろう」
「ああ」
俺は貴族のパーティーでのダンスは分からないけれど、ネノが適当に音楽に合わせて体を動かせばいいと前にいっていたのでそうすることにする。
ダンスは分からないけれど、俺は体を動かすのは得意な方だから。
周りで優雅に踊っている参加者たちをちらりと見る。見よう見まねで真似でもしてみるかと、ネノの手を取って踊り出す。ダンスなんてしたことはないけれど、まぁ、音楽に合わせてネノと体を動かすだけである。
打ち合わせなんて何もしていないので、途中でネノにぶつかってしまったり、ネノが俺の足を踏んでしまったりなどの小さなアクシデントはあったけれどネノも運動神経は良いので怪我とかはなかった。
くるくる、くるくると踊る。
視界の端でメルが一人で飛び跳ねたりいて、楽しそうにしているのが映る。
貴族たちから誘われたりしたようだが、それをはねのけてメルは一人で踊っているらしい。いっぱいご飯を食べて満足しているのが楽し気にしている。……それは良いのだけど、飛び跳ねる時に机にぶつかりそうになったりしていたのでそのあたりは気を付けて欲しいなと思った。
俺はネノとだけずっと踊っていた。
他の参加者たちに誘われる暇がないぐらいにずっとネノの手だけ取っていたのだった。




