初めての貴族のパーティー ④
「これだけの食材を格納しているとは……凄いな」
少し取り出しただけなのに、そんな風に関心される。
俺は《時空魔法》で大量に様々なものを保管しているので、本当に一部なのだが。こうやって驚かれると俺がネノに追いていかれたくないって魔法の練習をひたすらしていたのって成果として出ているんだなと思う。
幾ら《時空魔法》の才能があったとしても、極めなければこんな風に自由自在には使えなかったしな。
それにしても《時空魔法》は珍しい属性ではあるから、周りの俺を見る目も変わった気がする。
中には何か企むような視線を向けている人もいて、そういう人は俺を利用しようとか考えているのかもしれない。
「『勇者』の旦那様はこれだけの魔法の技術があるのならば、王宮に仕えることも出来そうだが……。そういう道は選ばないのかね?」
領主のその言葉は、ある意味俺を試すためのものなのだと思う。
『勇者』であるネノの夫であるということは、これだけ周りからは注目を浴びるのだ。
「今の所は全く考えてないですね」
「移動式の宿をやっていると聞いているが、それは何らかの意図があるのかい? お金を稼ぐだけなら、幾らでも方法はあるだろう。君が《アイテムボックス》をこちらに卸してくれるのならば安定した収入は与えられるが」
「俺とネノは元々旅をしようと言っていたんです。ネノが『勇者』に選ばれなかったらもっと早くに今と同じ行動をしていたはずなので」
聞かれたことに対してそう答えれば、驚いた顔をされる。
なんというか、嫁が『勇者』に選ばれたら普通は目標設定も変わるものなのだろうか? ネノはネノで、『勇者』に選ばれたことはネノの一部でしかないのだから、それで俺たちの未来予想図が大幅に変わることはないのだが。
最終的に世界を見て回った後に満足をしたら一か所に留まるかもしれないけれど。うん、老後にのんびりネノと過ごすのはありだと思う。
まだ先のことだけどそうやって想像すると楽しい。
貴族たちにとって一番大事なものは、国内で成り上がっていくことだろうか? そういう考え方をしているからこそ疑問なのだろう。あとはそういう甘い提案に惑わされる人を多く見てきたのかもしれない。
「そうか……」
少し残念そうな顔をしているのを見るに、実際に俺の《時空魔法》を見て配下に欲しいとでも思われたのかもしれない。強制するつもりはないことに関しては、安心するけど。
無理やり仕えさせようとか、そういう方向に持ってこられると面倒だからな。
俺が領主と会話を交わしている間、ネノとメルは料理を持ってきて食べている。そんなネノとメルに女性二人組が近づいている。何の会話をしているか分からないが、表情を見た限りネノは今の所不快な思いはしていないようだ。
「君も『勇者』様も稀有な才能を持ち合わせているというのに不思議だ。二人が生まれ育った村ではそのような才能を持つものが当たり前だったのか?」
「いえ、流石にそれはないですよ。俺は《時空魔法》が人より得意なだけですし、ネノは昔から凄かったですけど」
「なるほど。そういうあり方だからこそ『勇者』様は君のことを好きなのかもしれないな」
そのようなことを言われる。
今の所、領主は俺のことを試してはいるけれど悪意があるわけではなさそうに見える。
それならばあの吟遊詩人たちの陽動はどこが主導で行っているものだろうか? そのあたりも軽く聞いておこうと思って話を振ってみる。
「領主様、俺とネノのことを悪い風に謡っている吟遊詩人をリュアジーンで見かけたのですが、そのあたりは何か知っていますか?」
「……心当たりはある。そういう動きを牽引している貴族がいることは間違いない」
「なるほど。それなら領主様の方からそのあたりの誤解を解くための行動はしてもらえますか?」
「それは対応しよう」
「是非、そうしてください。今はまだ我慢出来ていますが、ネノだってあまりにもやりすぎると本当に怒ると思うので。領主様たちもネノを怒らせたいわけではないですよね?」
「それは当然だ。……『勇者』様がお怒りになることは全く想像が出来ないが」
「ネノも人間なので、怒るときは怒ると思います」
ネノは感情の動きは小さく、感情的になることはない。だから機械的で、何事にも怒りを見せないと思っている人もそれなりにいるのかなという印象。
それにしてもそういう牽引している人たちはネノがそういう状況のことを全く想像していないのだろうか。
「『勇者』様がお怒りになられ、その力を振る舞われれば大変なことになる……」
「怒ったとしてもその対象以外にはネノは何もしないと思いますよ」
俺の言葉にネノが怒った時のことを想像したのか、顔を青ざめさせている領主にそう告げる。
「レオ、領主とばかり話すの駄目。私も構う」
領主と会話を交わしていると、いつの間にか隣に戻ってきていたネノがそう言いながら俺の服の裾を引っ張っていた。
領主とばかり喋っていたことに対して拗ねていたらしい。可愛い。




