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『勇者』だと知られてからのこと ⑦

 宿が開店してすぐにやってきた客は、想像通り冒険者だった。

 というか、流石にダンジョンの中での宿だと冒険者がメインになるのは当然だ。

 宿の開店の告知はしていたのだが、やってきた冒険者たちは驚いていた。いかに『勇者』であるといえども、ダンジョンの中で宿をやるなんて彼らからしてみれば信じられないことだからであろう。本当にこんなところで宿をやっているなんてと驚いた顔は面白かった。メルが「変な顔しすぎだよね!!」と笑っていた。

「お客さん、来てくれて嬉しい」

「そうだな。まだ客足は少ないけど、来てくれるだけで嬉しいよな」

 開店したばかりというのもあり、まだ宿泊者は少ない。でも少しでも来てくれるのは助かることである。

 冒険者というのもあって、やっぱり『勇者』であるネノのことを気にしていた。

 男女の二人組のパーティーでどうやら恋人同士らしい。恋人同士で冒険者やっているっていうのもいいよなぁと思う。

 女性の方は「『勇者』様の宿ならば安心して過ごせるので嬉しいです」と言っていた。女性の冒険者だと、襲われそうになったりと色々とあるらしい。そういう自衛をきちんとしていないと危ないようだ。

 ネノは『勇者』として旅をしている間、そこまで危険なことはなかったらしいが……それはネノが『勇者』だったからというのもあるだろう。そういう肩書がない状態で女性が冒険者をやるのは危険なことなのだ。

「『勇者』様!! 私に稽古をつけて欲しいです。女性の身でご活躍されている『勇者』様のことを尊敬しているのです」

「メルと戦って。勝てるなら相手する」

 ネノがその女性にそう言えば、すぐにそれを受け入れていた。

 メルの見た目は愛らしい少年なので、メルと戦うように言うと様々な反応を示すものだ。けれどすぐに受け入れているのは、メルの噂を聞いていたからだろうか。メルに勝つと気合を入れているが……普通の人なら無理だろうなとは思っている。よっぽど高位の冒険者だとメル相手に戦えるかもしれないけれど。

 それにしても冒険者たちにとってやっぱり『勇者』という者は特別なのだなと思う。

 一生懸命、ネノに話しかけようとしているから。それでいて俺にはあまり話しかけてこないので、ネノは面白くなさそうにしていた。

「レオ、凄いのに」

 不満そうにそういうネノを見て、思わず笑ってしまう。ネノは本当に可愛い。

「レオのこと侮らないで欲しい。でもレオの良さを知られすぎるのも嫌」

「それだけネノが凄いってことだから、俺は誇らしいけど」

「でもレオも凄い。レオの凄さ知ったら皆目が変わる。ダンジョンで宿が出来ているのもレオの力が大きいのに」

「皆、宿を此処に持ってきたのネノの力だって思ってそうだからなぁ。大体驚かれるし」

「私だけだったら、こんな風に移動しながら宿するの難しい。レオが居るから出来る」

 俺とネノ。どちらかが居なければこうやって色んな場所で宿をするのってやらなかったのかもしれない。そもそもネノのことを好きにならなければ俺は自分のスキルを磨くことになったのだ。ネノが居なかったら今の俺は此処にいないだろう。

 俺とネノの視界の先で、メルが冒険者たちの相手をしている。メルは容赦なく、それでいて殺さないように手加減しながら冒険者と戦っている。

 メルが居てくれるのも結構助かっている。メルがこうやって冒険者の相手をしてくれていれば、ネノがゆっくり過ごせるから。

「メルも一緒だと冒険者の相手してもらえるから助かるよな。俺とネノと、メルがいて。だからこそこの宿があるんだなって思う」

「ん。私もそう思う」

「それにしても全然終わらないな」

「うん。結構粘ってる。メルは手加減はしてるけど、力の差は歴然。でも諦める気なさそう」

 メルから何度吹っ飛ばされても、諦める気がなさそうである。

 メルに勝てないからと諦めるではなく、メルに一発食らわせるためにはどうしたらいいか試行錯誤しているらしい。対魔物用の道具とか使ってメルをひるませようとしたり、色々やっているようである。

 俺たちはダンジョンに潜る際、とりあえず襲ってきた魔物をただ倒していくという感じだけれど、一般的な冒険者は様々な手を使って魔物の相手をするのだろう。ダンジョン用の道具も沢山使っているのが目に映る。メルは見たことのない手段をされると楽しそうにしている。

 それにしてもどういう手を使われても本能的に危険を察知して、すぐに対応していた。あとは罠みたいなのは無理やり壊していた。……ああいう道具ってちょっと高そうだけど、大丈夫かな。弁償が必要なら、払っておこう。多分、メルは何も考えずにただ戦っているだけだから。

 結局、メルが飽きて冒険者たちを気絶させるまでそれは続いていた。

「レオ様、ネノ様、しつこいから気絶させちゃった!!」

「お疲れ様」

「ん。お疲れ」

 メルが気絶させてしまった冒険者たちはそれから少しして起きた。

 メルの強さに感服している様子で、その後、何度もメルに戦いをせがむ様子が見られるのだった。




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