08
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「松浪さんはラインやってるかしら?」
「あっ、はい。やってます……」
ほとんど使う機会はないけど、スマホにアプリをインストールしていた。
お母さんとの連絡でメッセージをやり取りするくらいで、トーク相手になるような友達はいない。
「これ、私のID。後で登録してメッセージを送ってくれたら嬉しいわ」
そう言って宮園さんはラインのIDが書かれたメモ用紙を手渡してきた。
こんなことがあっていいのだろうか。何の努力もせずに彼女の連絡先を入手してしまうなんて。
「嫌なら無視してくれていいからね。そのメモも捨てておいて。強制するつもりはないの」
「……い、嫌じゃないです! 登録しておきます。メッセージも送ります。絶対にっ!」
「そう。ありがとう、松浪さん」
宮園さんが微笑む。
私はドキッとした。心臓が胸を突き破って飛び出すんじゃないかと思った。
「じゃ、また明日」
「あ……」
急いでいるのか、宮園さんは駆け足で去っていった。
呆気に取られていた私は彼女に別れの言葉を返すこともできないまま、その場に立ち尽くすのだった。
『よかったですね、紗友里さん! 宮園由利香さんの連絡先をゲットしちゃいましたよ』
今のは夢じゃないんだよね?
私は宮園さんと連絡を取る権利を得たってことだよね?
まだ信じられなかった。カースト頂点の宮園さんと底辺の私がスマホでメッセージをやり取りできるようになるなんて。
私、もうすぐ死んじゃうのかな?
『何言ってるんですか。まだまだこれからですよ。連絡先を手に入れただけで満足してちゃいけません。あなたが目指すべきゴールは彼女と結ばれることなのですから』
そっか。ようやくスタートラインに立ったところだもんね。
ここからどうやって宮園さんとの距離を縮めていくのか、しっかり作戦を考えなきゃいけない。
とはいえ、やっぱり嬉しい気持ちはとんでもなく大きかった。宮園さんの方から連絡先を教えてくれたということは、彼女が私に少なからず関心を持ってくれているということだから。
どうでもいい人や嫌いな人とわざわざラインをしようとは思わないはずだ。
そう考えると、私は頬が緩んだ。ニヤニヤが止まらない。
『紗友里さんが笑ってるところ、初めて見ました』
そういえば、私って普段あまり笑わないかも。
学校では誰とも話さないし、特に面白い出来事もない。
笑顔を忘れて生きている。それって、とても悲しいことだと思う。
『悲しい日常を明るい毎日に変えていけるといいですね』
宮園さんと仲良くなれたら、つまらない学校生活も楽しいものになるかもしれない。
憧れていた青春を掴み取る。
私は今、その一歩を踏み出したばかりだ。
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