04
感想をお待ちしております。
放課後になるや否や、私と宮園さんは教室から飛び出して、そのまま校舎を出た。
私たちはこれから彼女の家に向かう。今日の部活は部室ではなく宮園邸で行われることになっていた。そして、私は今夜、夕食をご馳走になり、一晩泊めてもらう約束までしているのだった。
校門の前に一台の黒い高級車がハザードランプを点滅させながら止まっている。私はそれが宮園さんを学校に送り迎えする車だと一目でわかった。車の隣にはメイド服姿で眼鏡をかけた見覚えのある若い女性が立っていたからだ。
「おかえりなさいませ」
深々と頭を下げて私たちを出迎えてくれたのは小田原麻衣さん。
彼女は宮園さんの専属メイドである。
「お迎えありがとう、麻衣さん」
宮園さんが笑顔で言う。
「あの、今日はよろしくお願いします……」
小田原さんに挨拶をする私。
「お荷物はこちらへどうぞ、松浪様」
彼女が車のトランクを開ける。私はそこにカバンを乗せさせてもらうことになった。
大きなカバンにたくさん詰め込んでいたので、とても助かる。
「見ろよアレ」
「すっげぇ。さすがお嬢様だな」
校門から出てきた生徒たちがこちらをチラチラと見てくる。
メイドさんと高級車の物珍しさに目を引かれている様子だった。
宮園さんがいつも高級車で登下校していることは、全校生徒の間でも周知の事実である。
しかし、実際にその場面に遭遇すると、やはり気になってしまうらしい。
宮園さんは金持ちの家の娘だ。容姿端麗で頭脳明晰。性格は穏やかで皆の人気者である。
これぞまさしく非の打ち所がないお嬢様だ。憧れの的になるのも当然だった。
一方でこの私は、まわりからどんな風に思われているのだろうか。
宮園さんと同じ車に乗り込む一般生徒。
こいつは一体何者なんだと他の皆は不思議に感じているに違いない。
「あの子誰なの? 宮園さんとどういう関係?」
「私も乗せてほしいなぁ」
周りの目から逃れたい私は、小田原さんに促されてそそくさと乗車した。
注目を浴びるのは嫌なのだ。あまり目立ちたくない。
「ふふ。松浪さんと一緒に帰るなんて、新鮮な気分ね」
続いて宮園さんが乗り込んできた。
彼女は私の左隣の席、小田原さんは助手席に座った。
「出してください」
小田原さんが言う。
「では、出発します」
運転手である中年の男性がハンドルを握りながら合図した。
車は緩やかなスピードで発進し、下校する生徒たちの横を通り過ぎていく。
彼らは徒歩や自転車で移動している。それを車で悠々と追い越していくのを見ると、何だか自分が特別な存在になったような気がした。
フカフカで柔らかい座席に背中とお尻が沈み込む。ああ、やっぱり高級車は乗りやすくていいなぁ。
私がこの車に乗るのは二度目である。前回は学校で粗相をしてしまった時だった。暗い夜道を一人で歩くのは危険だからという宮園さんの計らいで、自宅まで送ってもらうことになった。
あれが最初で最後の乗車になるかもしれないと思っていたけど、こんなに早く二回目の機会が訪れるとは……。
「松浪さん、飴食べる?」
座り心地を堪能していると、宮園さんが飴玉を一つ差し出してきた。
「あ、うん。いただきます」
私はそれを受け取り、包み紙から赤色の飴玉を取り出して口の中に放り込む。
甘くて美味しい。
でも食べたことない味だ。これはどこで売っているのだろうか。コンビニやスーパーの駄菓子コーナーには置かれていないだろう。ひょっとすると、お金持ちの人しか食べられない高級なキャンディだったりして……。
「美味しい?」
宮園さんが尋ねてくる。
「うん。私の好きな味だよ。何が入ってるの?」
聞いたことのないようなフルーツでも使われているのかな。
「さて、何かしらね」
彼女は意味深な笑みを浮かべながら、黙って私の手を握るのだった。
すると、次第に身体が熱くなり始める。
お腹の底からじわじわと何かが湧き出てくるような感覚だった。
あろうことか、なぜかいやらしい気分になり始めている。
いきなりどうしちゃったの? こんな状況で、私ったら……。
お読みいただきありがとうございます。
感想をお待ちしております。




